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まちづくりチョビット推進室
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まちづくりチョビット推進室

京都府地域力再生活動
京都三条ラジオ・カフェ(79.7MHz) にて、
『まちづくりチョビット推進室』という番組を下記の予定で放送中です。
放送日時は第3、第4土曜日(15:30~16:00)
(詳細はラジオカフェのページでご確認下さい)
『まちづくりチョビット推進室』は、
「京都市景観・まちづくりセンター」と、平成25年、26年度の間、共同企画で行っておりました。
   
  過去のアーカイブ(第1回~116回)はこちら をご覧下さい。(過去の記事のリンクについては切れている場合があります。ご了承下さい。)
 

最新記事

第190回 ・延べ15人の子どもが参加!~町家改修・誰でも左官workshp…

ラジオを開く

河: 河井 杏子 氏(京都市都市計画局まち再生・創造推進室)
絹: 絹川 雅則(公成建設株式会社)
           (河井 杏子 氏)

 

絹: 皆様こんにちは。そしてこんばんはかもしれません。まちづくりチョビット推進室の時間がやってまいりました。
この番組は地元京都の建設屋の目から見た元気なまちづくりびとのご紹介や、その活動の最新のエピソードをご紹介しております。いつものように番組のお相手は当まちづくりチョビット推進室 絹川がお送りいたします。
さて、本日のゲスト紹介です。河井杏子さん。まだ知り合って…、ふた月前ですかね?
河: そうですね。
絹: 河井杏子さんは京都市都市計画局の中のちょっとかわった部署、まち再生・創造推進室という部署があります。その中でも洛西SAIKO Projectの事務局をなさっています。確か技術系の?
河: はい、建築職です。
絹: 一級建築士?
河: ではありません(笑)。目指しています。
絹: 旦那さんは一級建築士事務所ということで、元々は建築事務所にお勤めで、京都市には中途採用ということで来られました。私とは役所の中のコミュニティナースのブレインストーミングミーティングみたいな勉強会で、初めてお会いした方です。河井杏子さん、よろしくお願いします。
河: はい、よろしくお願いします。
絹: さて、今日の番組タイトルなのですが、「延べ15人の子どもが参加!~町家改修・誰でも左官workshop…」と題してお送りいたします。
さて、リスナーの皆さん、河井杏子さんのゲスト出演、実は急に決まったんです(笑)。昨日、申し込みに行って、それもスマートフォンでフェイスブックを覗いていたら河井杏子さんの書き込み「町家左官workshopその3」という形で、ご自宅の町家を改修している写真が5~6枚出てきました。それも子どもたちがプロの左官屋さんと壁塗りをやっているところが出てきて、『なにこれ!』とピンと来て、「河井さん、これからちょっと時間15分いいですか?」と市役所のまち再生・創造推進室におじゃましたわけです。
私は感覚人間なので、理屈ではなく、なんかピンときた。なんかすごいことが京都の我々の周りで起きているみたいな直感からお呼びしたゲストです。ということで、河井杏子さん、よろしくお願いします。
 

■エピソード1 そもそも何が起こったんですか?

●なぜ町家に住むのか
絹: ではエピソード1から入ります。そもそも何が起こったのですかというところからお願いします。
河: なんで町家に住むのかということですかね。私たち家族4人暮らしなのですが、ずっと京都市内の賃貸マンションに暮らしていまして、子どもの成長と共にだんだん手狭になってきているので、将来も見据えて、どこかに引っ越したいな、できれば一軒家を持ちたいなというところで、2~3年かけて探していたのですが…。
絹: フェイスブックの書き込みで気が付いたのですが、河井杏子さんはお子さんたちのことを、そこでは1号2号と表現されていて(笑)。
河: 我が家の1号2号です(笑)。長男と長女で、今は中学校1年生と小学校5年生です。
絹: 1号2号というのが、お子さんたちのことだと気が付いて笑いました。その1号2号を引き連れて、「どんな所に住もうかね」と新居探しも一緒に連れて歩かれたそうですね。
河: そうですね。全部一緒に連れて歩きまして、たどり着いたのが明治36年築の今の三軒長屋の町家です。
 

●築120年の京町家に出会って

絹: さっき2人で計算したのですが、明治36年と言うと今から120年前と、結構古いですよね。
河: そうです。ただ、どんどん焼けというのが昔ありまして、そのどんどん焼けで一度焼けている地域になるので、京都の中で言うと割合若い町家になるそうです。先斗町など、どんどん焼けで焼けてない地域は、それこそ江戸時代からの町家が今も大先輩でシャキッと建っているので、町家から見たら、まだちょっと若いらしいです(笑)。
絹: ほう、「120歳と言うても、まだ若造でっせ」という古い町家がまだ元気なのが京都。先ほど二人で前打ち合わせで話していたのですが、やっぱりさすがご夫妻で建築の仕事をされているだけあって、「町家って、京都の財産だよね」みたいな共通認識をお持ちなんですよね。
でも120年経っていると、結構ガタが来ていませんでしたか?
河: でも前にお住いの方が、ちゃんと大切に使われていたという形跡があって、適切にメンテナンスをされているので、構造的に大事な部分というのは、すごく元気で大丈夫でした。
絹: 柱などの構造体の建ち直しとか、傾いていたものを大工さんに直してもらったりといったプロセスはありました?
河: ありました。
絹: 僕らの世界で垂直に戻すのを、「建ち直し」と言ったりするんです。私もちょっとだけ現場にいましたので(笑)。そういう柱の傾きを直したりするところ、お子さんは傍で見ることはできたんですか?
 

●古い町家に不安がいっぱいだった子どもたちは…

河: 直接見ることはできなかったのですが、一部ダメになった柱を入れ替えてくださった時、束石と言う柱を支えている石(有機的な形をしている)、ピタッと新しい柱の底の面をその有機的な石の形に削りながら、合わせて載せてびしっと柱を建てるというところは見せていただいたので、「神業だ」と言っていました(笑)。
絹: 1号2号のお子さんたち、長男さん長女さんが「すご!」て、言ってはったらしいですね。
選ぶ時から1号2号さんをお連れになった。買う前からずっとどこに住むのか、見ていらしたお子さんたち、御年120歳の京都の中では比較的若い町家、「ほんとに住めるの?」と言われたそうですね(笑)。
河: 「こんなん住めるの?」から「ほんまに買うん?」という(笑)、「今のままでも狭いけど、いいで」みたいな(笑)。かなり不安になっていましたね。
絹: そのお子さんたちが徐々に変化されていくのは、どういうルートを辿っていったのでしょう。不安でいっぱいだったお子さんたちがだんだん目の色が変わって行くのは、最初はどの辺からだったのでしょう。
河: 古い部分で再利用できないところを、一部解体して、実際に工事が始まった頃から、興味津々の目に変ってきて、何が起きるのか、次は何が起きるのかという興味に変っていきましたね。
絹: 今のそういうお話を聞いておりますと、お父さんお母さんの目論見はまっているんじゃないですか(笑)?
 

●子どもたちに建築の世界を体感してほしかった

河: そうですねえ(笑)。傍から見るとボロボロで、「どうするの?」というような町家を敢えて買った理由としては、自分たちが関わって来た建築という世界が、どんな世界なのかというのを、子どもたちに体感して欲しかったというのが、一番なので…。
絹: リスナーの皆さん、このご夫婦は自分たちの仕事をお子さんたちに伝えたい、どういう仕事をしているのか見せたいという強烈な思いに支えられて、子育てをされているようです。幸せなお子さんだなあと、今すごく思います。我々のように子育てをしてきた、あるいは現在子育てしていらっしゃる親御さんたちはどのように感じられますか。僕の子ども時代もそうでしたけど、『自分のお父さんは何しているんだろう』と。一応建設会社ですけど、いつもいないし、何しているのかわからない。家業ですので、大人になって会社に入って、上司として仕えて初めてなんとなくわかるとか…。
例えば河井さんは今、行政マンですので、役所には無茶苦茶種類がありますよね、行政の仕事って。そうするとお子さんたちが、まち再生・創造推進室など、想像できないですよね。そんななかで、ほんとにものすごく丁寧に関わっていらっしゃった建築という分野のあるべき姿だけではなく、職人さんたちのお仕事も今回しっかりと体感させられたわけです。左官屋さんは何とおっしゃいましたっけ。
 

■エピソード2 “誰でも左官ワークショップ”のこと

●子どもたち、やってみるか?
河: 宮部さんですね。
絹: 宮部さんという、この人もたぶん珍しいタイプの左官屋さんなんですよね。子どもたちが現場に入ってきて、「じゃまや!」とは言わない。「やってみるか?」と。動画もフェイスブックで見ました。
河: そうなんです(笑)。すごく丁寧に…。
絹: お若い社長さんみたいですね。左官業界も後継者と言うか、なかなか職人のなり手がなく、さらに左官屋さんが活躍できる工事現場が減ってきて大変な思いをされている中で、よく付き合って下さいましたよね。その左官屋さん宮部さんについて、少しエピソード追加でいただけますか?
河: 今回丸一日かけて、土壁を補修するということをやりました。土壁の下地になる「木舞(こまい)」と言う竹で編む下地もあるのですが、それも含めてみんなでやりたいと、宮部さんに相談したところ、「もちろんやってあげるよ」と、ご快諾いただいたわけです。どうしても日曜日に開催するしかなくて、本来ならば宮部さんはお休みの日なのですが、朝の8時頃から夕方の6時頃まで、ずっと現場に張り付いていただいて…。
 

●「木舞(こまい)」ご存じですか?

絹: リスナーの皆さん、「木舞(こまい)」というちょっとだけ専門用語っぽい言葉が出ましたが、ご存知でしょうか。竹を細く割いた棒と縄ひもで作りますので、「竹木舞」とも言います。私自身も建築の教科書で学生時代にチラッと見た程度で、自分でそれを編んだ経験はありません。ただ私の祖父母の家にはありまして、土壁が壊される時に中からそれが現れたとか、地震等の災害現場に入った時に、昔の伝統建築が壊れて現れたとか…。「でも思ったより耐震性能は高いんだよなあ」と、一緒に研究している人から教わりました。「木が舞う」と書いて、「木舞」。土壁の下地となるものです。それを子どもたちが編ませてもらったと。
河: はい、全部やりました。
絹: それを聞いて、ちょっとびっくりしましたね。
河: 私も宮部さんも主人も、ちょっと子どもたちには難しいかなと思って、当初は木舞は大人でやって、土壁の補修を子どもたちでやってもらおうかと話していたのですが、下は3歳から最年長は中学一年生13歳までの子どもたちでやってしまったんです。
絹: 1号ですね?
河: そうです(笑)。竹をそのサイズ(横幅・縦の長さの決まった細い竹)に切り出すところから全部子どもたちでやって、宮部さんに教わりながら編んでと、全部子どもたちでやっちゃいましたね(笑)。
 

●延べ15人の子どもたちで全部やっちゃいました!

絹: タイトルにもありましたが、延15人の子どもが参加と。これ、1号2号だけなら2人ですよね。あと13人はどこからわいて出てきたんですか(笑)?
河: 2つありまして、1つはプライベートの1号2号の保育園のお友達で、今は違う学校になってしまっている子たちです。もう1つは京都市役所の仲間で、同じまち再生の職員さん、それから庁内でイノベーションを起こす取組をされている“京都イノベーションスタジオ”という部署があるのですが、その取組の一環で形成されている庁内のワーキンググループのメンバーに声を掛けて、お子さんを連れて、もしくは単独で大人だけでという形で参加して下さいました。
絹: 私がついつい反応してしまいそうなのが、分野横断ワーキンググループ、名称は京都イノベーションスタジオ。それの主人公が葉山和則さんという人物なのですが、今、総合企画局で都市経営戦略室におられます。この方も2年前のこの番組、まちづくりチョビット推進室のゲストだった方で、色々ご縁を感じますが、まあ、葉山和則さんも面白い人物なんですよ。
で、それぞれの親御さんが「子どもたちに行かせる!」とばかりに、くっついて行ったわけですよね。さあ当日、宮部左官さんの休日にも関わらず、8時から夕方までみっちり子どもたちの左官ワークショップが成立いたしました。
 

●「絶対また来るから!」と帰って行きました

絹: 子どもたちの感想はどうでした?
河: もう楽しくて仕方がなくって、お1人の子はその日帰って、小学校の宿題の絵日記に、「今日は土壁やってきた!」というふうに書いてくださったようです。
絹: 絵日記ということは、夏休み?
河: いや、ではなくて絵日記が宿題として出ているらしいんです。だいたいみんな子どもたち、帰る時には「帰りたくない」と言ってくれて、「絶対また来るから!」と言って帰って行きました。
絹: 「また来るから…」それをいかに解釈するのか。タイトルでも申し上げました“誰でもワークショップ”、今回は宮部さんのご協力で、竹木舞を編むこと、土壁を塗ることだったのですが、まだ完成していない?
河: そうですね、まだ先は長いです。
絹: ということは、第二弾の“誰でもワークショップ”がありうるかもしれない。
河: しれません(笑)。
絹: さあ、どんな現地体験ワークショップになるでしょうか。また仕上げの段階に入っていくと、色んな事があるかもしれませんねえ。さあ、その河井ご夫妻の子育てに対するワルダクミが、着々と進行しているという臨場感を、リスナーの皆さん、お感じいただけたでしょうか。
先ほど、お聞きしておりますと、着々と子どもたちに色んな体験をしてもらいながら、住まいを完成させていくというプロジェクトの企て以外に、完成した後も何やらワルダクミをご夫妻は胸の内に秘めていらっしゃるという聞き込みがございました。完成予定が10月?
河: 目標は10月ですが、11月になるかなあみたいな。
絹: 職人さんだけに任せていたらある程度読めるけれども、そこに子どもが介入するとしたら延びる要素しかないじゃないですか(笑)。
河: まあ、こうなったら、体験を増やしていきたいと思います。
 

■エピソード3 まちに、地域に開く家にしていきたい

●「見世の間」を住み開く
絹: その完成した後の河井邸に関するタクラミについて、お話いただけますでしょうか。
河: 京都の町家には前の通りに面したお部屋に「見世の間」という場所があるのですが、私たちはその「見世の間」を地域に開けて、コミュニティの場づくりになるような場所にしたいと思っています。その「見世の間」でイベントをやるということだけではなく、我が家の「見世の間」に来られる、集われる方が、うちの町内や学区などの方々との新しい繋がりができたり、何か地域貢献・社会貢献ができるようなきっかけづくりの場になるような仕込みができればと考えています。
絹: これをお聞きした時に、壮大なタクラミやなあと思いました。「住み開き」という言葉を大切にしている人たちが、私の友達には多いのですが、実は大変なことです。昔から町家にお住まいになっている方は、自然と奥の間(家族のプライベート空間)と、見世の間、縁側のようにまちに対して住み開いていく(ここからは内、ここからは外みたいなのがちょっと緩む)ところがあったと聞いております。「見世の間」をまちに住み開くことで、ひょっとしたら町内会の寄り合いがそこで行われるかもしれませんし、極端な例ですけど、「子ども食堂をやりたいので、そこを使えませんか」とか、何か色んな人たちがやってきそうですよね。もう延べ15人、左官ワークショップで、年若いファンがついちゃったので(笑)。
河: そうですね。「また来るで!」と言われたので(笑)。
 

●住み開く活動のなかで、人との繋がりを学んでほしい

絹: こういうことが実際に起こっているんです。これはどうやら河井ご夫妻が設計事務所を営んでいらっしゃるという特殊事情とは言い切れないかもしれない…。
河: そうですね。建築って難しく考えられがちなのですが、結局は人と関わりながらでないと成り立たない職業でして、それって建築だけじゃなくて、私が今いる行政もそうなのですが、どんな仕事をしていても人と繋がりながら自分が生活していく、子どもを育てていくことなので、うちの1号2号にも見世の間を住み開いていく活動のなかで、人との繋がりを学んでほしいなというのも、1つの教育方針としてあります。
絹: リスナーの皆さん、これ本当に河井家の教育という通奏低音でありますけれども、自分のところだけではなくて、こういうお家ができると、そのエリアが少し変わるはずです。風通しが少しよくなって、居心地が少しよくなって、そしてある意味機械警備に頼らない、セキュリティ度もアップする、おせっかい指数が少しそのエリアで上がる。そんな気がします。
私の夢はコレクティブハウジングと申しまして、賃貸ベースですけれども、何軒かの家が関わりあって住まう暮らし方です。共同リビングなんかを介して助け合いが起こる、その結果第二子第三子が生まれやすくなるという実例が、日本でも関東圏で2000年初頭から1ダースほど出来ています。そういう実験がしたいなと言っておりましたけれども、まさにそれとこの河井さんたちの「どこでも誰でも左官ワークショップ」は似通っているというか、たぶん同じ通奏低音の上にある兄弟プロジェクトのような気がしてまいりました。
河: ありがとうございます。
絹: こういうプロジェクトは同時多発的にいくつもなんとなく発生して、それぞれのプロジェクトの主人公たちが何となく知り合いで、「あのプロジェクト、いいことやってるからちょっと真似しよう」とか「手伝いに行こう」なんてことが、今後起こってきたら素敵だなと思います。
この番組は心を建てる公成建設の協力と我らが京都市景観まちづくりセンターの応援でお送りいたしました。皆さん、注目してくださいね。
投稿日:2023/09/19

第189回 ・京都に若者子育て世帯が住む!まずは洛西から一気呵成に~「洛西SAIKO Project」

ラジオを開く

前: 前田 史浩 氏(京都市都市計画局住宅室長)
堀: 堀崎 真一 氏(京都市都市計画局まち再生・創造推進室都市の未来創造担当部長)
絹: 絹川 雅則(公成建設株式会社)
      (左:堀崎 真一 氏  右:前田 史浩 氏)

 

絹: 皆様こんにちは。そしてこんばんはかもしれません。まちづくりチョビット推進室の時間がやってまいりました。
この番組は地元京都の建設屋の目から見た元気なまちづくりびとのご紹介や、その活動の最新のエピソードをご紹介しております。いつものように番組のお相手は当まちづくりチョビット推進室 絹川がお送りいたします。
さて、本日のゲスト紹介です。このスタジオの本当にご近所さんからお二方お招きいたしました。京都市都市計画局まち再生・創造推進室、そして肩書がもう1つあって、都市の未来創造担当部長であられる堀崎真一さんです。堀崎部長、よろしくお願いします。
堀: よろしくお願いします。
絹: 堀崎さんとの出会いは本当に最近で、この4月の1日に東京からと言いますか、国交省から京都市にご着任されたと聞いております。ネットで堀崎真一さんという名前を見ますと、住宅局が長いようで、あっちこっちで講演をしまくっておられるようです(笑)。ですから皆さん、期待していてください!
それからお二方目のセカンドゲスト、同じく京都市の都市計画局からお越しいただきました。住宅室長の前田史浩さんでございます。
前: よろしくお願いいたします。
絹: 非常に熱い行政マンでいらっしゃって、私のような素人が議論をふっかけに行っても、ちゃんと聞いてくださるという懐の深いお方です。よろしくお願いします。
そして先ほどお二方と相談して決めた今日の番組タイトルを申し上げます。「京都に若者子育て世帯が住む!まずは洛西から一気呵成に~“洛西SAKO Project”」と題してお送りいたします。
リスナーの皆さん、“洛西SAKO Project”って、聞いたことがありますか?洛西ニュータウンで何かこれからすごいことが起こりそうで、ワクワクしております。そのことについて聞いた事のない人のために“洛西SAKO Project”について、まずは堀崎さんにまずはマイクをお渡ししますので、教えて下さい。じゃ、行きましょう!
 

■エピソード1 そもそも“洛西SAKO Project”って、なに?

●都市の未来創造担当は、こんなことを進める部署です
堀: まずは僕のポストについてお話したいと思います。都市の未来創造担当なのですが、この4月にできて、京都市の都市の成長戦略を実現していくという目標のためには何でもやるというポストになります。例えば、この4月に15年ぶりに都市計画の大幅な見直しをしたのですが、これをとにかく実現するため、ディベロッパー等に働きかけて、働く場所や住まいなどを生み出していくといったこと。さらに洛南新都でも産業の集積を進めるため、今、都市計画の見直しを進めています。その他、まちづくりのDXを進めるなど、色んなことをやるポストではあるのですが、その仕事の中の1つが、今回の洛西ニュータウンを始めとした洛西地域のまちづくりとなっています。
絹: なんでもやれとは、京都市さんもエラい注文を出しますなあ。
堀: 逆に自由を与えられているので…。
絹: 好きにやれみたいな部分もあるのですか?
堀: そういうことです。
 

●洛西地域のポテンシャル

堀: さて、“洛西SAIKO Project”の概要なのですが、洛西地域にまだ行かれたことのない方がいらっしゃるかもしれないので、簡単にご説明します。西京区にありまして、非常に自然が豊かな地域で本当にたくさんの樹木がある地域です。公園も非常に多くて、住環境が非常に良い、子育て施設も非常に充実した、洛西ニュータウンを中心としたエリアが対象になっています。
絹: 確かあの一角に日文研?
堀: あります。京都大学もありますし、学術機関は揃っていますね。
 

●洛西のまちづくりを次のステップへ進めるために

堀: この周りで近年、開発が進んでおりまして、京都の縦貫道も開通しましたし、阪急の洛西口もできましたし、JRの桂川駅も開業するなど、最近は非常に利便性も高まっているというエリアです。バス事業者も4事業者が走っていて、京阪、京都交通、阪急バス、ヤサカバス、そして市バスとすごい頻度で運行されています。非常にポテンシャルを秘めた地域ではあるのですが、例えばニュータウンで言うと、まち開きからもう40年が経過をしており、更新のタイミングを迎えているのです。ですからまちづくりをこれまでから次のステップへと進めて行く必要があるということです。
今回の“洛西SAIKO Project”は、この洛西地域の魅力をもっともっと高めるために、前提条件なく、あらゆる壁を突破して、一気呵成に施策を推進していこうと、全庁一丸となった取組になります。4月に本部会議を立ち上げて、これまで検討してきたのですが、7月27日に中間の取りまとめを公表しています。
具体的な中身について、詳しくはホームページを見て頂ければと思うのですが…。
絹: リスナーの皆さん、本当にぎっしり書いてあるので、その情報量を平仮名化して短くまとめるって、本当に難しいんですよね。本部長が“洛西SAKO Project”の坂越さんという副市長さんで、実はこのスタジオにも少し前に座っていただきました。
「どんどんやるからね!期待してよ!」と帰って行かれましたけれども(笑)。それを具体的に今日教えていただきます。さあ、どうでしょう。
 

●便利で賑わいのあるくらしのために

― タウンセンターリニューアル、サブセンターブラッシュアップ、建築ルールの見直し…

堀: まずニュータウンのタウンセンターにラクセーヌ専門店街という商店街があるのですが、そこを全面リニューアルします。
絹: 高島屋さんとかがある所ですか?
堀: そうです。そこが12月にリニューアルオープンします。それからニュータウンの中にサブセンターがあるのですが、サブセンターのあり方についても住民の方と議論していくということを開始します。
さらにニュータウン自体の都市計画を見直して、今まで住宅地には基本的に住宅ばかりだったのですが、そこに店舗や事務所が立地できるように、都市計画の見直しをして、住むだけではなく、働く場所や店舗などもうまくミックスさせて、暮らしやすいまちづくりをしていこうということで、団地の一階をリノベーションして、カフェや食堂にしたり、テレワークができるようなコ・ワーキングスペースを設けたりとか、そういったことができるように見直しを進めて行くというのが、例えば1つの取組の例です。
絹: やはり賑わい創出、まちに人がいる、お家から出てくるということは、一階部分に人が行きたくなるような、サードプレイスと言いますか、居場所と言いますか、「おいで!」「僕ら、行ってもいいのね」みたいな所、そういう所をたくさんつくろうという感じが含まれていますね。
 

●若者を呼び込む住まいづくりのために

  住みたい人はいるのに、住宅が足りない…

堀: さらに住まいづくりにも取り組んでいきたいと思っています。洛西地区の最大の課題は、住みたい方はたくさんいらっしゃるのですが、住めるような住宅があまり多くない、供給されていないということが課題としてありますので。
絹: 具体的に言うと、高いということですか。
堀: 高いし、空き家も実際にあまり多くないところはあるのです。公営住宅はあるのですが、それ以外の住宅ではあまり空きがないということです。
絹: 府営住宅もあるし市営住宅もあるし、それからURもあるんですよね。その辺り、だいたいどれくらい空いているんでしょうか。勝手なイメージですけど、10%や20%、ひょっとしたらもっと空いていて、割合お年寄りが住んでいる所が増えて、若い人が少なくなっているような、勝手な素人のイメージですけど、合ってます?
堀: 洛西で言うと、市営住宅・府営住宅はだいたい2割程度の空きがあります。おっしゃったように市営住宅で言うと、階段でエレベーターのない住戸では、上の方が人気がなくて、下の方にしかも高齢者がたくさんおられるという状況です。
絹:それを何とかリノベーションして、若い人に入ってもらおうという作戦が“洛西SAKO Project”の中には1つの柱としてあるんですよね。
 

●市営住宅を民間事業者がリノベーション

堀: そうです。市営住宅の空き住戸を民間事業者に貸し出して、民間事業者がリノベーションして、子育て世帯に貸し出すというような取組も1つありますし…。
絹: その時の大事な眼目として、若い人、子育て世代が入れるように安くしてよと。確か市長は、記者発表や取材の時に、「京都市は市営住宅の空き室で儲けようとは思わない。安く出すから、安くしてよ」と詰め寄られたという噂を聞くのですが(笑)、事実ですか?
堀: そこのところは詳しくは承知していませんが(笑)、やっぱり安く住んでもらうのは大事だと思っています。
それからもう1つは、市営住宅の間取りは割合昔の間取りで、部屋が多いというところがあるので、今回事業者さんで所謂3DKを2LDKに変えたり、もっと大胆に1LDKに変えたりとか、部屋を大きくして若者・子育て世代に入っていただこうという工夫をされています。
 

●“京女×UR”の成功事例から

絹: 堀崎部長は東京におられたので、京都女子大学の井上えり子研究室のことを、あまりお聞きになったことがないかもしれませんが、京女×URって、結構有名ではなかったですか?
堀: 東京でも有名ですよ。
絹: その結果なのか、洛西のURさんが管理している所は空きがかなり市営住宅・府営住宅に比べて少ないと。これは10年間かけて、京都女子大の学生さんたちがリノベーションの絵を描いたものが若い人に受けてという話を井上先生から聞いたことがあります。
堀: その通りで、90㎡くらいの部屋を1LDKで出したり、やっぱり人気なんですね。そこを見に来た人が、普通のURの住宅を見て、環境を気に入って、URの普通の住宅にも住むようになって、入居率が上がっているということで、相乗効果になっているようです。
絹: それを聞いてびっくりしまして、京都市、URに負けてなるものかですよね。今度の“洛西SAKO Project”は期待できるところですね。
 

●タウンセンターに 賑わい×マンションを誘導

堀: 市営住宅のリノベーションもやるのですが、それと併せてタウンセンターについても取り組んでいきます。一般的なタウンセンターは現状ではマンションは建てられないのですが、低層部に商業施設を入れればマンションもタウンセンターに建てられるようにしようと、都市計画の見直しもこれからしていきたいと考えています。
絹: 低層部に賑わい施設、人が寄って来るようなものをつけてくれたら上は人が住むようにできるよと、ニンジンをぶら下げたわけですね。
堀: いやいや(笑)、タウンセンターは賑わいも大事なので。
絹: タウンセンターは確か洛西ニュータウンは4学区あって、それぞれの学区に1つずつありましたっけ?
堀: それはサブセンターですね。タウンセンターは一番真ん中の高島屋がある所に1つです。
絹: 商業施設集積のタウンセンターで、高島屋さん、エミナースなどがある所ですね。
堀: エミナース、ラクセーヌ、高島屋さん、ニトリと、なんでもあります。
絹: おさらいしますと、タウンセンターにはラクセーヌさん、ニトリさん、高島屋さん、エミナースさんなどがある所で、サブセンターは学区のそれぞれの拠点となる公民館的なものという位置づけですね。
 

●ニュータウン内の住宅を買取販売

堀: 住まいづくりの面では、市の住宅供給公社が既存の空き家を買い取って、リフォームして売るという買取販売に乗り出したりとか…。
絹: 戸建て住宅なんかも、京都市の住宅供給公社さんが買うよと。そして流通するようにリフォームして、背中を押すよと。
堀: その他、今は戸建て住宅街は規制があって、あまり敷地を分割できない都市計画になっています。しかし今の若い世代はあまり広いお家は買えないし、そもそもそこまでの広さを求めてないので、必要であれば敷地も分割できるように規制も見直す必要があるかどうかを、住民の皆さんとこれから相談していきたいと考えています。
絹: なにか本当に、若者・子育て世代が住むんだというのが打ち出されていますね。
 

●公園の魅力アップ ― 遊具やトイレのリニューアル、公園の使い方もみんなで考えよう

堀: さらに公園が使いやすいと子育て世代が来てくれるということで、これまでも遊具を充実したりなど、進めてきたのですが、さらに遊具の更新をどんどん進めたり、トイレが古くなっているので、トイレのリニューアルも進めたり、公園にキッチンカーが出店したりなど、今まで公園でできなかった事もできるように、新しい使い方を、これも地元の人たちと相談しながらつくっていこうというのも今回の取組です。
絹: ソフト部分ですね。これ、建設局のみどり政策推進の連中が社会実験を少し前に仕掛けて、「公園で焚火したらあかんのか」みたいな挑戦をしたり、キッチンカーが来たりしていました。その社会実験が洛西に繋がるのかあ!なるほど。
 

●芸大跡地の活用へ

堀: それから芸大跡地がありますので、ここに新しい賑わいを創出すべく、あるいは雇用を創出すべく、早ければ9月に事業者の公募をおこなっていこうというのも、このプロジェクトの1つになります。
絹: リスナーの皆さん、今まで堀崎さんのお話を聞かれていかがですか?本当に一気呵成にできることをどんどんやっていこうぜという京都市の気概が伝わってきます。実はもっともっと細かいのがいっぱい下敷きとして手元資料のなかにもあるのですが、気になられた方は京都市のホームページ、“洛西SAKO Project”のところをお読みいただいて、できれば何かの形で関わって、あるいはタウンミーティング(僕もこの間、行ってきましたが)など、市民と行政との、あるいは地元の方との相談事がプラスアルファで進んでいくはずです。
 

■エピソード2 市営住宅の空き住戸を有効に活用したい

●市営住宅の目的外使用にチャレンジしています
絹: さあ、ではエピソード2ということで、今度は前田さんにマイクをお渡ししたいと思います。前田さんは何を語っていただけるのでしょう。
前: 私は市営住宅で空き住戸を有効に活用したいということで、少しお話をさせていただきたいと思います。
市営住宅は市内に23,000戸あります。もちろん住宅に困った方の住宅支援のためのセイフティネットの住宅ですので、その役割をしっかり果たすというのが、まず第一義です。
絹: もともと福祉目的住宅ですので、そこが一丁目一番地だと。だけどだいぶ空いてきたと。23,000戸のうち空きはどれくらいですか?
前: まず使えるのが1,000戸から2,000戸ぐらいあります。それを使っていきたいということです。この間、その空き住戸を使って、市営住宅以外の使い方、これを目的外使用と行政用語で言うのですが…。
絹: リスナーの皆さん、専門用語です。施設の目的外使用という言葉です。一般市民は別に覚えなくてもいいのですが、真面目な行政の方にとっては、施設の目的外使用というハードルは、実は高いもののようです。で、今回京都市さん、京都府さんは、そのハードルを越えられ始めました。覚悟を決められたと思います。それは国交省の後押しもあるんですよね。
前: その通りで、この間、子ども食堂とか、障がい者さんのグループホームといった使い方もさせていただいて…。
絹: 藤の木子どもキッチンだったかな。
前: よくご存じで(笑)。そのほかにも学生さんにも入居頂いているという状況です。
 

●3LAPARTMENT、覚えておられますか? ― 龍谷大学との連携

絹: このチョビット推進室の我が番組でも、3LAPARTMENTプロジェクトという、非常に勇気のある田中宮市営住宅での取組を取り上げました。龍谷大学の学生さんを7人だったか、月額2万7千円の低い家賃で入ってもらって、「君ら公共政策の学生なら、キャンパスだけが学びの場とは違うで。フィールドに入れ」と、田中宮で一緒に生活された素晴らしい実験についてお聞きしました。でもそれは初めてじゃないよと。もっと前にあるんだよと前田さんはおっしゃっていました。
前: まず田中宮で言うと、今もう始めて5年になります。学生も入れ替わって、実は京都に就職してくれている学生さんもいて、京都に愛着を持ってくれていることは、非常にうれしい成果かなと思っています。
 

●醍醐中山市営団地での取組 ― 京都橘大学との連携

前: それからその前に醍醐中山市営団地での取組もあります。醍醐駅の少し山手に行った所にある団地で、これも古い団地なのですが、距離的には自転車で20分の所に(区は変わって山科区になるのですが)京都橘大学があります。そこで大学と連携して、橘大学の留学生も含めた学生さんに住んでいただいて、一緒に地域の活動に参加するというのを、3LAPARTMENTの3~4年前から始めています。
絹: 結構古いですね、すごいなあ。それで団地のコミュニティを元気に持って行こうという実験が始まったわけですね。
前: この8月の終わりにも、橘大学の学生さんが中心となって、地元でお祭りをされると聞いています。これも非常にうれしい取組かなと思います。
絹: それで3LAPARTMENTのプロジェクトに繋がって、また西野山市営団地でも何かやらかそうとしておられますね。
 

●西野山市営住宅は京都市立芸術大学と連携します!

前: よくご存じで(笑)。西野山市営住宅では、団地の自治会の高齢化問題を解決したいと、これまで京都福祉サービス協会という所と連携をしてきたのですが、直近では京都市立芸術大学が京都駅の方に10月に移転してきますので、市立芸大と一緒になって学生さんに住んでいただこうという取組を始めようとしています。
絹: 漏れ聞く所によりますと、西野山の松尾自治連会長さんという方がすごく熱心な方でこの人のアイデアで「市立芸大来るやろ、西野山市営団地とバスで20分ほどしかかからへん。西野山に住んでもらえへんかな」とつぶやかれたそうです。それを拾われたのは前田さんですか?
前: 私らも全然知らなかったのですが、西野山市営団地にバス停があって、そこから十条トンネルを通って、十条を出て、ちょっと北の方に上がると、すぐに京都駅ということで、20分で繋がると。
絹: 十条トンネル、別名稲荷山トンネルですね。公成建設がメンテナンスのお仕事を頂戴しております(笑)。
その西野山で、福祉サービス協会の方々に2つの部屋をなんとかしてと京都市さんが注文を出されて、そこをボランティアの拠点やデイサービス拠点など、何かいい形にしそうなプロジェクトも動くそうですね。
前: そうです。地域交流拠点として使っていただけることになって、できればそこでも学生さんとの交流も深めて行きたいと考えています。
絹: ここまで背景をお聞きして、色々な実験的なプロジェクト、最初は醍醐中山、次が田中宮市営団地、西野山市営団地と、そこで培ったノウハウなんかのソフトを“洛西SAKO Project”につぎ込もうとしておられるように、素人からは見えてしょうがないのですが、その辺りはどうですか?
堀: そういうことだと思います。
絹: 僕、“洛西SAKO Project”のホームページや資料を読ませていただいて、割合ハードなところはパンと分かりやすくどんと出ているけれども、それを裏打ちするソフトウェアの部分の説明が少し薄いかなと思っていたら、そんなことはない、水面下でいっぱい隠してはりますやん(笑)。とまあ、そんな風に素人ですけど読めてしまいます。京都市さん、やるべきことはちゃんとやっておられますので、深掘りして調べてみると、「あんたらそんなことまでやってたん…」、と目が点になることが起こりそうです。
前田さん、続きはどうです?
 

●エッセンシャルワーカーの方たちを市営住宅に

前: 先ほど申し上げたのは今までやってきた事なのですが、元々市営住宅はやはり地域課題とか、社会課題の解決をしていきたいということで、実は今、エッセンシャルワーカーと呼ばれるような方々、保育士さんであったり、介護士さんであったり、そういった方々も市営住宅に入居できないのかということで、既に(水面下ではありますが)ニーズ調査も始めているところです。
絹:
私の議論相手である京都市の保育園連盟の会長さんである嶋本弘文先生の所に、前田室長と竹中係長が乗り込まれて、「どうしたら現実化できるかね」という相談を既に始めておられるそうです。
リスナーの皆さん、今までお聞きになっていかがでしょうか。先ほど図らずも私の口から出たように、ホームページで読み取れる以外に京都市さんは地道に色んな実験を何年にも渡って積み重ねていらっしゃいます。是非ご期待ください。
この番組は心を建てる公成建設の協力と京都府地域力再生プロジェクト、そして我らが京都市景観まちづくりセンターの応援でお送りいたしました。

 

投稿日:2023/08/22

第188回 ・路地の∞の可能性~新たなmain streamとして

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森: 森重 幸子 氏(京都美術工芸大学 博士(工学)・一級建築士 建築学部建築学科教授)
絹: 絹川 雅則(公成建設株式会社)
         (森重 幸子 氏)

 

絹: 皆様こんにちは。まちづくりチョビット推進室の時間がやってまいりました。
この番組は地元京都の建設屋の目から見た元気なまちづくりびとのご紹介や、その活動の最新のエピソードをお伝えしております。いつものように番組のお相手は当まちづくりチョビット推進室 絹川がお送りいたします。
さて、本日のゲスト紹介です。妙齢のご婦人をお呼びいたしました。京都美術工芸大学の建築学部の教授であらせられる森重幸子先生をお呼びいたしました。森重先生、よろしくお願いいたします。
森: はい、よろしくお願いいたします。
絹: 手元の資料で、先生の軽いプロフィール紹介をさせていただきます。京都大学工学部建築学科のご卒業です。そして同大学院の工学研究科を終了されて、設計組織アモルフという設計事務所で5年いらっしゃいました。たぶんこの5年間、思いっきりキツイ5年間だと思いますが、図面に埋もれていたという時期を過ごされた後に、もう一度大学に戻っていらっしゃいます。
先ほどの打ち合わせで、「そこで初めて路地の研究に接したのよ」とおっしゃっていました。先生の研究テーマのキーワードですけれども、「居住空間」「町家細街路」「歴史的市街地」「子育て住環境」「建築関連法規制度」等々であります。森重先生、この番組はゲスト使いが荒いと言ってませんでしたね(笑)。
森: 今、聞きました(笑)。
絹: こういう番組です(笑)。今日の番組タイトルとテーマをゲストの森重先生に言わせてしまおうと、今思いつきました。では先生、よろしくお願いします。
森: 先ほどちょっとご相談しながら決めたのですが、今日のテーマ、「路地の再生の∞の可能性~新たなmainstreamとして」というふうにしたいと思います。よろしくお願いします。
絹: ありがとうございます。「路地って、メインストリームになるで」という含意でございます。
それでは森重先生、エピソード1として、先生の研究テーマとか、自己紹介をさらに膨らませて頂きたいと思います。さあ、リスナーの皆さん、どういうお話が聞けますか、ご期待ください。
 

■エピソード1 路地の再発見とその魅力

●歴史的なまちの奥深さに惹かれて
森: ではちょっと自己紹介をさせてもらえたらと思います。私自身、今ご紹介いただいたように、路地や町家の研究を、ここ最近はずっとしているのですが、もともとは北摂の郊外のニュータウンで生まれ育ちまして、ニュータウンですので道と言えば4mはあるような…。
絹: 北摂?
森: 高槻市の北の方です。そこに成型の区画がずっと並んでいて、戸建てのお家や団地が建っているような所で生まれ育っていまして…。
絹: 京都で言えば洛西ニュータウンの戸建ての所を想像すれば近いですか?
森: そうだと思います。遊ぶと言えば公園か、家の前の道みたいな環境でずっと過ごしてきました。ですので路地に生まれ育ったわけではありませんが、研究しながら改めて、こんな面白いというか、こんな魅力的な場所があるのか、歴史的なまちというのは、本当に奥深いなと思って、惹きつけられたところがあります。
 

●まち歩きを大切にしています

絹: 先生の大学の学生さん向けの研究室紹介でも、僕の好きな言葉が躍っておりまして、「まち歩き」。僕の年代の、まちづくりというキーワードに引っぱられて仲良くなった人たちは、「まち歩き」がすごく好きな人が多いんです。まちを歩くことで得られる気づきというのでしょうか、我がまちの事を歩いてみるまでわからなかったことが、最近でもありました。だから森重研究室は学生さんとともに、実際にフィールドワークと言うか、まちを歩くことから大切にされているようなフシがありますね。
森: そうですね。私自身も振り返ってみると、大学生の時、まだ路地の研究はしてなかったので、京都で大学生活を過ごしていたのに、あんまりまちを歩いていなかったなというのは自分の反省なのです。今、私の研究室に来てもらう学生さんは、住宅に興味のある学生さんが多くて、しかも今私のおります大学は本当にまちなかにキャンパスがあるので、少し歩くと本当にまちの様子が見られるようなまち歩きができるのです。
絹: 京都美術工芸大学は川端七条上がるですね。
森: 川端沿いにあります。でも京阪の駅がすぐ近くですし、京都駅も近いので、電車に乗ってすぐ帰ってしまう学生さんは、本当に周りのことを知らない事もあります。でも特に私のゼミに来る学生さんには、京都のまちがどんな風になっているのか、実態として見られるので、一緒に歩いて回ることをよくやっています。自己紹介のはずが横道に逸れてしまいましたね(笑)。
 

●路地はワンダーに溢れた世界

森: そういう郊外ニュータウンで生まれ育ったのですが、大学で建築を勉強して、設計が好きだったので、設計の実務を覚えたいと思い、5年ほど設計事務所で、本当に先ほどおっしゃっていただいたように、ものすごく充実した、密度の濃い、楽しい5年間を過ごして、その後もう一度大学に戻りました。大学に戻ってから、ずっとお世話になっている高田光雄先生の研究室で、学生さんと一緒に路地の研究をするようになりました。そこでこんなワンダーに溢れた世界があるんだなというのを、改めて気づいたという感じですね。
絹: 改めて気づいたと今、おっしゃいましたが、京都の住人と言うか、長いこと京都に住んでいる人間も実はそのことに気が付いていない人が、一定数どころか、結構たくさんいるかもしれませんね。なんか、ワンダーという言葉が出ましたね。
森: 実際、調査をしていますと、やはり歴史が深いというのもあるので、実際お住まいになっている方自身も、良い面と課題を抱えている面と両方あるんだなということも思っております。
研究としては、まずはそもそもどのエリアにどんな路地があるのかというところ、例えば西陣や田の字地区に袋地が多いと。また西陣や朱雀エリアなどには通り抜けが多いという風な、場所によって少しずつ路地の性質が違うわけです。そういう路地に対して、建築基準法上、元々制限がありましたので、手を入れられずに空き家になったり、老朽化してしまうことも、これまでは問題としてありました。
 

●京都には様々な路地があります

絹: ちょっと復習させてください。袋地が多いのはどこですか?
森: 田の字地区はやはり袋地が多いですね。碁盤の目に入っていくような短いものが。
絹: 路地と言っても色々パターンがあるよと。袋地が多い所、それから通り抜けできる路地。
森: 大正や昭和のあたりに京都のまちが拡大していきますけれども、いわゆる御土居から少し外側に拡がっていくエリアに、通り抜けられる道が多かったりしますね。
絹: 路地にもいろいろあるよということですね。
そしてまちなかを歩くなかで、路地を歩いてみて、ワンダーというか、「わあ、すご!」と感じられたと。例えばどんなワンダーをお感じになったか、教えていただけますか。
 

●路地に入ってみると、思いもよらない景色が広がって

森: あの狭い道を歩いていると、急に風景が変ったりとか、急に大きな木が突然あったりとか、植木鉢とかそういったものが色々出ているというところや、お地蔵さんはもちろん、お稲荷さんだったり、「あ、こんなところにこんな」というものがあって、そこに普段から人の息づかいがある。入ってみないと気づかないというか、表の道を歩いていたら通り過ぎてしまうような所も、入ってみると思いもよらない景色があるというのが、本当に…。
絹: そうですねえ。市内でも車で移動して通り過ぎているだけだと、細街路の中、空気は肌ではわかりませんよね。入り込んでみて、「えらいここ居心地がいい、こんな道通るの初めて」みたいなことありますものね。
 

●生活空間だからこその魅力

森: かと言って、外からの人がどんどん入って行っていいわけでもない。やはり生活空間としてある所なので、お住まいの方がいらっしゃって、そういう場所が使われているという状態がまちとして魅力的なところだと思うので、特に今、観光客の方々がたくさんいらっしゃる時に…。
絹: 「ズカズカと入っていい場所ではないのをわかってる?」みたいな空気感と、かつてオーバーツーリズムが危惧された時には、路地の入口に、観光客向けに「ここで写真を撮らないで」というメッセージを出されている所もありました。だから「すみません、こそっと通るので、静かに通るので、通らせてください」みたいな姿勢が要るのかもしれませんね。
森: ちょうど都市空間から繋がっている場所ということで、都市に奥行きを与えてくれる魅力的な場所なのです。一方でパブリックとプライベートの境目と言うか、中間的な場所で、生活空間であることがやはり魅力的なところかなと思うので、そういうのを大事にしながらというのは重要だと思います。
絹: 自己紹介のはずが、私が不規則な質問を発するものですから、横道に逸れてしまいましたが(笑)。手元の資料の膏薬の辻子、私も好きな場所なんですが、ここについて何かコメントありますでしょうか。
 

■エピソード2 路地空間を守るためのルールづくり

●膏薬の辻子をご存知ですか?
森: 研究しながら、実際に路地再生の改修のプロジェクトに関わっております。今言っていただいた膏薬の辻子のような路地というか、狭い道、辻子のまちのまちづくり活動にも関わらせていただいて、長く、もう10年以上通っているような所です。
絹: リスナーの皆さん、膏薬の辻子って土地勘ありますか?何て説明しましょう?
森: 四条烏丸の少し西側でして、新町と西洞院の間、四条通に直接つながっている、四条から綾小路にかける通りです。狭い道の中でも、特に古い歴史のある平安時代の終わりくらいからあると言われる道です。そこが四条通に直接面しているので、元々高さ制限が31mの区画にすっぽりと含まれている状態だったんです。ただその狭い道に面しては、町家、長屋が軒を連ねて、すごく素敵な町並みが残っている場所だったんです。そこが31mの高さ制限ですと、外側の道と一体になって、31mいっぱいの建物が建ってしまう。元々45mが31mに下がったのですが、それでも31m、10階建てが建てられる区域になっていまして、なんとか二階建の町家が並んでいる所には、それに合わせたまちのルールがなんとかできないかということに取り組んでいまして…。
絹: それが地区計画と呼ばれる手法なのですね?
森: そうです。
絹: こういう都市計画の用語をご存じないリスナーのために、あえてこの地区計画というものを説明すると、どうなりますでしょう。
 

●地区計画とは、その地域だけのルールづくりです

森: 建築基準法上は都市計画と連動して高さが決まっているのですが、地区計画のエリアを決め、その地区だけ特別に高さ制限なり建物の形態の制限を変えるということができるのです。
絹: その用件で必要なのは、地域の人たちの合意。
森: 色んな手法があるのですが、京都の場合は地権者の方皆さんに納得いただいてということが必要です。そのうえで京都市が条例を設けて、都市計画審議会で審議をした結果、OKが出ると拘束力がある形でそこだけのルールができるというものです。
絹: それが10年かけてできてきたおかげで大変素敵な膏薬の辻子空間が残っていますし、一般の人たちが入れるような色んなお店もできてきているようです。
森: 31mだったのが、今は12mまで高さ制限が下がったということと、道が前までは4mに広げないといけない状態だったのが、2.7mで3項道路に指定されています。
絹: 3項道路、ちょっと専門的になってしまいますが、押さえておきたいところです。4mに広げなければいけなかったのが、2.7mでオーケーにしようと。
それで私、道路建設業協会の会員の立場から言いますと、膏薬の辻子の舗装について提案をいたしまして、御影石風(タイトルがあまりよくないのですが)、保水性舗装で、アスファルトでつくるのだけれども、セメントミルクを注入して保水材を入れているがために、石畳にちょっと見えるけれども、石ほど高くなくて、保水材が入っているので、打ち水をした水が浸み込んで、それが気化熱を奪って、夏の間少し涼しくなるみたいな、そういう機能の舗装を施した場所なんですよね。
森: そうです、そうです!
絹: それに我が道路建設業協会の技術積算委員会がタッチしています。門川市長、好きそうですものね、打ち水(笑)。
森: 舗装記念事業の時も市長が来て下さって、歩き初めをしていただきました。
絹: そういう色んな路地の研究に関わってらっしゃる森重先生ですが、無限の可能性のあたりをお話しいただけますでしょうか。
 

■エピソード3 路地の再生による無限の可能性

●路地の再生とは ― 繋げたり、隣に抜けたり
森: 元々町家は、通り庭があって、部屋が並んでいて、それによってすごくフレキシブルに使えるようになっています。路地再生というのは、路地に沿って複数のお宅を一体的に計画して新しく使うことをそう呼んでいて、そうすると路地を介して複数のおうちを一体的に繋いだり、隣に抜けられるようにしてみたり、本当に色んな使い方の可能性がでてくるわけです。実際にそういったことをされている事例が、このところ増えていて、最近も記事に書いたりしております。本当にどんどん路地や町家がなくなっていくのですが、是非そうしないで、無限の可能性のある資産として、うまく使っていくことができるんじゃないかと思っています。
絹: 色んな可能性を秘めた路地再生の事例、パターンがたくさんあるよと。その中でも代表的なものをご紹介していただけませんか。
 

●“五条坂なかにわ路地”の事例

森: 私自身が関わってさせていただいたのが、“五条坂なかにわ路地”です。こちらは本当に袋地なのですが、元々環境条件の良い所で、それをうまく使って子育て世帯が新たに住んで、路地の良さを活かしながら子どもが遊んでいてというふうな、世代を超えて繋がっていくという事例ですね。
絹: なかなか言葉で表現しにくい部分があるのですが、かつては袋地の奥や路地の奥は再生はムリ、潰して駐車場にしたらとか、あるいは新しく建て替えるしかないよというのが、我々建設屋の常識だった時代があります。
これ触れるとややこしいのですが、細街路条例という2012年以降の条例が色々整備されていくことで、今先生がおっしゃったような路地の再生に色んな可能性が出てきたよと。それが先生の研究テーマの中心の1つでもある。ですから路地に注目して!というところですよね。
もうちょっとこの辺の無限の可能性について、ご説明いただけますか。路地を伸ばす、繋げるとか。
 

●“もみじの小路”の事例

森: 例えば『京都だより』でもご紹介させていただいている“もみじの小路”、これは京町家再生研究会の皆さんがされている事例なのですが、単に袋地を繋ぐだけではなく、袋地と町家の通り庭を使って、さらに庭部分も繋げることで、それまで行き止まりだったところが、通り抜けられるようになるというすごい事例があります。
絹: オリンピックの体操競技で言うと、ウルトラCとか、ウルトラDとかそんな感じじゃないですか。
森: やはり行き止まりの不安を色んなやり方で抜けられるようにということです。特に緊急時だけでも抜けられるようにとか、建築計画的に色んな可能性があるなと思います。
絹: 路地には再生の無限の可能性があるよと。そして京都は日本全国どこにも路地はあるけれども、周辺地区に路地があるのが普通で、京都のように政令都市クラスの都市で、その中心部に路地がデーンと大きな顔をして、でも大切な機能を持ったまま現在に至るようなところは他にないというのが、森重先生の御主張の1つかもしれません。
 

●路地サミットを10月7日(土)8日(日)、京都で開催します!

絹: ここで告知です。「京都路地サミット」。
森: “全国路地のまち連絡協議会”さんが、これまで各地で路地サミットを開催されてきましたが、今年は「路地サミットin京都 2023」と題して京都でやりましょうということになりました。10月の7日(土)8日(日)に開催されます。7日(土)にシンポジウム、8日(日)に関連のまち歩きなどを企画しようとしております。そこでは今、お話したようなことも少しお話できたら、また色んな方が関わっている京都のまちの路地の面白さや多様性が見られたらいいかなと思っています。
絹: ちょっと時間が足りなくなってしまいましたが、また森重先生には再度ご登場願うこともあるかもしれません。路地サミットの報告なんていうのもね(笑)。
この番組は心を建てる公成建設の協力と京都府地域力再生プロジェクト、そして我らが京都市景観まちづくりセンターの応援でお送りいたしました。
投稿日:2023/07/24

第187回 ・住みたくなる京都の町へ「ヒタすら、ヒタむき」に応援します~竹内局長に聴く!

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竹: 竹内 重貴 氏(京都市都市計画局長)
絹: 絹川 雅則(公成建設株式会社)
            (竹内 重貴 氏)

 

絹: 皆様こんにちは。まちづくりチョビット推進室の時間がやってまいりました。
この番組は地元京都の建設屋の目から見た元気なまちづくりびとのご紹介や、その活動の最新のエピソードをお伝えしております。いつものように番組のお相手は当まちづくりチョビット推進室 絹川がお送りいたします。
さて、本日のゲスト紹介ですが、前回の坂越副市長さんに引き続き、京都市の都市計画局長であらせられる竹内重貴さんがご登場です。竹内局長、よろしくお願いいたします。
竹: どうぞ、よろしくお願いいたします。竹内です。
絹: ちょっと茶目っ気を出し過ぎまして、竹内さんや坂越副市長に、「コミュニティFMの番組をやっているんです。もしよろしければ」とオーケーされるはずないと思って言ってみたら、えらいことになって、本日の御出演を迎えております。リスナーの皆さん、ご期待ください。
竹内重貴さん、2022年の7月に京都市にご着任されています。もともとは2000年ぴったりに国交省に入省、その後は海外に飛ばれていて、2004年から2006年ニューヨークのコロンビア大学とシカゴのノースウェスタン大学にそれぞれ留学されています。その後、中部地方建設局に2007年から2008年おられて、その次が山形県に出向されています。2010年から2013年、山形県では交通や企画分野の御担当、中部地方建設局ではまちづくりの御担当ということです。
この間番組の準備も兼ねてお部屋にご挨拶に行ったら、時間を取って色々議論に付き合ってくださって、非常に気楽におしゃべりしてくださる局長さんです。びっくりしています。ということで、ゲスト紹介はこれにて切り上げて、さあ、まずは大切な今日の番組タイトルです。この番組はゲスト使いが荒いって、知ってました(笑)?
竹: いやあ、そうかなあと薄々感づいてはいたのですけど(笑)。
絹: ではゲストの竹内局長に今日のタイトルコール、まずお願いできますか?
竹: はい。では今日のタイトルは「住みたくなる京都の町へ「ヒタすら、ヒタむき」に応援します~竹内局長に聴く!」と、こんな感じでよろしいですか(笑)?
絹: ありがとうございます。僕は感心しております。令和5年4月の市長の記者発表を参考データとして持っておりまして、『若者・子育て世帯の「京都に住むっ!」を、「ヒタすら、ヒタむき」に応援します!』という資料です。まあ珍しい記者発表資料だと思いますが、この「ヒタすら、ヒタむき」というキーワードを考えられた方を、じょうずやなあと思っています。
        (京都市HP【広報資料】より)
 

■エピソード1 若者・子育て世代への「ヒタすら、ヒタむき」応援メニューとは

●若者・子育て世代に住んでほしいから
絹: さて、竹内さんにマイクをお渡しして、まずエピソード1から入っていただきます。このメニュー、京都市さんは全国初の作戦を次々打つぞ、期待してねと坂越副市長が前回おっしゃいました。そのことの概要説明をざっと竹内さんの口からもお願いできませんでしょうか。
竹: 京都市は、大学に進学してこられる若い方、市の人口の約1割が大学生です。ただ、その若い方、あるいは子育てしようとしている方、就職する時、あるいは結婚する時、あるいは子育てする時に、せっかく京都に住みたいと思っていても、京都以外の所に住むという方がかなりの数いらっしゃるのが現状です。そうした若い方、子育てしたい方の「京都に住みたい」という思いに京都市でも応えられるように、全国初となる取組を始め、色んな住まいの取組を全面的に展開していきたいというのが、若者・子育て世代への「ヒタすら、ヒタむき」な応援メニューなのです。
皆さん、色んな住まいの選択肢があると思います。新築に住みたいという人もいれば、新築よりももう少しお手頃な既存の住宅(中古住宅)、それからなかには最近はおしゃれなリノベーション物件なども出てきています。そうした皆さんの住みたいニーズごとに、京都市として応援するメニューというのを、この4月に打ち出させていただきました。
 
        (京都市HP【広報資料】より)
 

●今回の住宅政策、その画期的な内容とは

竹: ポイントとなりますのが、まず全国初の取組になるのですが、京都市の市営住宅が全部で23,000戸あって、その中で活用可能な住宅が1,000戸あります。その1,000戸の中からお勧めの市営住宅の空き住戸を若い方、あるいは子育て世代向けの住宅として使うということを、全国初めての取組としてこれから始めようとしています。
それから京都と言えば路地ですが、京町家や路地奥の住宅も住まいやすく、あるいは空き家の利活用、それからマンションも管理をしっかりして、安心して住み続けられるような取組、さらにマンションをライフステージに応じて売るという場合も、きちんと管理してその価値が保たれるようにする取組をしていこうと思います。
それから新築の住宅もお住まいになりたいと思っておられる方もいらっしゃると思います。そうした方にたくさんの住宅をお届けできるように、都市計画を見直したり、建築の特例などもリニューアルして、景観は堅持しながらも、特に市の駅に近い人気エリアを中心に見直しを今進めてきたところです。
絹: ありがとうございます。ざっと概要説明を竹内局長にしていただきました。そこで絹川くんは勝手にこの中から自分に響くところを少し聞かせていただきたいのですが…。
竹: 全部響きませんでしたか(笑)?
 

●身近な若者世代がどんどん流出していく…

絹: 中でも特に響くのが市営住宅の空き住戸というところ、さらに空き家、路地奥、既存マンションも結構響きますよね。で、市営住宅の空き住戸を若者・子育て向け住宅に活用というのは、この中でも「全国初」と色も変わっていますし、1,000戸ということですよね。
ここで悲しい実体験を少しお話しますと、うちは、お仕事で保育園を結構建てさせていただいているんです。門川市長の待機児童ゼロ政策に協力して、私のお得意様である保育園の園長さんも園を増強したり、増築したりして、協力をしていらっしゃったのですが、ある時ご挨拶に行ったら、「絹川さん、聞いて!うちは人気のある園なんだよ。でも中京区や下京区や南区の園から期の途中で若い夫婦が市外に引っ越していかれるのよ」と。つまり園をやめて行かれるわけなんです。理由を聞くと、「土地が値上がりしたり、マンションが値上がりしたり、賃貸が値上がりしたりして、若い人が住みにくくなっているから、門川さんに言って!」とおっしゃったものだから、「私は門川市長の友達でもなければ、知り合いでもないので、勘弁してくださいよお」と言ったのですが、事程左様に中心市街地からの若年層の流出というのはあるようです。
これも実体験です。私は研究者ではありませんので、統計データは持ちませんが、不肖絹川くんの息子も、先般めでたく、悔しいことですけど、亀岡市民になってしまいました。「なんで初孫に会いに行くのに、亀岡くんだりまで行かなあかんねん!」と言って、自分で膝を叩いて悔しがっていますけど、やっぱり京都近隣の都市、滋賀県もあるいは亀岡市も向日市も色んな所が若者の誘導政策を工夫して競い合っているところがあります。京都市民としては悔しい思いでいっぱいです。ですからこの空き住戸、今まで市営住宅ってなかなか施設の目的外使用というハードルがあって、こういう風に使えなかった事を「1000戸使うぜ!」と宣言されたことに対して、大拍手でございます。
竹: ありがとうございます。
 

■エピソード2 応援メニューの進捗状況をご紹介しましょう

●水まわりを中心にピカピカに改装して、お手頃価格で提供します
絹: 今、メニューの概要をざっとご説明いただきましたけれども、現在の進行状況を、象徴的なエピソードとか、いくつかありましたら、お話いただけたらと思います。今年度は初段がもう募集が始まっていたりするんですよね。
竹: そうなんです。実際の市営住宅の空き住戸を民間の不動産会社の人にリフォームしていただいて、他の市場の家賃よりもお手頃な家賃で提供します。リフォームする時も若い方、あるいは子育てする方にとってポイントになるのは、キッチン、お手洗い、バスといった水まわりですので、水まわりを中心に新築みたいにピカピカに改装して、手ごろな家賃で住んでいただくということを考えています。
絹: リスナーの皆さん、今「手頃」とおっしゃいました。要は市価よりも割安に、そういう設定にしてねと。そしてもっと大胆に言えば(京都市に成り代わり、勝手に想像してしゃべりますので、もし僕が誇張しすぎていたら修正をお願いしたいのですが)、「どうせ空き家なんや。そこからは家賃は空いたままなら取れへんねん。京都市はここで儲けようとは思てない。だから市価よりも安いところで、民間の人たち、それだけは頼むで!活用してよ!」という感じの勢いを感じますが、ちょっと超翻訳しすぎましたか(笑)?
竹: いやいや、そんなことないです。京都市としては、京都市の儲けは度返しで、民間の不動産会社の方にそれぞれ素敵にリフォームしてもらって、そのリフォーム代は家賃で頂くのですが、ただやはり元々市営住宅は既にあるものなので、他と比べて少し安めに、お手頃な家賃で提供できるという仕掛けなんです。
 
          (京都市HP【広報資料】より)
 

●京都市が全国を引っ張る気概で

絹: これ本当に、実は官の側からしたら、ある種勇気の要った一歩ではなかったかなと想像するのですが、大変ではなかったですか?国との交渉とか。
竹: そうですね。やはり若者・子育て世代、特に少子化対策というのは国にとっても最重要課題なんです。ただ一方でどうしても我々市役所の人間からすると、前例がないというのが不安になってしまうんですね。ただそこは京都市が全国で初めてやる、そして京都市が全国を引っ張っていく、そうした気概で国とも交渉しましたし、今回新しくこうやって全国初のものとして打ち出す。やはりそれだけ京都として熱意を持っているんだというところを、皆さんに受け止めていただきたいなと思っています。
絹: ここは本当にパンチラインだと思います。真面目な行政の官の方ほど、施設の目的外使用、許可というのがハードルになられたと聞きました。実際に数年前ですけれども、京都府の建設交通部の住宅課の皆さんと空いている府営住宅、七百数十室を利活用してくださいというお願いをしに行ったことがあります。「いきなり言われても…。超えていかなければいけないハードルがあるんです」とその当時はためらわれておられました。それを京都市はこの度ためらいを捨てられたということで、大拍手を送りたいと思います。
 

●市営住宅の空き住戸政策、エッセンシャルワーカーも対象になりませんか?

絹: さあ、その先どうなるのというところもお聞きしたいですけれども、「市営住宅、こんなふうになったらいいのにな」という勝手な素人のアイデアを竹内局長にぶつけてみて、どんな反応が返って来るか、ちょっと聞かせて頂こうと思います。
これは本当に素人発想です。京都保育園連盟の会長を務められる嶋本弘文先生、お坊さんで山科で安朱保育園という、ウェイティングリストができるような人気の保育園を運営されている先生がおられます。私みたいな素人の議論に付き合って下さる珍しい方なんですけど、2人で市営住宅のことを話していた時に、「京都で保育の仕事をしたいと思って、園に連絡してくれるような保母さん候補がいるとするやん。初めにどんな質問が来るかと言うと『社宅ありますか?』の次が『住宅手当は?』と来る。そんなに市営住宅が空いているならば…。現役の保母さんも保母さん候補もエッセンシャルワーカーの一員であるし、ケアギバーの一員でもあるわけで、彼らが園に近い、空いている市営住宅に市価よりも安い家賃で、社宅替わりには入れたらいいと思わへんか」と、そんな話をされました。こういう保育現場の団体の長の方が呟かれたことに対して、竹内局長はどう思われますか?
 

●エッセンシャルワーカーの方々にも、若者・子育て世代にも、これまでにない住まい方を

竹: これまた興味深いというか、前向きな提案だと受け止めています。市営住宅というのは、元々家にお困りの方のための住宅としてつくったものですから…。
絹: セイフティネット、福祉目的住宅だったのですよね。そもそもが。
竹: ですからそうした福祉目的の住宅、これはもちろん確保する必要があるのですが、ただ一方で今の23,000戸の中でそうした福祉目的で使う分を除いても、やはり現況で1,000戸くらいは市営住宅の本来の目的以外で使える余地があると見ています。そうしたところを、今おっしゃったようなエッセンシャルワーカーの方々のための住宅とか、先ほどご紹介した若い方、子育て世代向けの住宅とか、これまでにない新しい住まい方をして、せっかく市営住宅としてつくった建物があるわけですから、そこを徹底的に有効活用していきたいなと思います。貴重なご意見ありがとうございます。
 

●地域と入居者を結ぶ協定書を

絹: わあ、力強いコメント、ありがとうございました。で、プラスアルファ嶋本弘文先生と議論した続きがあります。
「ただ安く入れるだけじゃだめじゃないですか?」とこれは絹川くんの意見ですが、「公営住宅はどこも恐らくは高齢化が進んだりして、自治会運営がしんどくなったりしていますよね。ですからもし保母さんや看護婦さんだとか、介護職の方などがお入りになったら、それぞれお仕事はしんどいけれども、少しだけ地域のコミュニティに自分たちならこういう貢献ができますよみたいな、そういう一項が保育園連盟と京都市の間で協定書のような形で入り込むと素敵だと思われませんか」みたいな、いらん提案をしたんです。あるいは建設業の人間もエッセンシャルワーカーの端っこの方にいると僕は思いたいのです。というのは災害の時に出動したり、がけ崩れや大水の時に行ったりしますから。そういう職種の人たちも、職住近接で緊急出動しやすい京都市の内側の方にいてほしいなと思うんです。
で、そんな条件をつけて、各団体の長と京都市の市長さんなのか、副市長さんなのか、はたまた竹内局長なのか、協定の文書に調印がされました、新聞記者がフラッシュで、パシャパシャと撮っている場面を、僕は夢想をしております。
竹: 絹川さんの中で、もう話がどんどん進捗していますね(笑)。
絹: でもこれを実際に都市計画局の係長級の若手の耳元に「おっさん、こういう風に思うんやけど、なんとか頑張ってくれへん」みたいなつぶやきを続けております。だから竹内局長にこういうお話をして、実現にちょっとでも近づくとうれしいなと思っております。
 

■エピソード3 洛西“SAIKO”(さあ、いこう)プロジェクトとは

●実現する数々のプロジェクトを、一気呵成に進めます
絹: それから洛西ニュータウンでも何かやるぜみたいなことをチラッと先ほどの打ち合わせでおっしゃっていました。それについてもコメントをお願いしたいのですが。
竹: はい。洛西ニュータウン、それから洛西エリア、桂坂など洛西地域全体の未来をつくっていこうというので、「洛西“SAIKO”(さあ、いこう)プロジェクト」と銘打って、洛西の未来へ進んでいくプロジェクトを進めております。
絹: 最近の京都市のネーミングセンスがすごいブラッシュアップされているような気がしますが、気のせいでしょうか(笑)。
竹: やっぱり新しく、そして前向きに、そしてヒタむきに、京都市も進んでいこうということで、ネーミングなんかもこだわっています。
絹: こぼれ話というか、内緒話の1つですけど、行政の友人から、特に都計局の連中から聞きますと、プレゼン資料とか、パワーポイントのスライドをつくるでしょ?そしたら局長自ら手を入れられて、直されるそうです(笑)。ですから今の「洛西“SAIKO”(さあ、いこう)プロジェクト」、陰でネーミングを付けたのはこの方かもしれません。未確認情報でした(笑)。
竹: 「洛西“SAIKO”(さあ、いこう)プロジェクト」は違います(笑)。市の職員有志からの提案で、「これ、いいね」ということでみんなで決めたのがプロジェクト名です。「さあ、いこうプロジェクト」では、洛西のタウンセンターをもっと活性化しようとか、洛西の住み方を、もっといろんな若い方、子育てする方に住んでいただこう、市営住宅、府営住宅、それから戸建て住宅の所ももっと住みやすくなるような環境づくり、それから交通ネットワークについても、より使いやすい、皆さんにとって便利なネットワークにしていきたい。そんな諸々のプロジェクトを一気呵成に進めます。この夏にはこんなことをしますよというのを出して、いつからではなく、今からでもできることはどんどん進めて行く、要は実行型、アクション型のプロジェクトをまさに現在進行形で進めています。ご期待ください。
絹: 今年は実行段階だよと。プランだけの段階ではないよとおっしゃっています。期待しましょう。
先ほどのコメントの中に市営府営という言葉に引っかかったのですが、やはり洛西のなかにも府営もあるわけですね。ということは府市協調と、知事さんと市長さんがよくおっしゃいます。それが形になりそうな勢いです。夏以降、是非リスナーの皆さんもこの辺りにご注目願えればと思います。
        (京都市HP【広報資料】より)
 

●全国に先駆けたプロジェクト、注目しましょう!そしてご一緒に取り組みましょう!

絹: 今までお聞きになっていて、いかがでしたか?住みたくなる京都の町へ。「ヒタすら、ヒタむき」に応援します。これ、掛け声だけでは、どうやらなさそうです。我々京都市民の1人ひとりも京都市さんが都市計画局を中心にどういう風に実行段階に入られるのか、是非注目していただけませんか。そして自分なりに手伝えること、何かないのかなあと、僕がこのラジオを収録することを思い立ったのも、私がほんの少しだけお手伝いできることって、これくらいなんですよね。でも注目をすれば、京都市がどういう形で動いていくか、全国に先駆けた勇気ある作戦行動をとっていらっしゃることに気が付くことができるかもしれません。
最後にもう一回、竹内さん、何か思い残したこと、言い残したこと、ありませんか。
竹: はい、京都の千年の歴史というのは、やはりこの千年間にわたって、住んでいる方々がつくってきた歴史があって文化がある。今の我々はこの千年の歴史を受け継ぎながら、もう千年先の京都が京都で在り続けるように取り組んでいかねばならないと思っています。その千年先を見据えて、そして今日から始めること、明日から始めること、この一年でやること、そうしたことを市内にお住いの皆さん、あるいは会社の皆さんと一緒につくりあげていきたいと思っています。まちづくりというのは行政だけがやるものではなくて、みんなで全員野球で、みんなで話し合って進めて行くものだと思っています。皆さんからも是非どしどし提案をお寄せ下さい。
絹: 竹内さん、ありがとうございました。
竹: ありがとうございます。
絹: この番組は心を建てる公成建設の協力と京都府地域力再生プロジェクト、そして我らが京都市景観まちづくりセンターの応援でお送りいたしました。
投稿日:2023/06/26

第186回 ・まちの同級生~「京都をつなげる30人」との出会いから…

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小: 小野寺 亮太 氏(京都市子ども若者はぐくみ局 子ども若者未来部育成推進課)
絹: 絹川 雅則(公成建設株式会社)
          (小野寺 亮太 氏)

 

絹: 皆様こんにちは。まちづくりチョビット推進室の時間がやってまいりました。
この番組は地元京都の建設屋の目から見た元気なまちづくりびとのご紹介や、その活動の最新のエピソードをお伝えしております。いつものように番組のお相手は当まちづくりチョビット推進室 絹川がお送りいたします。
さて、本日のゲスト紹介です。お若い方に来ていただきました。“京都市子ども若者はぐくみ局”、変わった名前でしょ?京都市の中にはこういう局を担当している人たちがいるんです。“京都市子ども若者はぐくみ局”から小野寺亮太さんにお越しいただきました。小野寺さん、よろしくお願いします。
小: よろしくお願いします。
絹: 小野寺さんと僕の出会いは、ごくごく最近と言っても年末でしたかね。
小: 年末ですね。
絹: 年末にゲスト交渉に行ったら、産休に入ってしまって、しばらく連絡取れなかったんです。京都市の中でもこうやって、男性で産休を取って、昨日も電話したら在宅勤務でしたね。
小: そうなんです。育児をしながら仕事を頑張っています。
絹: 小野寺さんは、京都市の総合企画局の市民協働担当の相川さんという、市民協働ファシリテーターの元締めに近いところにおられる方にご紹介いただきました。この番組の第181回に熊切さんという方をゲストに「市民協働ファシリテーターってなに?~3人のファシリテーターに聴く」をオンエアしましたが、その時の熊切英司さんに続く、2人目のファシリテーターとして小野寺さんに来ていただきました。市民協働ファシリテーター、今、100何人でしたっけ?
小: 150人くらいです。
絹: その中で活きのいいのを3人くらい紹介してと頼んだんです。それでアドバンスドファシリテーターという仕組みもできてきたでしょ?熊切さんはそういう研修も受けていらっしゃいました。で、2人目として来ていただいた小野寺さんということで、是非リスナーの皆さん、ご期待ください。
さて、今日の番組タイトル、テーマです。「まちの同級生~京都をつなげる30人との出会いから…」と題してお送りいたします。先ほどゲストの小野寺さんと打ち合わせして決めました。小野寺さんの思いが入ったタイトルです。
 

■エピソード1 まちの同級生、京都をつなげる30人って、どういうこと?

●職業も年代も多様な30人が集まって…
小: 私は子ども若者はぐくみ局におりますが、今やっている仕事としては、京都市では青少年活動センターという中学生から30歳くらいまでの方たちの居場所を公的施設として持っておりまして、主にその担当と、成人式の担当をしております。
絹: 青少年活動センターは私もご縁がありまして、山科青少年活動センター(愛称:やませい)に時々行っていました。何年か前のゲストに大場さんと言うセンター長をお呼びして、山科子ども食堂ネットワーク構想について語っていただきました。そういう言わば若い人がたくさんいらっしゃるところですよね。それを7つ束ねる部署にいるのが、小野寺さんです。
小: そうです。今の仕事はそうなんですけど、今日のタイトルである「まちの同級生~つなげる30人」ということで、まずこれがなんぞやというところからお話したいと思います。これは市民、企業、行政、NPOから構成された約30人のまちづくりのプレイヤーが協働する、地域にイノベーションを起こすためのプログラムを繋げる30人となっています。
絹: いやあ、面白そうです。なんとなく想像できるのが、私のような初老のおっさんとかじいさんはメンバーとしては少なくて、ひょっとしたらメンバーは20代、30代、40代くらいまでの人が、30人の中に多そうな気がするなあみたいな、合ってます?
小: 意外に錦商店街のお偉いさんの方がいらっしゃったりとか…。
絹: おっさんもいはるんですか?
小: そうなんです。本当に年代も幅広く、学生の20代もいれば、60代のバリバリ働いておられる方もいらっしゃいますし、本当に多様なセクターの方から30人が集まりました。
 

●まちづくりのプレイヤーたちがイノベーションを起こす

絹: これは行政が声を掛けておられるんですね。
小: 行政と、京都市と連携協定を結んでいる“スローイノベーション”という、これも市民協働ファシリテーターの…。
絹: スローイノベーション、ゆっくりなイノベーション。ひょっとして京都市の行政マンだったけれど、飛び出しているような人が時々いるじゃない。何かそんな匂いがするけど、違います?
小: 違いますねえ(笑)。バリバリ民間の方々ですけど(笑)。スローなイノベーションを提唱されているんです。
絹: 中心人物はどなたですか。
小: 市民協働ファシリテーターの講師でもある野村さんという社長の方が、まちづくりのキープレイヤーとなる方たちを約30名集めて、色んな地域の課題や社会の課題を皆さんの強みを使いながら解決していこうというプログラムです。
絹: 京都をつなげる30人というプログラムは、もう何年か行われているようですね。
小: 僕が入ったのは3期なので、その時点で3年は続いていることになります。私の時は「脱炭素社会をいかに実現するか」みたいなテーマで色々動いたんです。脱炭素社会というと、すごく広い課題なのですが、それをもう少し市民目線に落とし込もうと、30人で対話を重ねながら「本当の課題って何なのだろう」みたいなのを突き詰める作業が、私にはすごく刺激的でした。
絹: まちの同級生というタイトルをお選びになったことからすると、京都をつなげる30人の3期生とのお付き合いが、ひょっとすると卒業しても未だに続いていそうな感じですね。
小: そうなんです。やっぱりそこで信頼関係というか、みんなを尊重しながら1つの課題に向かって走っていくという感じで、本当に仲良く、ざっくばらんに、心から話せる仲間になったような感じですね。
 

●京都市未来まちづくり100人委員会との共通点

絹: 以前、小野寺さんにもお話したことがあるかもしれませんが、私は10年以上前に、京都市の総合企画局が主管で“京都市未来まちづくり100人委員会”、一般の市民を無給で百数十名、土曜日の4~5時間、会議室に閉じ込めてこき使うというとんでもない委員会に所属しておりました。私勝手に自嘲的に「やらずぼったくり詐欺企画」というあだ名をつけてましたけど(笑)。本当に熱心に「京都のために汗をかいてもいいよ」「自分の知恵を持って行ってもいいよ」という人たちがどっと集まっていた、そういう仕組みがあるんですね。僕は1期から3期まで。で、後で聞いたら小野寺さんは4期生だと。
小: そうなんです。そんな繋がりもあって。
絹: 確か7期で発展的解消ですね。で、その時の香りがこの「京都をつなげる30人」というのと、結構だぶっているような気がします。
小: まさしくだぶっていますし、より具体化したようなイベントでもありますね。
絹: ですから100人委員会で醸成された、得られた経験値だとか、ノウハウをさらに30人というところに凝縮して、100人委員会よりもひょっとしたら進化版みたいな気がします。
 

●トートひろばでのイベント

小: まさにそんなイメージです。今回私は阪急・阪神さんと同じチームで、インフラもお持ちで、そこでイベントをさせてもらうことができたのですが、30人の知恵をそのイベントに凝縮させたみたいなことができて…。
絹: その阪急・阪神さんと組んだイベント、内容を聞きたいですね!
小: 阪急洛西口の高架下に“トートひろば”というイベントスペースがあるんです。
絹: どんな字を書くんですか?
小: カタカナで「トート」、英語なら“TauT”で、Tが高架下みたいな格好になっているわけです。そこは色んなイベントをされていて、イベントを通じて地域を活性化していこうみたいな、そういう思いをお持ちだったのです。今回「脱炭素」ということがテーマでしたが、「脱炭素って、わかりにくいよね」という話がみんなの中であって、環境にいいこととか、地球にやさしいって、どんなことなんだろうみたいなことに落とし込んでいったんです。
まず環境にやさしいことを実感してもらうきっかけをつくるようなイベントをしたらいいんじゃないかという話になって、いろんな切り口からブースを出して、イベントをやりました。
絹: ブースを出すというと、何か学園祭みたいなノリをつい想像してしまいますが、あるいは手作り市とかね。何かトートひろばでまちの学園祭とか、手作り市っぽいイベントが高架下に現れたんでしょうか。
 

●脱炭素を具体に落とし込む

小: 手作りっぽい物もありますね。例えば古着を売るイベントをやったりとか、それも環境にやさしいことだし、あとはリユース食器を使って食品を提供したり。さらに人力で発電するもので、「電力を生むのにこんなにパワーがいるんだ」みたいなことを子どもたちに知ってもらったりとか、本当に様々な切り口で、「環境にやさしいことって、こういうことにも繋がっているんだ」と実感してもらう、そういうイベントでしたね。
絹: 体を使うこととか、古着を見直して、作られ命を得たものを大切に使おうよみたいな、いいですねえ。リユース食器なんかも、ひょっとしたら本当にじゃまくさいことかもしれないけれども、それでもちょっとこだわりたいみたいな形でやられるとね。
ただ、あんまりこういう発言をしない方がいいのかなとも思いますが、僕、脱炭素というと否定的な感覚もどこかにあって、利権に繋がる脱炭素とかSDGSとかいうことを、「うさんくさ」と思う絹川くんもいて…、でも本当にまじめに取り組んでいらっしゃる方たちとそういうものを分けて考えないといけないなと思いつつ、僕実はSDGSのバッジ付けている人、嫌いなんです(笑)。
小: そうなんですか(笑)。でも結構いますよね。
絹: そうなんです。ただ脱炭素ということから、リユース食器だとか、本当に電気を人力で起こそうとするとすごいパワーが要るので、電気はこんなに大切なんだねとか、古着を大事に着ようねみたいなことに、一段分解していただくと、僕にとってはうさん臭くなくなるんです。
小: ほんとですか(笑)。まさにそういうふうに落とし込んでいかないと、人の選択って変わって行かないよねみたいな話が出ましたね。
絹: 上滑りで世論誘導をされて、「ビジネスチャンスに結び付けよう」だとか、「公金チューチュー」って、この頃ネットで流行っている言葉がないですか?地域課題を解決するためではなく、どなたかの懐が豊かになるために助成金を使おうという人たちが世の中にゼロではないので、そういう匂いにはちょっと私は今過敏になっています。
小: 実際に人が動く動機って、やはり納得性や共感だと思うのですが、そういう意味で対話を重ねることによってどうやって共感が得られるのか、動く動機になるのかというのを、30人でとことん話し合いました。
 

●環境と経済はどう成り立つのか - 電力会社の玉石混交

絹: トートひろばでは、どんなブースでどんなことをやったのか、もう少し教えていただけますか。
小: ブースもそうなのですが、環境と経済がどうやったら成り立つのかというトークセッションをみんなでしました。ゲストにテラエナジーさんという、お寺で電力会社を立ち上げた方がいらっしゃるのですが、なぜ立ち上げたのか、今どういうふうな世の中を目指しているのかという話をみんなで共有しながら…。
絹: テラエナジーさんみたいな感じでやられる方々はなんかすごいなとか、尊敬できるのですが、なかには山の中でメガソーラーなどをやって、土砂崩れを起こしているようなところもあって、似ているけど違うという感覚がしますよね。「後はどうなってもいい」という企業群とテラエナジーさんは行動形態は似ているけれども、似て非なるものだと、その辺がトートひろばで集まって来られた方に肌感覚で伝わるといいですよね。
小: そうなんです。本当に電力を替えるだけで環境に良くなるというところもあって、人の選択1つひとつが世の中を良くしていくんだというふうになっていけばいいなと。
絹: 玉石混交で実は難しいんですけど、色んな情報公開がされてないようですから。すみません、いらん突っ込みを入れてしまいました。
 

●まちの同級生との出会いが私の糧に

小: そうやって対話をしながら、まちの同級生ができた。そういう信頼ができる関係づくりができたというのが、私の糧になっています。
絹: 30人おられたら、本当に色んな専門家が集まられたでしょうねえ。年齢構成も縦にバラエティに富んでいるとおっしゃいましたから。
小: ですから普段の仕事では出会えないような方たちと出会えたということが、私の財産になっているなという感じですね。
絹: 今、パッと代表的にまちの同級生として出会った方のなかで、固有名詞ありで「この人、面白いねん」という人、例示できます?
小: それで言うと、“なんかしたい”さんという合同会社があるんですけど、学習支援をやられている起業家で、それも塾みたいな感じですが、塾を通じて子どもの居場所になっていたり、色んな悩み相談を受けたり、親同士の居場所になっていたりとか…。
絹: おいくつくらいの方ですか?
小: 私よりちょっと上くらいですかねえ。
絹: と言うと?
小: 30代半ばくらいだと思います。
絹: この辺の30代真ん中±アルファくらい、どうやらすごい手練れが集まってそうな年代です。私は60代半ばくらいですが、若い時、「儲けてなんぼ」みたいな教育を受けたじゃないですか。心の中で「世のため人のため」とかって思う部分がないわけじゃないですが、昭和育ちは恥ずかしくてそんなことは言わないわけです(笑)。「まず社員食わせてなんぼや!」みたいな。ところが今、20代30代の人たちは当たり前に世のため地域のためにということを、最初からさらっと言う人、多くなってません?
小: あ、多いですね。
 

●サードプレイスという居場所が、今、求められています

絹: だからやっぱりジェネレーションと言うか、人種が変っている気がします。その “なんかしたいねん”合同会社ですか?子どもの居場所であり、親の居場所でもあるって言うでしょ。私も実はその居場所というキーワードを長年追いかけておりまして、サードプレイス、まちの縁側、地域の居場所というのを尋ね歩いていた時期もあります。
そういう居場所が、例えば小学校区にいくつかあったら、それがあるだけでその場所の地縁が良くなったり、地域の課題が少し減る気がしますので、すごいなあと思って、居場所という言葉がパッと出てくるなんて。
小: 私の仕事にも関わって来るのですが、学校でもない、家庭でもない、まさにサードプレイスという居場所は、世の中に求められているなというのは感じますね。
絹: 私自身が子どもの頃からでしょうか、人と人との繋がりを切る方向、分断される方向のベクトルで育てられたという気がしていましてね。今の若い人たちは我々の世代がチョキンチョキン切って来たものを、もう一回繋ぎなおす世代かもしれないという仮説を、私は今持っているんです。
 

■エピソード2 子どももまちの同級生

●「こども基本法」のこと
小: この4月に「こども基本法」という法律が施行されました。
絹: あまり詳しくないのですが、色んな物事を決めていく時に、当事者である子どもの声もちゃんと拾おうぜみたいな、すごい法律らしいですね。
小: そうなんです。これで本当に世の中が変わるなと思っています。国の方も「こどもまんなか社会」と言っていますが、子どもを軸に色んな政策や取組みを進めて行くことが、ほぼ義務付けられてきたということです。
絹: 昨日もお電話で突っ込んでしまいましたけど、理念としては素晴らしいと。でも実際にやるのに、子どもの声を拾うのって、すごい腕が要るんと違いますかと。ということを小野寺さんに議論をふっかけていましたけど(笑)。
小: 本当にそうで、こどもは社会的弱者であるので、そういう人の声を聞くというのはやはり大人側の知性が求められるのかなと。
絹: 知性とともに、場づくりという言葉がありますけど、こどもたちがこの場は安全なんだと、自分の思いを開陳してもいいんだという信用してもらう場をつくれる大人サイド、これはものすごく高度な、敢えてファシリテーションという言葉を使うと、ファシリテーター研修を受けてこられた小野寺さんたちにとっても、これは腕利きじゃないとなかなかできない技でしょう。
小: まさしくそうです。ですから市民協働ファシリテーターのさらにプラスアルファで子ども若者向けのスキルというのは、今後身に着けていかねばならないなと思っています。
絹: そういう研修を受けたりしている行政マンが、特に若い人で育ってくると、世の中変えちゃいそうな気がしますよね。だから小野寺さんみたいな人に「ゲストに来て!」と言って呼んだりするんでしょうね(笑)。
 

●子どもと対等に意見を言い合える関係を

小: 子どもの声を聞く、聞かせる、言わせるというのはナンセンスかなと思っていて、子どもも大人と一緒でまちづくりのパートナーであると認識することで、言わせるだけじゃなくて、子どもと対等に意見を言い合えるような関係になっていくと、僕は理想かなと思っています。まさに子どももまちの同級生だよというふうに思って、これからそういう場をつくっていけたらうれしいなと思っています。
絹: なんか落としどころがばっちり落ちてきましたね(笑)。
市民参加だとか、市民協働というキーワードが京都市の中で語られるようになってだいぶ経ちます。でもワークショップや場づくりを行って市民の声を広く聴きましょうというのが、時が経つにつれてアリバイのようになってしまった。つまりワークショップというタイトルがつくのをやっておけばいいみたいな間違った流れが、一時的に現出していたことも記憶しています。その反省からもう一度魂を入れ直そうとして、市民協働ファシリテーター研修のような制度が6期にわたって行われ、小野寺さんのような方たちが今育ち始めていると、オールドファシリテーター世代と言いますか、一期生の研修を受けていた頃の自分は、今感じています。
聞くにつけ、ものすごく高度なことを国は意識し始めて、小野寺さんの言葉を借りれば「こどももまちの同級生」。これ、さらっと言っちゃったけど、ものすごい難しいことを標榜されていると私は感じています。ということで、市民協働ファシリテーター研修を受けた6期生の100数十名の人たちがそろそろまちに出始めるのではないかと思っています。色んな所で関わって、場をつくって、声を拾って、新しい地域課題解決に向け動かれることに、もし気づかれた方はトントンと肩を叩かれるなり、そばににじり寄っていただけたら最高です。
この番組は心を建てる公成建設の協力と京都府地域力再生プロジェクト、そして我らが京都市景観まちづくりセンターの応援でお送りいたしました。
投稿日:2023/05/31

第185回 ・京都の歴史的な転換点!これまでにない発想で全国初だらけ~坂越 健一副市長に聴く

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坂: 坂越 健一 氏(京都市 副市長)
西: 西島 優希 氏(京都市 総合企画局 市長公室 副市長担当秘書)
絹: 絹川 雅則(公成建設株式会社)
       (左:西島 優希 氏  右:坂越 健一 氏)

 

絹: 皆様こんにちは。まちづくりチョビット推進室の時間がやってまいりました。
この番組は地元京都の建設屋の目から見た元気なまちづくりびとのご紹介や、その活動の最新のエピソードをお伝えしております。いつものように番組のお相手は当まちづくりチョビット推進室 絹川がお送りいたします。
さて、本日のゲスト紹介ですが、珍しくビッグゲストをお招きしております。我が番組初でございます。京都市の副市長であらせられる坂越さんです。大緊張しながらですけれども、すごく気さくな方でしゃべってくださいますので、皆さまご期待ください。
そして坂越副市長に無理やり拉致されて、連れてこられた同行秘書さんがおられます。西ちゃんこと西島優希さん、どうぞ。
西: よろしくお願いいたします。恐れ多いのですが、おじゃまさせてもらっています(笑)。すみません。お願いいたします。
絹: 坂越健一さんと番組のスケジュール調整するのに、秘書の西島優希さんに大変お世話になりました。ありがとうございました。
さあ、それでは副市長、今日の番組タイトル。
坂: はい。初めてづくしでしょ?
絹: いただいたやつ、言いますね。「京都の歴史的な転換点!これまでにない発想で全国初だらけ~坂越健一副市長に聴く」と題してお送りいたします。全国初だらけって、期待の持てるキーワードでございます。リスナーの皆さん、ご期待ください。
さてここで、坂越健一京都市副市長について少しご紹介をさせてください。令和4年の7月1日に、京都市に着任されました。生年月日は昭和47年、僕、東大法学部を卒業している人って、友達少ないんです。知り合いでは初めてかもしれません。同級生の中で一人だけ。
坂: そうですか。
絹: 経歴を全部言うと大変なので、旧自治省、現総務省の採用で、やはり中央の方なのであちこち動いておられますが、総務省の本省だけでなくて、長崎県にご出向になっていたりします。噂では「総務省のエース」と、市役所の知り合いはつぶやいておりました。
それからリスナーの皆さんにどのような方か想像していただくために、エピソードを2つだけ入れさせてください。
ねえ、西島さん、車で移動されるでしょ。あちこちね。そしたら「次の週末どこ行こう?」と相談されるそうですね。それ、事実ですか?
西: そうですね。この前も桜の時期でしたので、清水寺きれいだなというお話だとか、「今日、行ってみようかな」というお話だとか、よく車中でいろんな京都の…。
絹: それがただ行くのではなくて、ママチャリでどこでも行かはる人らしいですね。
坂: はい、京北まで行きました。
絹: それ、危ない。雪降っていたら危ないって、止められたんじゃないですか。
坂: 娘が受験だったので、ここで京北まで自分がチャリで行ったら娘が合格すると思ったので行ったんです。
絹: あ、願掛けじゃないですか。それ。
坂: はい。ちなみに鈴虫寺のわらじ地蔵も3回行ってますからね。それも娘の受験ために行きました。ちなみに鞍馬も2回行ってます。ママチャリで。巨椋池も行ってますよ。
絹: お尻擦りむけませんか(笑)。
坂: でも仕事も兼ねてというのも多いんです。仕事と言うか、自分の知見を増やすために。
絹: ご着任以来、やはり京都の色んな所を見て歩いてというところが、きっと背景にあるはずです。冗談めかしておっしゃっていますが。それと覚えておいてくださいね。「娘の願掛けで行った」と。
坂: 合格しなかったですけど(笑)。
絹: こういう人です(笑)。それではこの辺りで主人公にご登場いただいて、マイクの主導権を坂越副市長にお渡ししたいと思います。
 

■初めてづくしの政策 その1 ― 文化首都 京都へ

●明治初期の心意気を、ふたたび
坂: 今日お伝えしたいのは、今、京都が歴史的な転換点を迎えているということです。その歴史的な転換になるような政策を全国初づくしというご紹介がありましたが、初づくしの政策を5つくらい、最近導入しましたので、それをご紹介させていただきたいと思います。
絹: 是非、リスナーの皆さんにできれば専門用語は減らしていただいて、平仮名でお願いいたします。
坂: 例えば京都の歴史、皆さんご存知の通り、明治維新があった時に、天皇陛下が東京に行かれて…。
絹: 「ちょっと行ってくるわ」で、帰ってきはらへんかったんですね。
坂: あの時に人口が3分の2に減ったんですね。34万人から23万人になったんです。その時に行政も町衆の地域コミュニティも、経済界もみんな頑張って京都の再興のためにいろんなことをされたんです。例えば琵琶湖疎水とか、平安神宮をつくったり、路面電車をつくったり、水力発電をやったりとか。なんといっても日本で最初の学校を、皆さんの竈金で64校つくったわけです。
絹: 番組小学校ですね。
坂: はい、それで京都がここまで発展する礎になったのですが、それ以来の転換期と言ったら大げさかもしれませんが、それくらい重要な節目かなと思っているので、今日は5つの我々がやったことについてご紹介したいと思います。
ここで重要なのは行政だけでやってはだめで、明治初期のように、みんながそれぞれの業界みんなが一緒になってがんばるというのがすごく重要なのかなと思って、それを今日はお伝えしたいし、お願いしたいなと思ってまいりました。
絹: はい、望むところでございます。
 

●文化庁が京都に来たからこそ…

坂: まず1つ目は、明治以来初の中央省庁の移転、文化庁が来ましたね、先月。これは我々がやったというより、皆さんが一生懸命頑張っていただいて、熱意で要望したから実現したのだと思いますが、文化庁が移転したらそれでいいというわけではなくて、やはりここで京都に来たからこそ、日本の文化が世界に発信力が高まったという形にもっていかなければならないと思っています。そのためには我々も地域の皆さんもできることはできる限りやらなくてはならないと思っています。例えばこの10月に芸大が京都の東に移転します。またその南の所には有名なチームラボというデジタルアーツの企業が引っ越してきます。ニューヨークからスーパーブルーというのが来ますけれども。このように文化庁の移転を契機に文化首都としての京都というのを、名実ともに皆で頑張って確立していく必要があるというのが1点目です。
 
  (京都市HPより 文化庁京都庁舎除幕式(令和5年3月27日)の様子)
 

●例えばこんな活動がしたい…

絹: 文化庁が来たからそれで済むんじゃないよと。みんなもできることをやってねとおっしゃいました。めちゃくちゃ大事なポイントだと思います。
実は先日、私の知り合いで「祭礼における甲冑文化研究会(略称:祭甲会)」の人たちが先日うちに来まして、「昔の祇園祭の古い絵には祇園祭の先導に武者の甲冑行列が描かれているんです」という話をしてくれました。その人たちは古い甲冑の修復などを生業とする方で、自分たちは古い甲冑をきれいに修復して保存して展示はされているけれども、使えてない。また昔のように祇園祭の行列を先導できるよう、市民たちで盛り上げる活動がしたいので、文化庁に相談しに行きたいとのことでした。
坂: ああ、いいですねえ。
絹: 例えばそういうことですよね。
坂: そういうことです。わかりやすくていいですねえ。
 

■初めてづくしの政策 その2 ― 財政収支の均衡化

●22年ぶりに財政収支を均衡させました
坂: 次、2点目は京都市の財政が悪いのではないかという話が全国的に有名になり、皆さんにだいぶご心配をおかけしましたが、これを22年ぶりに今回の予算で財政収支を均衡させました。実に22年ぶりで、ずっと厳しい状況が21年間続いてきたのですが、収支を均衡させたことにより、これからは生活を豊かにするとか、市政を発展させていくための財源を生み出すことができるようになります。まだまだこの先厳しい状況は続くとは思いますが、非常に大きなステップになるかなと思っています。
これについては結構批判もあって…。
絹: 今朝の京都新聞でも、「こんなん記事にせんでも」というようなコメントがありましたよね。
坂: 色んな批判があって、例えば昨夜の批判を上げますと「それ、たまたまでしょ。偶然なんじゃないですか?ラッキーだっただけじゃないですか」と。あとよくあるのが、「今年たまたま良くて、来年またダメなんじゃないですか。一時的なものなんじゃないですか」と。
絹: それと誇大広告みたいなことを言う人がいましたね。あれはショックでしたよ。
坂: 「ほんとは危機じゃないのに、わざと危機だと言ってただけじゃないんですか」とか。これ、全部違いますので。全く違います。
 

●様々なご批判はありましたが、ご安心ください

絹: 少なくともこの人は副市長さんですから、一番よく知っていますよ。
坂: かつ、財政に関しては、全国トップ5に入るくらい詳しい自信がありますが、本当に無理していなくて、客観的に言った話なので、これはもう色んな批判がありますが、全て全然違いますので。
絹: 的外れな批判だよと。
坂: はい。1つひとつ説明できますが、時間もないし、難しくなりますから、ここでは説明しませんけど、ご安心頂ければと思います。
 
 
 
(京都市HPより きょうと市民しんぶん令和5年3月1日号 財政状況記事抜)
絹: 本当にうれしい、ホッとしました。本当に頑張って下さって、僕、建設局の仕事をするじゃないですか。「いっぱいインフラだとか市民の安心安全にかかわる所をなんとか苦労して確保していただいた、うれしい!」という声が建設局の連中から聞こえましたね。
坂: ありがとうございます。
絹: それと全国的な話で恐縮ですけれども、国債の何十年償還ルールって、あるんでしょ?「あれが諸悪の根源だ」と怒鳴っている人もいて、「あの償還ルールを緩めたり、なくしたりしたら、地方自治体の財政がコロッと楽になるかもしれない」なんていう理論を述べていらっしゃる市井の徒もおられました。はい、いらんつぶやきでございました(笑)。次どうぞ!
 

■初めてづくしの政策 その3 ― 都市計画の見直し

●若者世代の流出
坂: はい(笑)。次が一番重要かもしれないですけれど、歴史的な転換となる政策の3つ目です。15年ぶりに都市計画の見直しを行いました。
今、京都が抱えている一番大きな問題の1つが、人口減少や若者世代が少なくなっているということです。その背景としてよく言われているのが、結婚したり子どもができた場合に、家を持とうとしたら、京都は高すぎて住めないので、大津や長岡京や宇治などに行ってしまうという問題と、もう1つは学生さんがものすごく多くて、人口の1割というのは全国トップ、最大なのですが、学生は7割が外から来るのですが、就職する時は学生の8割が外で就職する。京都で就職しないんです。
絹: 京都に残って仕事をしてよということですね。
 

●京都の魅力の表裏

坂: その2つが問題で、人口減少が生じています。これをなんとかしたいと考えました。この背景として、京都は日本一、世界一人気があって、この3月4月の人出を見れば皆さんご承知の通りです。ものすごい人気なのに、なぜ人口減少するのかと言うと、京都の魅力の裏表ではあるかもしれませんが、住宅不足、産業用地不足、雇用不足、スペース不足ということが背景にあるのです。それはやはり高さ規制とか、景観を守るために厳しい建築規制をしてきたというなかの裏表だと思います。これを何とかしたいと思って、15年ぶりの大胆な都市計画の見直しを行うということです。
ただ、一律になんでもかんでも規制緩和するわけではありません。東山や北山、田の字や駅北など、景観で重要な所は触らないです。その周辺の駅の南や『らくなん新都』、山科や西院や西大路の辺りなどの周辺部分に関して規制を緩やかにしようということです。
絹: 勇気のある決断だと思います。
(京都市HPより 【広報資料】「みんなが暮らしやすい魅力と活力のあるまち」の実現に向けた都市計画の見直しについて)
 

●今後は全力で企業誘致に取り組みます

坂: これはなかなかできなかったんです。これは何十年ぶりの政策になります。これによって産業用地とか住宅用地、不足していた用地がある程度供給することができると考えております。
他の自治体はどこも企業誘致まっしぐらでみんな必死になっているのですが、なかなかうまくいっていません。一方、京都はこれまで企業誘致にあまり力を入れることができなかった。なぜかと言うと誘致しようにも産業用地、つまりは立地する場所がなかったら、誘致しようがないわけです。それであまり力を入れてこれなかったんです。
絹: リスナーの皆さん、お気づきですか?坂越さん、今思いっきり力が入っています。本当にこれ、大事です。
坂: ですからこの何十年ぶりの都市計画の見直しによって、今まで最大の課題とされてきた産業用地不足が、解決するんです。だからこそ、今まであまり力を入れて来られなかった企業誘致に全力で取り組んでいこうと新しいポストをつくりました。企業誘致専門ポストをつくって、首都圏や色んな所に行ってもらって、直接営業活動をしてもらおうと考えたわけです。
絹: トップ営業ですね?
坂: そうです。京都は1200年以上、都だったので、経済も人も物もお金も集まって来ていたのですが、外需の取込みというのは少し弱いところがあって、そんなに積極的ではありませんでした。でもここはもう大転換して、取り込めるものはどんどん取り込んでいこうと思っております。
絹: 私の言葉で、素人が超翻訳をいたしますと、「もうええかっこしてへんで。やるねん。」と(笑)。さっきコメントでありましたね。芸大の近くに例えば「チームラボって、知ってる?」って。「スーパーブルー、すごいところが既に来るよ」とおっしゃっていました。
 

●ディベロッパーにもどんどん営業をかけます

坂: ということで、企業誘致にも力を入れていきます。それから都市計画の見直しって、絹川さんのような建設会社が、ディベロッパーがマンションを建ててくれないと住居は提供されないので、そういう意味でディベロッパーにも営業を一生懸命かけようということで、ここも新しいポストをつくったんです。国土交通省からエースをこの4月1日に呼んできましたので…。
絹: あ、竹内局長がおっしゃっていました。あの方ですね。
坂: はい、堀崎さんです。今度ここに、私の次のゲストは竹内さんと決まっているようですから、次の次にでも呼んでやっていただければと思いますが(笑)。
絹: リスナーの皆さん、ゲストからゲストの逆指名が今、ありました(笑)。
坂: それが3つ目です。あと2つ説明しなくちゃいけないので…。
 

■初めてづくしの政策 その4 ― 住宅政策の先駆け

●空き家税の導入
坂: 歴史的な大転換となる政策の4つ目ですけど、全国初の住宅政策です。まずだいぶ有名になりましたが、空き家税です。空き家税は先月、総務大臣から同意をもらって導入されることが決定されました。これはNHKの全国ニュースでも、全国紙でもかなり取り上げられて、随分注目されています。こんなことができると思わなかったと、かなりの問い合わせが来ております。空き家対策というのは、国家の最大課題になっていて、他の所ではなかなか手が付けられない話だったのですが、画期的な税を導入することになりました。
空き家は放置しておいてもペナルティがかからないのに対して、空き家を解体して更地にすると固定資産税が6倍になるという制度なので、みんなが放置してきたわけです。それが空き家対策の一番根幹的な問題だったのですが、この空き家税によって放置しておくと固定資産税が1.5倍くらいかかるようになります。それならばさっさと売りましょうとか貸しましょうとか活用しないとダメだなとみんなが思うようになるだろうと。これはみんな同じように思うから、全国から問い合わせが来たり、全国紙が書いたり、NHKも報道したりしているわけですが、それほど画期的な税なのです。
絹: 我々、建設産業に属する者としては、何か背中を押していただいているような気がいたします。
坂: これはすごい税だと思います。
絹: 地元の建設産業にかかる者としての次の注意は、せっかくそうやって背中を押していただいているのなら、地域課題を解決するような、地域に資するような、そういうプロジェクトをみんなで考えようよと持っていかねばいけないですね。
坂: これによって用地の供給や空き家の供給だとかはされますので、住宅不足解決にはかなり大きな効果をよぶことは間違いないです。
 
 
(京都市HPより 【周知リーフレット】非居住住宅利活用促進税の概要について)
 

●市営住宅を所得制限なしで若者世代に供給します

坂: それからもう1つ、これも全国初の住宅政策を導入するのですが、市営住宅が今、23,000ありますが、うち空き住戸が6,000です。その空き住戸を活用して、若い世代に所得制限なしで低廉な家賃で若い世代に供給していこうと。
絹: 待ってました!
坂: これを専門用語で市営住宅目的外使用許可という制度なのですが、どこもやれていません。むずかしくてできないんです。それを京都が初めてやります。これは国の方にもそういう動きは察知されて、国の方で「そんなことできるんだ!」みたいな感じで先月3月31日に取りまとめられた子育て世代対策のなかに盛り込まれました。ただその導入はまだ先で、京都の方が先に今からやりますので、それほどこれもすごい政策なんです。
何がすごいかって、市営住宅の6,000戸の空き住戸を使って若者世代に低廉で入っていただきますので、これはもう、ファミリー層への手ごろな住宅の供給ということに大きく資すると思います。やっぱり京都のすごいところは、そういう風に全国的な課題について一番最初に取り組んでいるものが多い。だから全国初だらけなんです。それでみんなまねようとするんです。国さえもまねようとしています。それはやっぱり我々もやりがいがありますし、これからもそういう風なことをやっていかなくちゃいけないなと思っています。
 

■初めてづくしの政策 その5 ― 全国トップ水準の子育て環境・教育

子ども医療費200円中学校給食保育料全国基準の7割
坂: 最後もう1個は、住宅政策や都市計画もいいけれども、子育て環境や教育も伴わないと若い人は住めませんよと。それはもちろんわかっています。ものすごく画期的な政策をやることにしていまして、それが子ども医療費200円を上限に、小学校6年生まで導入というものです。これは市町村ではあるかもしれませんが、政令市ではトップレベルです。だからこれはすごいことなんです。
それから中学校も全員に給食を導入します。清水の舞台から飛び降りて、やることにしました。
さらに保育料も、全国の国の基準の7割という、すごく低いレベルに抑えているのですが、これを今後も継続してくことも、今回決めましたので、この3つはかなり大きな話です。
絹: ほう、勇気ある決断だあ。
坂: 子育てについては色々言われていますが、数字だけ見て頂いたら明らかなのですが、全国トップ水準であることは間違いないです。教育も子育ても。教育は少人数学級をやっていて、小学校は学力テストの成績が政令市1位です。堀川の奇跡と言われる堀川高校もありますし、西京高校もある。学力は京都は非常に高いんです。それから子育てに関しても、単独の補助金で50億円投入していて、全国トップ水準です。これだけやっていると、結局何ができるかと言うと、保育士さんの平均給与は全国平均より100万円以上高いんです。
絹: この事実、すごいです。
坂: 人数も国基準の1.3倍で非常に高いレベルなんです。保育料は国基準の7割、非常に低い。これら全部まとめたら、全国トップ水準なんです。教育も子育ても。それをさらに今回磨きをかけて子ども医療費を200円、中学校給食と画期的な政策を導入しますので、これはもう本当に自信をもっておすすめできると思います。子育て環境と教育ですね。以上、5つご紹介いたしましたので、全国初づくし(笑)!
絹: 打ち合わせ通り、ぴったり時間内に収めていただきました。ものすごい勢いでしゃべられました。
今日、お聞きになっていかがでしたでしょうか。総務省のエース、副市長として7月に着任された坂越さん、あつく語っていただきました。坂越健一さんでした。
こうやって現場に近いというか、京都市の中枢に近い人の声を生で聞いて、信用できると思った人、ちゃんと調べてくださいね。そして自分ができることは、この次に必ず来ます。我々も京都市の中枢の皆さんに協力してできることを考えてみませんか。ということで終わりです。
この番組は心を建てる公成建設の協力と京都府地域力再生プロジェクト、そして京都市景観まちづくりセンターの応援でお送りいたしました。
坂越さん、西ちゃん、ありがとうございました。
坂: ありがとうございました。楽しかったです。
西: ありがとうございました。
投稿日:2023/04/13

第183回 ・府営住宅とあなたの夢がマッチング~若者の視点からひもとく空き家活用 地域課題に挑戦する人を求む!

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西: 西島 良輔 氏(京都府建設交通部住宅課管理・調整係 主事)
絹: 絹川 雅則(公成建設株式会社)
      (西島 良輔 氏)

 

絹: 皆様こんにちは。まちづくりチョビット推進室の時間がやってまいりました。
この番組は地元京都の建設屋の目から見た元気なまちづくりびとのご紹介や、その活動の最新のエピソードをお伝えしております。いつものように番組のお相手は当まちづくりチョビット推進室 絹川がお送りいたします。
さて、今日はお若いゲスト(もちろん私に比べてということですが)をお迎えしております。京都府建設交通部住宅課主事という肩書の西島良輔さんです。西島さん、よろしくお願いします。
西: よろしくお願いいたします。
絹: なんとなんと、三十路になられたところという方でございます。
西: 三日前くらいにちょうど誕生日を迎えまして(笑)。
絹: 結構若い方のゲストですね。私がもう還暦過ぎですので半分以下です。西島良輔さんとの出会いは最近で、京都府建設交通部の中島さんという副部長、圧の非常に強い上司(笑)から「紹介するわ!」と紹介されたのが西島さんでした。
おいおい紹介していきますが、この度京都府さんは大変勇気のある、というか面白い仕事をされました。建設交通部の住宅課の連中、具体的に言うと西島さんたちですよね?
西: ありがとうございます(笑)。
絹: 西島さんたちが面白い仕事をされました。そのことを僕は実は感動して眺めておりましたので、それについて語っていただきます。
さて、今日の番組タイトル、西島さんにお願いしましょうか。
西: 申し上げさせていただきます。「府営団地とあなたの夢がマッチング、若者の視点からひもとく空き家活用」。
絹: ではもう一回、僕が言いますね。「府営団地とあなたの夢がマッチング?~若者の視点からひもとく空き家活用」というタイトルでお送りします。
まず、これはもう公式の公開情報ですけど、手元に資料があります。カタく言いますと「京都府府営住宅ストック公民連携活用事業」が正式なタイトルです。これを絹川くんなりに、ひらがなで超訳を試みます。間違っていたら訂正してくださいね。
西: ありがとうございます。
絹: 「活用できる府営住宅ストック」、これ要は「府営住宅の中でどれだけ空き家があるのか」ということです。京都府にはだいたい2年以上、応募がなくて、空いたままの住戸のある府営住宅が52団地あるそうです。「その中で726室が空いていて、これを何とか料理したい。民間の皆さん、知恵ある人は寄ってくれ!」と大きな声で、京都府の建設交通部の住宅課の皆さんが声を上げました。これ、僕なりの超訳ですが、どうですか?
西: もうお見込みの通りでございます。
絹: それでは今度は主人公であります西島さんの口から、制度概要とか事業概要、そもそもこれって何?というのを、ご説明していただけますか。
 

■エピソード1 府営住宅ストック活用事業とは、こういうことです

●府営住宅ストックを社会課題の解決に役立てたい
西: では若者の視点から、ちょっと柔軟にご説明させていただければと思います。今回の事業は、簡単に申し上げると、長期間応募がなかった府営住宅の空き住戸を、社会課題の解決に取り組む事業者様や各種団体の皆様に提供するものです。皆さまのノウハウや柔軟なアイデアを取り入れた利活用案をどんどん提案いただきたいと考えております。
絹: 社会課題の解決と言いますと、具体的に言いますと、何か地域の困りごと、「こうなったらええのにな、ああなったらええのにな」ということですね。例えば?
西: それこそ地域活性化、地域の魅力に繋がるような情報の発信をしていただけるような利活用であったり…。
絹: 例えば「子ども食堂をしたいんですけど、場所ないんです」「町内会の会議する場所ないけど、使えませんか」こんなのもアリですか?
西: もちろん、アリでございます。
 

●利活用の目的の縛りをかなり取っ払いました!

絹: リスナーの皆さん、例えばこういう私の思い付きで西島さんに「こんなんアリ?」と聞いたら即答が返ってきましたね。結構広いですねえ。
西: そうです。幅広に利活用の目的の縛りを取っ払っておりまして、店舗を含め営利目的の利用でも問題ありません。ただし営利目的の利用の場合は、使用料を通常の5倍いただくことになることだけご注意下さい。
絹: 皆さん聞かれましたよね、ここに京都府の狙いがそこはかとなく感じられます。できれば営利事業よりも、社会課題解決型の地域の困りごとに役立つものの方にたくさん来てほしい。でも営利事業であってもそれは別に「来るなとは言いません」と、こんな感じですよね。
西: 基本的に目的自体は何でも来てもらっても問題はありませんし…
絹: あ、ちょっと今のは超訳が過ぎて、誤訳になりましたね(笑)。すみません。だから縛りはないと。アイデア持っておいでと。協力するよという感じですね。
西: はい。今回の事業目的としましては、これは全国共通の課題となっているのですが、公営住宅は募集しても応募がない状況が増加傾向にあります。加えて入居者の高齢化が進み、コミュニティの力が弱くなっていることから、自治会の活動が思うようにできなくなっているという声が寄せられています。
絹: ここですよね。公営住宅でも空き室・空き家が増加傾向にありと。だいたいバクっと言うと、52団地で京都府さんが管理されている部屋は何万室くらいでしたっけ?
西: 127団地、14843戸を京都府は府営住宅として管理しております。
絹: ごめんなさい、僕間違って説明していました。全部で52団地だと思っていたんです。それは空き室が2年以上空いている所が52団地あると。
西: そういうことです。
 
          (京都府HPより 募集住戸一覧)
 

●空家率4.8%、住民の高齢化が進み、コミュニティの力が弱まってきて…

絹: それでだいたい空き家率は何%くらいなのでしょう。空き家が726戸とおっしゃってましたよね、5%ということですか。
西: そうですね、4.8%ほどが空き家になっております。
絹: 結構な数ですね。
西: 先ほど申し上げたような課題を何とか解決するためになんとか良いアイデアはないかと考えた結果、府営住宅の空き家を若い世代の方々に利活用してもらおうと思いついたのが、今回の事業を始めたきっかけでした。
絹: できれば若い人、子育て世代とか、府営住宅の住民が高齢化しているから、若い人とか現役世代に入ってきてねと。そうなるとうれしいなということですよね。それとコミュニティの力が弱くなったというのは、自治会の戦力が少なくなってきて、エンジンが弱くなっているということから色んな問題が派生しているようですね。
西: そうです。草刈りの人員が高齢化のため確保できないという声や、掃除の当番などもほとんど一人でやっていらっしゃるような団地もあるという声を聞いております。
絹: そうですか。これ、うまいこといくといいなあ。
 

●利活用の目的、例えば子育て支援、地域活性化、産業成長…

西: 利活用の方法として、どうせなら面白い事に使っていただきたいとの思いから、試行錯誤の結果、子育て支援はじめ、地域活性化、産業成長等、幅広い用途で利活用していただけるように、今回の事業を準備させていただきました。
絹: それで京都府のホームページに(後で皆さんに是非検索してほしいんです!)、使用できる用途というのを、例を挙げていただいています。
子育て支援では…、例えばひとり親家庭向けのシェアハウスだって、いけるんじゃないですか?子どもや若者の居場所作りとしての子ども食堂、それから学習の場だとか、いわゆるサードプレイス、居場所づくりが考えられませんかと。
それからまちづくりの推進、地域を元気にするという活動では、地域おこし協力隊の人向けの住戸や若者シェアハウスなどなど、本当に幅広い。色々京都府さんも考えましたね。
西: ありがとうございます。
 
            (京都府HPより 使用できる用途)
 

●変わったところでは“ルームファーム(植物工場)”なんてのも可能です!

絹: もっとすごいのあるでしょ。産業成長のカテゴリーで“ルームファーム”というのを見付けた時、私びっくりしました。これなんですか?
西: 基本的には室内栽培という形です。
絹: 植物工場みたいなイメージですか?
西: そうです。屋外に畑がなくてもできる農業として、現在屋内農業ビジネスが盛んになりつつあります。ちょっと費用はかかってしまうとのことですが、この栽培に適しているのがトマトなどで、カナダでは実際に温室で最も栽培されている野菜という統計もあります。
絹: 中島副部長から、この間教えていただいたのですが、「大阪の方の市営住宅だか府営住宅で、いちごを育てているおっさんがいるらしいで」と。完全に無農薬で、受粉も人間がするので、日当たりが良かろうが悪かろうが、LEDで照らすので全然問題ないと。公営住宅をそんなことに使っている人がいると。
西: 面白いですねえ。是非使っていただければと、提案をお待ちしております。
 

■エピソード2 「三方よし」を目指しています

●事業者よし、コミュニティよし、京都府よし
絹: さあ、次は三方よし、エピソードで言いますとどの辺に行きましょうか。
西: 今回の事業効果と言いますか、事業のメリットをお話させていただくと、府営住宅の利活用により、事業者の皆様、団地の皆様、そして最後に京都府と、「三方よし」というのを目指しております。
絹: 私の本業は建設業ですが、先祖は近江商人のなれの果てなんです(笑)。だから先祖は滋賀県の出身のようです。「三方よし」いいですねえ。事業者(アイデアを持って手を挙げてくれる人)にとってもよくて、それから団地、周りのコミュニティにとってもよくて、京都府も公営住宅の空き室を使ってもらえて、その上、地域課題が少し前進するかもしれない。
西: そうなんです。京都府としても府営住宅が府民の皆様の貴重な公共資産であるという認識のもと、その有効活用していただくことによって、団地ひいては地域の皆様にとって、住みよい住環境をさらに推進させていくきっかけになればと考えております。
もちろん団地としても、若い方と自治会活動に協力していただける方に府営住宅を利活用していただくことによって、自治会を支援していただき、ひいては団地、さらには地域のコミュニティの活性化にもつながればいいなと考えております。
絹: これから広くいろんな人が手を挙げて申し込んでくると思うんですけど、今、結構問い合わせが続いているんでしょ?
             (京都府HPより 「三方よし」)
 

●現在、続々とお問い合わせをいただいております

西: そうですね。ありがたいことに、問い合わせも20件ほどいただいております。
絹: 確か1月19日に広報発表されて、まだ何日も経ってないじゃないですか。それで20件くらい。僕の知り合いの、興味を持ってくれそうな人に話をしますと、「ええ!」とみんな言うんですよ。「ちょっとその資料、どこで見たらいいか教えて!」と、複数の人からそういう声を聞きますので、ひょっとしたら本当に色んな人が集まって来るかもしれませんね。
今20数件申し込みがあるなかで、西島さんから見て、これはちょっと面白いなという申し込みや、どんな傾向があるのか教えていただきたいですね。
西: だいたい多く寄せられているのが、従業員さんの寮として使用したいという問い合わせです。実は本日も「従業員の寮に使いたい」という内見の調整に行ってきまして、その帰り道にこのスタジオに寄らせていただいています。
絹: 私も実は昨日の夜、ある場所で交流会がありまして、同じテーブルに座った方が綾部で新しい工場をおつくりになったということでした。その方は毎年タイ国から従業員を十数名、雇い入れて、訓練をするための宿舎として、民間の賃貸物件をお借りになって収容していらしたそうです。でも足りないので、「この京都府さんの動き、大変興味があります」とおっしゃっておられて、そんな方が数名おられましたね。
西: ありがとうございます。実際にそれこそ外国人さん向けの寮としても使用したいとの問い合わせもいただいております。
 

●某大学の観光学とのコラボのお話も…

絹: 他に西島さんが面白いなと思った使い方はありますか。
西: 実は先日も、某大学の観光学研究科の方とお話をする機会があったのですが、大学さんが府営住宅の一室を借り、団地の自治会さんとともに地域の魅力を発信し、観光名所を案内する。その代り団地の皆さんの暮らしをサポートしたり、団地のお子さんの学習の支援をご協力させていただければといった具体的な提案もいただいています。「地域の観光振興や団地の地域活性化の双方にメリットのある事業提案について検討していきたい」とおっしゃっていただきました。
絹: すぐにイメージしにくいのですが、わかることは大学生がうろちょろする。これは間違いなさそうだと。「自治会のこともお手伝いしてね」と言わないうちに、向こうはその気にもうなっていると。そして「自治会さんと共に、その地域を好きになってもらう。“ここいいよ!来ない?”みたいな情報発信をしたい」と。これは地元の人にとってうれしいじゃないですか。
西: そうですね。地域の魅力も発信していただければ、府営住宅の利活用という枠組みを超えて、まちづくりへも繋がっていくのではないかなと思っております。
絹: これは面白いですね。観光からの接近、しかも大学からの接近。リスナーの皆さん、これは本当に若い人が来てくれたらうれしいですね。
 

●子育て世代の人が京都に戻ってきてくれる起爆剤になれば

絹: それと若い人と言えば、これは京都市の場合だけかもしれませんが、例えば下京区、南区あたりの保育園の園長さんにインタビューをした時にこんなエピソードを聞きました。せっかく待機児童をなくすために、保育の枠を拡大したけれども、京都市の中心市街地の土地値が上がってしまったり、マンションの値段が上がったり、家賃が上がったりするために、若い夫婦が住みにくくなって、京都市の外に流れてしまうと。だから定員割れしちゃったという園長さんが複数おられました。我々京都市の住民としては、若い人がまた戻ってきて住みやすくなるために、公営住宅が空いているのなら、安く入っていただけたらいいのになと、思いますね。今回の試みが府営住宅にとっても、若い子育て世代の方が戻ってきてくれる起爆剤になったらきっとすごいですね。
西: 今回の事業では、皆さまが公営住宅に対して持っていただいているイメージからさらに一歩進めて頂いて、全く新しい視点から公営住宅を利活用していただきたいと考えています。
 

●団地コミュニティ活性化の一案としてのコレクティブハウス

絹: その利活用のイメージというところでは、コレクティブハウジングという言葉も入っています。コレクティブハウジングは、以前もこの番組のヘビーリスナーならご存知かもしれませんが、賃貸型で助け合いが起こりやすいようなソフトウェアが内包されているものを言います。
コモンルームという名前で、ご近所さんと一緒に、共同の食堂とか共同の居間がある。そこへは誰でも入れて、料理の得意な人が「今度の夕飯当番、一食430円くらいで作っておくし、要る人は黒板に登録しておいて」なんて、会社の社員寮のような感じが公営住宅でもし起きたらいいですよねえ。その棟なりそのフロアはみんな知り合いで、「実家からミカンが届いた。良かったらコモンルームに置いとくし、自由に取っていって」みたいなことが起こると面白いと思いません?
西: そうですね。素敵な新しい住み方・居住形態ですね。
 

●見守りサービス付き高齢単身者シェアハウスとか…

絹: それと高齢者等の生活支援なんかも考えてくれたらうれしい。福祉系の事業者がやってきて、見守りサービス付き高齢者単身シェアハウスとか。サ高住に近いけれども、単身で、高齢者同士がシェアする。でも見守り機能もついているわけです。ということはそばに福祉サポートの能力のある専門家がいるかもしれないという、本当に夢のある企画であります。
リスナーの皆さん、今までのお話を聞かれてどうだったでしょうか。非常に勇気のある試みを京都府さんは展開しようとしています。もう少し補足したい事はありますか?
 

●是非検索、お電話もおまちしております!

西: 今回是非皆さんに色んな利活用の提案をしていただきたいと京都府としては考えておりますので、「京都府営住宅空き住戸」や、「京都府営住宅ストック」で検索していただければ、今回の事業をご紹介するページが出てきます。そのページに募集要項等を掲載しておりますので、興味がある方は是非ご覧ください。
絹: もう一回言いますね。検索キーワードです。「京都府営住宅ストック」、あるいは「京都府営住宅」と「空き住戸」のアンド検索をしていただくと、必ず上位にヒットします。実施要領もありますし、電話をかけていただいてもいいと思います。京都府建設交通部住宅課075-414-5366です。電話が繋がったらひょっとしたら西島良輔さん本人が出るかもしれません(笑)。
西: はい、私が出させていただきます(笑)。
絹: 西島さんが電話応対だとか問い合わせの応対で「ふーっ」となるくらい来て下さるとうれしいですね。そして私の勝手な予想ですが、京都府がこういうことをされたということで、おそらくは京都市役所も追随しようと虎視眈々と狙っていると思います。そして京都府の皆さんと京都市の皆さんが何か響き合うというか、リエゾンと言うか、イイ感じの影響を与え合う近未来が来るといいですね。
西: そうですね。
絹: 今日は若き行政マン、京都府建設交通部住宅課主事の西島良輔さんの「府営住宅とあなたの夢がマッチング~若者の視点からひもとく空き家活用 地域課題に挑戦する人を求む」という番組をつくらせていただきました。是非検索、あるいはお電話をしてくださいね。
この番組は心を建てる公成建設の協力と京都府地域力再生プロジェクト、そして京都市景観まちづくりセンターの応援でお送りいたしました。
どうでしたか?初めてのラジオ出演。
西: 少し緊張しましたけれども、楽しくお話させていただきました。
絹: リスナーの皆さん、わかるでしょ?見るからに、聞くからに、真面目な行政マン。彼の将来、期待大です。皆さまありがとうございました。さようなら。
西: ありがとうございました。
投稿日:2023/03/16

第182回 ・都市計画の見直し(案)を読み解く~わかったようでわからない都市計画の見直し(案)をひらがな化できますか?

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山: 山口 耕平 氏(京都市都市計画局都市企画部都市計画課 特別用途地区・まちづくり条例 担当係長)
絹: 絹川 雅則(公成建設株式会社)
        (山口 耕平 氏)

 

絹: 皆様こんにちは。そしてこんばんは。まちづくりチョビット推進室の時間がやってまいりました。
この番組は地元京都の建設屋の目から見た元気なまちづくりびとのご紹介や、その活動の最新のエピソードをお伝えしております。いつものように番組のお相手は当まちづくりチョビット推進室 絹川がお送りいたします。
さて、本日のゲストですが、ラジオカフェのご近所さんからお招きしております。京都市都市計画局都市計画課から、担当係長の山口耕平さんをお招きしました。山口耕平さん、よろしくお願いします。
山: よろしくお願いします。
絹: 私と山口さんの出会いは、まだ最近なんです。直接会ったのは2~3度くらいですね。
山: そうですね。年末くらいから。
絹: リスナーの皆さん、結構大きな変化が都市計画と呼ばれる分野で起こっているんです。そのことを勉強したくて、山口さんの上司である平井部長(僕が勝手に京都市のエースかなと思って尊敬もしている方なのですが)のところに行きまして、「今回の都市計画の大きな見直し変更、一般市民の方(私も含め)専門家ではない人たちにとって、ちょっとわかりにくいかもしれません。ラジオカフェで番組つくれませんかね。」とお聞きしたら「いいよ」と言ってくださって、しばらくたって「俺が行くより、うちの若い衆を出すから、頼むわ」とご紹介いただいたのが山口耕平さんです。では山口さん、自己紹介をお願いします。
山: 都市計画課で係長をしています山口と言います。市役所でも十数年働かせて頂いていまして、都市計画課に来ましたのは、去年の4月で、それまでは建築指導部というところで、建物の申請等の業務をしていました。去年の4月に来て、この見直しを引き継いでやっているという形になります。
絹: 今日の番組タイトルをどうしようと、実は打ち合わせをしておりました。タイトルの決定にもちょっと苦労しましたけれども、「都市計画の見直し(案)を読み解く~わかったようでわからない都市計画の見直し(案)をひらがな化できますか?」と題してお送りいたします。冗談めかして言いましたが、すごく分厚い資料が手元にはあります。でも一般の新聞やテレビの報道では本当に一部分切り取ってしか報道されてないような気がしまして、私の希望としては山口さんにその背景、パンチラインを、ひらがな化して解説いただけませんかと、無茶ぶりしました(笑)。リスナーの皆さん、すごく大きな変化が起ころうとしているんだよということをご注目ください。
 

■エピソード1 そもそも京都市は今、何をしようとしているのか

●今回の見直し案、目的は高さの緩和ではありません
山: まず都市計画という言葉について、ご説明したいと思います。色々あるのですが、一番大きいのは道路や鉄道、公園などをどこに配置するかというところや、どこにどんな建物が建てられるかということも決めています。今回その見直しをしようとしているのは、建物の建てられる場所や大きさについて変えようとしているということです。テレビや新聞では高さの緩和がされるということが注目されているのですが、実は目的は高さの緩和ではないということをご説明できればと思っています。
絹: 大事ですね。リスナーの皆さん、気を付けなければならないのは、所謂マスメディアでは本当に一部だけ切り取って伝えることが多いよと。そういうことを山口さんの口から説明していただこうとしています。
 

●京都市では子育て世帯の流出、オフィスの不足が深刻です

山: その背景なのですが、それも結構報道されているのですが、京都市では人口が減っており、特に子育て世帯が流出しているということ、それから(これはあまり報道されてないかもしれませんが)オフィスが結構不足しているという問題が起こっています。それで住む所働く所が足りないという状態が今起こっているということです。
絹: これを聞いて、1人の京都市民としてちょっと悔しいなと思うんです。私事で恐縮ですが、私の息子も京都市民から亀岡市民になってしまいました。うちの会社の社員さんなども、滋賀県で庭付きの住宅を買いたいという人が多かったりして、何かやっぱり京都市の中心部や京都市内が子どもを育てたりするのに、ちょっとしんどいと思っている人がいるようです。土地の値段が高かったり、マンションの値段が高くなりすぎていたりと、そういう理解でいいですか?
山: そうですね。人口が減っている理由については、京都市は色々あるとは考えているのですが、やはり元々京都と言うのは土地が狭いこともあり、その関係でマンションやオフィスはもっとつくりやすくしていかないといけないよねというのが課題としてあるかなとは考えています。
そういう問題に対応するために、京都に今必要な機能や建物は、これまでよりももっと建てやすくして、それを誘導していこうとしているのが今回の見直しのスタートになっています。
ただ、ここでしっかりとお伝えしておかねばならないのは、これは京都市の中でも京都の景観の守るべき骨格というのがあって、それは絶対に守っていきましょうということを前提に今回の見直しをしているということなのです。
 
      (※京都市HPより 京都市の年代別社会動態グラフ(日本人のみ))
 

●新景観政策は守ったまま、見直しを進めているのです

山: 骨格というと言い方が難しいのですが、京都は盆地の地形になっているので、中心部では御池通などはある程度高い建物を建ててもいいのですが、そこから山に近づくにつれ、だんだん建物の高さを低くしていくという考え方が京都にはあります。それは平成19年の新景観政策で始まったものになるのですが、今回それから15年経って、新景観政策を守ったまま今回の見直しを進めているというのが、しっかりお伝えしておかねばならないことかなと思っております。
絹: 私はご存知のように職業が建設屋でございます。平成19年に始まった新景観政策について、必ずしも大賛成していたわけではない業界の1人です。すごく厳しくなって、仕事がやりにくくなったという印象が強い、特に不動産、建設関係です。でも今回そのことを見直していくというのは、例えば大文字が見えなくなろうが、有名ないい雰囲気の古いお寺の周りに何が建とうが知らんというのではない。京都の景観や都市格はやはり今回の見直しでも守りたい、石にかじりついても守りたいという気持ちは持ちつつ、そうではない部分で大きな見直しがあるということですね。
 

●都市機能と住環境のバランスをしっかり見ながら

山: 少しややこしいのですが、15年前の新景観政策で決めた事自体を変えるものではなくて、あくまでもそれは守ったままで、バランスをとりながら見直していくということなのです。
絹: なにか報道だけ聞いていると、「あ、京都市、方針変えた?」という風に誤解している人たちもいるけれども、元々の方針は「俺たちは間違ったことを言うてへん!」と。だけど今人口の減少だったり、若者、子育て層が流出していたり、オフィスが足りなくなったりするのに、今できる見直しを色々考えた、それをまず見てくれと。
山: そうですね。元々新景観政策自体も、時代と共にちゃんと進化していくものだという言い方をしています。ですので今回の見直しも、景観もあるけれども、先ほど申し上げた建てた方がいいもの、そこにあるべき機能(都市機能という難しい言い方をするのですが)と、それを建てた時の周りの住宅への影響(今お住まいの方の住環境へ影響)という、景観と都市機能と住環境のバランスをしっかり見ながら検討していきました。
 

■エピソード2 例えば外環状線沿道、こんな風になればと考えています

●山科駅から六地蔵駅までの外環状線の沿道、ちょっとイメージしてみてください
絹: 今の流れで、象徴的なエリアで、山科の外環状線沿いのことにそろそろ切り込んでいただけませんでしょうか。
山: 今回の見直しは全市的にということでさせていただいていて、今ご指摘いただいた山科の外環状線沿道、山科だけではなく伏見も含めて東部方面という言い方をしているのですが、山科駅から六地蔵駅までの間の外環状線の沿道について、これまでよりも建物を少し建てやすい形、大きさも少し大きくできるように変えているんです。
絹: リスナーの皆さん、イメージしてくださいね。山科駅から外環状線で椥辻駅、醍醐駅を通って六地蔵駅とずっと南へ行く、この外環状線の線上について、少し考え方を変えていくんだよとのことです。さて、そのこころは。
 

●もっとここに若い世代が住みやすいまちをつくりたい

山: 「ここにもっと若い世代が住みやすいまちをつくりたい」というのが、そのこころになります。
絹: 先ほどの山口さんの言葉を借りますと、「地下鉄が通っていて、その地下鉄と連携して外環状線沿いに色んな建物があり、あるいは賑わいがあって、安心して子育て世帯や若い人たちが歩きたくなるような建物や施設群が誘導されてくる、そのような都市計画の見直しをやってみたんだと。
山: 今まででしたら、単純に大きく建てたり高く建てたりできるよという変更をすることが多いのですが、今回は高く建てるためにはちゃんと歩道を広げてもらったり、一階にお店を入れてもらったりなど、条件をつけさせて頂いていて、そういうものについては少し大きくつくってもいいよというルールにするんです。ですからそういうお店ができたり、歩道が広がったりといったことを実現していこうと考えています。
絹: 地下鉄との連携ですね。歩いて楽しい、そんな都市。東部方面の外環状線の沿道と書いてありますね。賑わいと潤い溢れる地域コミュニティや文化の創造拠点、言葉にすると難しいかもしれませんが、でも若い子育て世帯の人が、暮らしやすくて、住んでいて楽しいと言えるエリアになるといいよねという願いが込められた都市計画決定の変更であると。
山: そういうことですね。
絹: 条件を満たす場合には、高度地区、無制限に?
山: これも結構「無制限」というのがかなり色々話題にはなっているのですが、元々31mの高さの規制がありました。これがだいたい10階建てくらいになるんです。ただその高さの規制があるなかで、結構ぎゅうぎゅうに建っていると言いますか、外環状線の沿道にせり出して、今、建物が建っている状態なんです。つまり外環状線の歩道があって、そこから建物がすぐあるような状態で、なかなか歩きやすい感じがしない。それを今回高さを31mよりは高く建てられるようにする、無制限とあるのですが、実際は費用的な問題や法規制の問題でいくらでも建てられるというものではないのです。今よりは自由に建てていただけるようにすることで、もう少し下がって建ててもらって、お店を入れてというようなことをすることで、外環状線沿いがもっと楽しい、暮らしやすいエリアにしていくということですね。
 
        (※国土交通省HPより 絵で見る都市計画)
 

●御池通をイメージしてみてください

絹: リスナーの皆さん、イメージして頂きやすい例として、京都市のメインストリートの1つである御池通、何か歩きやすいですよね。あれはなんでかと言いますと、歩くスペースが広いからなんです。
山: そうです。そして御池通も一階にお店を入れないといけないという山科と同じルールが実はあります。それで一階にショールームとか、ハンバーガー屋さんとか、コーヒー屋さんなどが入っているということですね。
絹: 何か御池通をそぞろ歩いている、そこから三条通に下りていく、「三条通がそれ以前よりなんだかすごく良くなったね」みたいなことを感じた時期がありましたよね。ああいう歩いて楽しいという、あの時の感覚を外環状線沿いにも欲しいなと誰かが思ったのかもしれませんね。
本当に今回の、用途地域や容積率、高度地区等の見直し案は盛りだくさんで丁寧に説明しているとすごく大変なので、今無理やり大づかみに無理をお願いして山口さんに解説をしていただきました。次、解説をプラスするとしたら何ができますか。
 

■エピソード3 京都市の都市計画、もっと広く知っていただきたい

●パブリックコメントのご意見からー高さ規制と騒音問題
山: 今回のパブリックコメントでいただいたご意見をご紹介したいと思います。私が直接ご意見を伺いに行った中ですごく印象的だったお話です。五条あたりのマンションに住まれている方なのですが、マンションの天井が非常に低く、以前住んでいた大阪のマンションに比べて、上の階の音が響くということで、たぶん床の構造が高さ規制で薄くなっているせいじゃないかということでした。実際に上階にはお子さん連れのご家族が住まれていて、音が響く旨をお伝えしたことがあるようなのですが、その関係でその方が引っ越されたと。そういう意味で高さ規制ということが(その人は賛成なのですが)、子育て世帯が住みにくくなっている事もあるのかなというお話をされていました。それを聞いてすごく私も難しいなと思いながら、やはりどちらも大切なことだなと印象深かったですね。
絹: 今のお話を補足いたしますと、高さ制限がかかっている所で、共同住宅を設計したり建設したりすると、部屋の内々の高さをある程度犠牲にして、要は天井が低い建物を頑張ってつくることになります。防音対策としては、ボイドスラムという空気の円柱と言いますか、茶筒の親分みたいなものが床の中に入れて、音が響かないようにするわけです。ただその工法を採用すると、床の厚みが厚くなってしまいます。たぶんその方は建築の知識のある方だったんですね。そういう厚い床の工法を取れないから、ひょっとしたら上階の音が大阪のマンションに住んでいた時よりも伝わってきたのかもしれないと想像されたと。
山: そうですね。その人のちょっと感覚的なところがあるのですが。
絹: でも高さ制限があまりなければ、天井の高いおうちに住めるかもしれないなというのは、あるかもしれないですね。
山: そこのバランスですよね。京都の守りたいものと、環境の。
 

●今回の見直し案について、市民の方から大変高い関心をいただいています

絹: 今回の都市計画の見直し案について、869通、2445件の意見が寄せられたというので、市民の方から関心が高かったんですね。
山: そうですね。以前、4年くらい前に行った時の意見数のだいたい2~3倍はご意見をいただいていたので、そういう意味ですごく注目していただいたなと思っております。
絹: その分析、解析のため、一回読むのに8時間以上かかったと。それを何回も繰り返して、へとへとになっておられたのが、ここにおられる山口さんです。
山: いえいえ(笑)。
絹: でも京都市の担当の人はそうやって、皆さんどんな意見を持っているのかなというのを丁寧に読み解こうという努力は続けていらっしゃいます。ですので一般の方々には専門的すぎるような用語が使われているホームページの資料などもありますが、なぜこういう見直しがなされようとしているのかを、ひらがな化して読んでいただけると、これに携わった方々はありがたいなと思われるかもしれません。
 

●京都市には元々高さ制限のないエリアもあります

絹: それとあと1個だけ。元々高さ制限がないエリアでも、今回の見直し以前から京都市にはあるのよと。僕、意識してなかったんですけど。
山: そうですね。あまり京都市内の方もご存じないんですけど、京都駅よりもっと南に行った十条通と鴨川と国道1号に囲まれた辺りや、鴨川より南側の京セラのビルのあるあたりのちょっと南側周辺も、京都市では「らくなん進都」と言って、産業を集積する地域として、その辺りは元々高度地区と言って高さの規制がなかったりします。
 
  (※らくなん進都整備推進協議会HPより 「らくなん進都」エリアマップ)
絹: そういう場所だって、ちゃんと京都市は計画しているんですよと。
山: そういうことは京都市外の方はもちろんご存知ないし、京都市内の方も実はあまりご存じない方が多いこともあるので、そのあたりもしっかりわかっていただけるようにしていかねばとも思っています。
絹: ですから広報というのは大切ですね。今回の有識者委員会でも京都市の都市計画が厳しすぎるという印象を持っている人が多いよというところから、実際にいろんなことを考え始めたということも教えていただきました。
山口さん、今日話してみられてどうでした?ご感想など一言。
山: まさに最後にお話させていただいた通り、やはり都市計画って色んな方に知っていただくことが一番大切だと思うので、実際に進めて行くにあたって、今日こういう場をもたせていただいて、非常によかったなと思っています。
絹: ありがとうございます。本当にこれは29分の番組で説明するのは無茶ぶり過ぎる話で、そんな注文を出してすみませんでした。
でも、リスナーの皆さん、とっても大切な変化が起きようとしています。そしてそのこころは、外環状線に代表されるように、賑わいと若年層、子育て世帯の人たちが住みやすくなる建物群に来てほしいということ。そして若い人たち、子育て世帯の人たちが住みやすくなる京都市になんとか変化させようと、都市計画の専門家の人たちが考えていらっしゃること、伝わってまいります。京都市の行政の方々は一生懸命仕事をしても、自らの仕事を喧伝することをしないのが通例です。こうやって一生懸命フラフラになりながら仕事をしている人たちを見付けたら、「ご苦労さん」と一声掛けてあげていただけたら幸いです。
ということで今回は少し硬いお話になりましたが、京都市のホームページなども是非ごらんください。
この番組は心を建てる公成建設の協力と京都市景観まちづくりセンターの応援でお送りいたしました。それでは皆さん、ありがとうございました。山口さん、ありがとうございました。
山: ありがとうございました。
投稿日:2023/02/02

第181回 ・「市民協働ファシリテーター」って何?~3人のファシリテーターに聴く!

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岡: 熊切 英司 氏(京都市文化市民局地域自治推進室マイナンバーカード企画推進担当係長)
絹: 絹川 雅則(公成建設株式会社)
      (熊切 英司 氏)

 

絹: 皆様こんにちは。そしてこんばんは。まちづくりチョビット推進室の時間がやってまいりました。
この番組は地元京都の建設屋の目から見た元気なまちづくりびとのご紹介や、その活動の最新のエピソードをお伝えしております。いつものように番組のお相手は当まちづくりチョビット推進室 絹川がお送りいたします。
さて、今日のゲストは、皆様にとっては聞きなれない、市民協働ファシリテーター第二期生、熊切英司さんです。
熊: こんにちは。京都市市民協働ファシリテーター二期生の熊切英司と申します。よろしくお願いします。
絹: 市民協働ファシリテーター、市民は京都市民の市民、協働は「協力する」に「働く」で、ファシリテーターはカタカナです。この頃、「ファシリテーション」「ファシリテーター」という言葉が、10年前や20年前に比べたら市民権を得てきたようにも思いますが、まだまだ皆様にとっては耳慣れないキーワードの1つかもしれません。
さあ、ゲストの紹介ですが、私と熊切さんの出会いは最近ですよね。
熊: はい、つい最近で、数週間前にご挨拶させていただいたというところございます。
絹: 市民協働ファシリテーターという仕組みができて6年。
熊: そうですね。京都市で市民協働ファシリテーター制度というのができて今年で6年目ということになります。
絹: その中のお1人が熊切さんです。
まずは番組タイトルを申し上げます。「市民協働ファシリテーターって、何? ~3人のファシリテーターに聴く!」と題してお送りいたします。
 

■エピソード1 そも、市民協働ファシリテーターとはなんでしょう?

●これからの京都市を市民の方々と共につくるために
熊: この市民協働ファシリテーター、先ほど耳慣れないですねというご紹介がありましたが、確かにそうだと思います。現在、価値観やライフスタイルが多様化していると言われていますし、皆さんもそのように感じられておられると思います。そういう現在、行政だけで地域自治を進めていくというのは、本当に困難なのです。
ですから市民協働ファシリテーターという役目の人たちが、これからの京都市を市民の方々と共につくるために、市民の皆さんとの対話を通じて、その思いを引き出し、複雑で答えのない課題について、合意形成を図り、新たなアイデアや関係性を生み出して、協力して行動できる状態をつくりだす役目。これが市民協働ファシリテーターであり、これを志す職員が市民協働ファシリテーターということでございます。
 
  (京都市「市政参加とまちづくり」ポータルサイトより  市民の方を交えたワークショップの様子)
 

●様々な人たちの調和を図りながら、課題の解決へ

絹: リスナーの皆さん、1つの極端な例を挙げます。私、絹川は烏丸通の近くに住んでいます。仮にこのおっさんについて、典型的なネガティブ市民像を想像しましょうか。市役所に電話をかけます。「ワシの家の前の街路樹の銀杏、落葉していっぱいやねん。銀杏も落ちてて臭いねん。ワシ、市民税払ろてるやろ。行政、掃除しに来いや」と。非常にステレオタイプな、従来の、あまり尊敬しにくい市民像を敢えて描きましたが(笑)、そういう絹川のおっさんがいたとします。
一方で、この頃はそうではないタイプの市民の方々が増えているような気がします。行政の方々と一緒に地域課題を解決する、そんなテーブルが公募されたとしましょうか。「土曜日なら仕事が休みやし、行くわ」とばかり、区役所に行くとします。
ラウンドテーブルについて、役所の人と「地域のこの問題なあ…」と話をする。「それならオレもできるし、プロでもあるし、ちょっと手伝ってもええで」と言って行動に移す市民が結構増えてきている。最初の典型的なネガティブ市民イメージをAとして、後者をBとすると、AとB全然違いますよね。その後者の新しいタイプの市民さんと共に働こうとしているのが、市民協働ファシリテーターかもしれませんね。
熊: はい。今社長がおっしゃったAというタイプの方、所謂これは地域の課題なのだと思うんです。その地域の課題について、解決策を模索する人々の調和を図りながら、解決策へと話を進めていける、そういう役目の人間が協働ファシリテーターということになるかと思います。
 

●“ドアちかマップ”ご存知ですか?

絹: リスナーの皆さんにもう1つ、小さな事例ですけど、ご紹介したいと思います。地下鉄をイメージしてください。地下鉄のホームの所に“ドアちか”という表示が出ているのをご存知でしょうか。
熊: “ドアちかマップ”ですね!
絹: “ドアちかマップ”、「○○駅ならこのドアの近くに乗ってもらうと、高齢の方や足の悪い方など、エレベーターやエスカレーター、近いですよ」というのが一覧表にして書いてあります。それを“ドアちかマップ”と言うんです。あれは市民からの提案を、“京都市未来まちづくり100人委員会”という組織の中のあるチームがまとめ上げた結果、つくりだされたものです。
熊: やはりそうですよねえ。あれはまさに利用者目線のアイデアだと思っていたんですよ。たぶんその利用者さんのご意見がなかったら、行政だけではあの発想はきっとなかったのではないかと思います。
絹: たぶん学生さんか、非常に若い方の発想、それとお年寄りが融合して、当時まだ市民協働ファシリテーターという制度がなかったけれども、行政からもファシリテーター的な役割をしている人たちがチームをつくって、その結果結び付けたわけです。我々の日常生活の中には、小さいけれどもこういう例が実は多くて、広く知られていないけれども、既に京都市内では起こっています。
さあ、そういうファシリテーター、市民と行政が一緒になって、何かお互いに助け合って、新しい事態、地域課題を解決する方向に向かわないでしょうか。「ワシ、税金払っているし、行政がやったらええねん」というタイプAの市民の声に、「いやあ、行政としても、予算もマンパワーもフウフウ言うてますねん。できたら一緒に助けてもらえませんか」となった時に、男気(男気だけじゃないですよね、女気という言葉はないかもしれませんが)出して駆けつけて…。
例えば区役所レベルで、“まちカフェ”とか、やってられません?
熊: 区役所によってはやっている区役所もありますね。
絹: “朝カフェ”とか言って、区役所に集まって、こういう会議をしておられる。そういう所で活躍するのが、どうやら市民協働ファシリテーターのようであります。
(京都市交通局「ドアちか京都市地下鉄便利マップ」より京都駅ホームのドアちか)
 

■エピソード2 わたし、熊切にとっての市民協働ファシリテーターとは

●時にはメンターとして、時には同行者として、1つの良い形に繋いでいく
熊: 私は昨年度まで、下京区役所の地域力推進室という部署で広聴係長として働いておりました。この“広聴”というのは、区民の方々の様々な意見を、文字通り「広く聴く」という役目なのですが、その聴いたご意見を政策に反映していくということです。色んなご意見がありまして、建設的なご意見もあれば、苦情やお叱り、色々ございます。個別に対応できるのであれば、適宜対応していけばいいのですが、やはり地域として受け止めて考えて行かねばならないという、大きな課題もございまして、そういう場合に私自身が市民協働ファシリテーターとして、地域の担い手の方々や同じような課題意識を持った方々を集めまして、その皆さんの多様な意見を引き出して、課題の解決の糸口を探る、様々な対話手法を織り交ぜたワークショップを企画実施してまいりました。
実際のところ、地域による事情や立場の相違などもあり、完全に合意形成に至ったというケースはほとんどないのですが、相互理解を通じて、互いが次の一歩を踏み出すためのモチベートはつくり出せていたのではないかと思っているんです。
市民協働ファシリテーターというのは、多様な意見を集めるだけの司会者でもダメだし、Aという意見、Bという意見を引っ付けるだけの接着剤だけでもやはりダメなんです。その課題が持つ多様性を顕在化させて、よりよい未来に向かう道を、市民の方々と共に探す、時にはメンターでもあり、時には同行者でもなければならない。そして1つの良い形に繋いで行ける、そういう役目でないといけないと思っているんです。
 

●多様な意見を拾っていくために

絹: 議論が拡散してしまって収束しない、あるいは住民集会などでよくありますが、声の大きいおっさんが、初めから最後まで文句だけ言って、周りのおとなしい人は黙っている。でも本当はサイレントマジョリティーの中に共通して持っている思いがあったりします。ところが実際は100人集まった住民集会でしゃべれるのは、地域の声の大きい方が1人か2人で…、というのがかつて多くありました。さて、その時にサイレントマジョリティー、多くの方が心の中で思っているけれども、口にしていない思いを、丁寧に拾うためにはどうしたらいいんでしょうか。そう聞いたら、熊切さんたちはその修練をしているわけですよね。
熊: そういうことですね。ワークショップですから複数の方々に集まっていただきます。そして皆様にご発言いただき、皆様のご意見を聴くということですから、中には今おっしゃったような声の大きくて自分の主張を繰り返す方というのは、必ず出てこられます。でも、一定のルールを決めて皆様に発言をしていただいて、極力多様な意見を拾っていく。そういう役目でもあると思っています。
 

●ワークショップの様子、ちょっとご想像ください

絹: その中の1つ、典型的であり、クラシックな手法を、御想像いただくためにご紹介をします。文化人類学者の川喜多二郎先生が考案されたKJ法というものがあります。皆様にもお馴染みのポストイット(付箋紙)というメモ用紙を使う手法です。
仮に50人の参加者なら、まずは5人ずつ10組の小テーブルに分かれます。テーブルでは最初にそれぞれ1分間でお互いどんな人が集まっているのか、短く自己紹介をしていただきます。その際、“ ①人の発言を妨げない ②人の発言を否定しない ③最後まで聴く”という基本ルールだけ守っていただくよう、熊切さんみたいなファシリテーターの人が最初にリードします。皆がルールを了解して、自己紹介をするわけですが、これをするとテーブルがほぐれてきますよね。
熊: アイスブレイクですね。
絹: 次にテーマAについての情報を、行政なり、進行者なりから説明があり、そして…
「この課題についてご意見をいただきます。自由にお話しいただいて(でも時間は20分なら20分と決めます)、ご意見を付箋紙に1つずつ書いて置いていってください。それからテーブルに居残りさんを1人だけ決めて、残り4人の人は他のテーブルに旅立ってください」
これを第二セッションにおいても同じように繰り返します。また居残りさんを決めて、4人は他のテーブルに旅立つ。こういうことを2~3回やると不思議なことが起こりますね。これ、何と言うんでしたっけ?
熊: ワークショップの技法でワールドカフェという技法ですね。
絹: リスナーの皆さん、ワールドカフェです。別にコーヒーを飲むわけではないんですよ。
熊: まあ、コーヒーを飲む雰囲気でということですね。
絹: そういう会議の場には、気分を和らげるために、必ずコーヒーやお菓子などが置いてあって、ちょこっと会議中でも取れるようになっています。ワールドカフェって、実は楽しいんですよね。
熊: そうですよね!
絹: この間もファシリテーター研修で、丁寧にワールドカフェ、やってらっしゃいましたね。
熊: ありがとうございます。
 

●時間を守ってもらうために

絹: このように声の大きい人たちだけの声を拾わない工夫、声の大きい人は、声のサウンドレベルを少し調整してもらう。声の小さい、思いをなかなか外に出しにくい人には書いていただいたり、安全な雰囲気で、「自分の思いを語っていいんだ」という風に、熊切さんたちファシリテーターズが場の安全を保障する、担保する、支える。ある意味すごく難しいお仕事かもしれませんね。
熊: おっしゃっていただいたように、非常にナーバスな部分、センシティブは部分も気を回さなければいけません。発言したいけど、発言できなさそうな方にも発言いただけるように配慮を向ける。そして冒頭でおっしゃったように、妨げない、否定しない、そして時間を守るという、我々は手挙げルールと言っているのですが、時間が来たら手を挙げるんです。みんなはそれに気づいたら手を挙げて口を閉じると。ということで進行をスムーズにしていくというものです。
絹: 手挙げルール、思い出しました。決めた時間が来ると司会進行の人が手を挙げる。そうすると周りの人も気が付いて、周りの人も手を挙げていく。例えば絹川くんが1人熱くなってしゃべり続けていると、周りの人が全員手を挙げていた。そこで「あ、しもた!」と思って、絹川くんも最後に手を挙げたと(笑)。発表の途中でチーンというベルを鳴らすというのではない、ファシリテーションのタイムキープ、面白い工夫ですよね。
熊: これ、なかなか効くんですよね。みんなが手を挙げると。しゃべる人も「ああ、仕方ないな」と思って黙ってくれるわけです。
絹: そして発言の終わりには「よく発言してくださいました」と感謝を込めて周りの人が拍手したりすることが多いですね。
熊: そうです。発表していただいたら必ず拍手。皆さんで拍手して称え合うというのが、1つの暗黙のルールになっていますね。
絹: リスナーの皆さんには、言葉だけで、音声だけでワークショップの雰囲気を想像していただけたら有難いなと思います。
 

■エピソード3 市民協働ファシリテーターの今後、こんな風に考えています

●民間企業にいた京都市職員として感じること
絹: さて、市民協働ファシリテーターの今後。さあ、今後はどうなっていくんだろうという熊切さんの思いを下さい。
熊: 私は京都市の職員なのですが、実は民間企業経験者採用ということで、まだ行政に入って10年なんです。それ以前はずっと民間企業で営業をしていまして、ですから民間企業にいた後で行政の職員になったタイプの人間なんです。そういう人間から見て、行政が意思決定を行う時に、よく市民感覚で考えろと言われるんですが、現状ではやはり役所意識と言いますか、役所の常識がまず頭にあった中での市民感覚を頼りにしているようにしか思えないところがあります。予め想定した落としどころに向けた議論、そんな感じなんですね。そんな議論も当然必要な時もあるのですが、それだけではやはりイノベーティブな展開というのは、なかなか生まれないと思います。その壁を破るのが、実はこの市民協働ファシリテーターなんじゃないかと思っているんです。
この市民協働ファシリテーター制度が始まりまして6年です。今年の受講生が6期生ということになるのですが、本市におけるファシリテーションの文化や土壌はまだ途上段階です。みんな色んなワークショップを開いたり、ワークショップでファシリテーションをやったりしているのですが、意見を幅広く集めるための進行役にとどまっているなという人がすごく多くて、合意形成にまで持っていけてないなという悩みを持っている人が、私も含めて非常に多いんです。
絹: その合意形成の次に来るのは、行動であったり、新しいプロジェクトが生まれたり、そのプロジェクトに実際に協力する市民が、固有名詞で生まれたり、人が集まったり、それから行政の方は主幹部署が決まったりと、道は遠いですね。
 

●壁を乗り越えて、血の通った政策づくりの原動力に

熊: 遠いんです。まさに市民協働、字の通り、立場の違う人、全然知らなかった人同士が1つの課題に向けて共に働いていけるような、そういう状態に持っていける進行役が市民協働ファシリテーターであるのですが、そこまで至るのがなかなか難しくて、日々皆さん努力して、勉強して、そうなるべくやっているのですが…。
ただ本年度からは市民協働の機会を生み出したり、ファシリテーションを指導するアドバンストファシリテーターという新しい階層が、京都市の中に創設されまして、私も受講しました。今後、市民協働ファシリテーターの1人ひとりが、先ほど私が言った課題、なかなか合意形成に至っていないという壁を乗り越えて、市民との対等な意見者として意見交換、合意形成、そして血の通った政策作りの原動力になってくれるものと私は信じております。
 

●ファシリテーションは教育の現場でも

熊: 余談ですが、私は昨年度まで下京区役所で地域のまちづくりの部署におりました。そこにいた頃、区内の中学校一年生の担当の先生から、「生徒たちに地域学習を進めたいのでアドバイスが欲しい」という連絡があったんです。そこで、先生にお話を伺いに行き、相談しまして、生徒たちに地域の課題を見付けるというフィールドワークに出てもらい、その結果をワークショップで発表、そのワークショップの中で、生徒たちにファシリテーションをしてもらおうということになりました。そのファシリテーションの指導役として、京都市の市民協働ファシリテーターを数人派遣して、各テーブルを回って、ワークショップを見守ったということをしたことがあるんです。ですので実際、社会の中だけではなく、教育の現場でも、このファシリテーション、合意形成の大切さというものを認識され始めておりますね。
 

●市民協働ファシリテーター、期待しましょう!

絹: いかがでございましたか。僕は実は熊切さんたちが学んでおられるファシリテーション、京都市に導入された創成期に、同じく市役所の人たちと学んでいた時期があります。それがもう10年前かもしれません。京都市未来まちづくり100人委員会というチームがありまして、そこの事務局を3年間務めていました。そこからの経験ですが、非常に期待が持てます。
また数年前、京都市総合企画局の佐藤部長という市民協働の部長さんから「総合企画局では100名の自前のファシリテーターを育てたんだ」とお聞きしたんです。でも総合企画局は基本は事業予算をあまりお持ちにならない局のはずです。その目論見はなんだろうと考えを巡らせ、「ひょっとして局と局を結んで、官と民とを繋いで、新しいプロジェクトが動く時のファシリテーターをお育てになったんですか?」と水を向けたら、黙ってニタっとお笑いになりました。
熊: 図星だったのかもしれませんね(笑)。
絹: リスナーの皆さん、京都市は早くからこういう、陰ではありますが、新しい動き、市民の声を丁寧に拾う、そしてプロジェクトに繋げていくという活動を育てておられます。あ、時間です。またやりましょうね!
熊: ええ、是非お願いします。
絹: この番組は心を建てる公成建設の協力と京都市景観まちづくりセンターの応援でお送りいたしました。
投稿日:2022/12/05
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