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まちづくりチョビット推進室
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第192回 ・だんだんテラスってご存じですか?~気軽に集まれる地域の居場所がある団地…

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藤: 藤本 恭輔 氏(一般社団法人カンデ 男山地域コーディネーター)
絹: 絹川 雅則(公成建設株式会社)
        (藤本 恭輔 氏)

 

絹: 皆様こんにちは。まちづくりチョビット推進室の時間がやってまいりました。
この番組は地元京都の建設屋の目から見た元気なまちづくりびとのご紹介や、その活動の最新のエピソードをご紹介しております。いつものように番組のお相手は当まちづくりチョビット推進室 絹川がお送りいたします。
さて、本日のゲスト紹介です。ごくごく最近の出会い、11月の17日でしたか、始めてお会いしました。お若い方です。一般社団法人カンデ 男山地域コーディネーターという名刺を頂戴しました。藤本恭輔さんです。藤本さん、よろしくお願いします。
藤: よろしくお願いいたします。
絹: 藤本さんは八幡市の男山団地、URですね。今はURになっていますけど、昔は住都公団、住宅都市整備公団と言っていました。
この間、初めてお会いして、意気投合して「ゲストに来て下さい」と無茶ぶりをして来ていただきました。
僕が知っている限りの藤本恭輔さんの情報をちょっとだけ紹介します。関西大学の建築系の学生さんで、ごく最近大学院卒業したて?
藤: したてですね。
絹: 俗にいうM2の卒業で、その後一般社団法人カンデというところの男山コーディネーターという職を選ばれました。後々これを紐解いていだだきますが、まずは番組タイトルとまいりましょう。今日の番組タイトル、先ほど二人で相談しました。「だんだんテラスってご存知ですか?~気軽に集まれる地域の居場所がある団地…」と題してお送りいたします。
この“だんだんテラス”、平仮名で「だんだん」と書きます。実はすごく注目している人(多くはないかもしれませんが)、特に都市計画系だとか、まちづくりだとか、地域を元気にしようという研究者の間ではよく知られた場所です。
そこへ私は2023年11月の17日、初めて視察におじゃましまして、藤本恭輔さんと出会いました。ではマイクを藤本さんにお渡しして、そもそも“だんだんテラス”って、あるいは男山団地って何?というところからお願いいたします。
 

■エピソード1 そもそも、“だんだんテラス”ってなに?

●男山団地のこと
藤: 男山団地は大阪府と京都府の府境に位置する団地でして、URの賃貸が約4600戸、分譲が約1400戸の合計6000戸の大規模団地です。そこを舞台に今、まちづくりをおこなっております。男山団地の商店街の空き店舗をお借りして、“だんだんテラス”というコミュニティ拠点でありながら、緊急拠点であるものを設けております。
絹: この間、チラッと教えていただいたのですが、やはり関西大学の江川研究室がメインになっている感じですか?
藤: そこが発端で始まって来たという感じで、今は別の方にバトンタッチしている段階です。
 

●なぜ“だんだんテラス”?

絹: 平仮名で“だんだんテラス”、このネーミングの由来ってありましたか?
藤: これは『団地で談話する』とか、『だんだん変わって行く』という意味を込めて、“だんだんテラス”ということです。
絹: これは掛詞ということですね。「だんだん」って、どこかの方言で「おおきに」みたいな意味、なかったっけ?
藤: それは知りませんが、他に視察に来られた方に「男山やから、男のだんだん。すごい男男しいね」と勘違いされたエピソードはあります。
絹: だんだん変わって行く、団地で談話する、そういう場所ということですね。
藤: 「まちについて考え、話す」ということです。
 

●“だんだんテラス”、イメージしてみてください

絹: これはラジオですので、残念ながら映像は付いてこないのですが、リスナーの皆さんに画が浮かぶような状況説明って、できますか。
藤: 1つは開口がガラス戸3枚ありまして、外からでも中が見やすいように、中からでも外が見えるような設えになっています。
絹: 商店街の空き店舗とおっしゃっていました。だから一階にあるんですよね。グラウンドレベルと言うか、本当に「何やってるの?」と、すっと覗ける感じ。この間も私が行った時、「すみません、トイレ貸してください」と、パッと入れましたし(笑)、二部屋あったのかな?
藤: そうです。今、二部屋お借りして、コミュニティ拠点と地域工房でやらせてもらっています。
絹: 靴を脱いで上がり込む場所と、靴のまま入れる場所があって、ピカピカというのじゃない。なにか手作り感満載で、ペンキを塗ってある所もわざと下手に塗ってあるみたいな(笑)。
藤: 当時の学生がDIYで赤色の壁を塗ったとは聞いていますね(笑)。
絹: それから木の棚があって、何か色んな大工道具っぽいものとか、役に立ちそうな物が置いてあったり、色んなチラシがいっぱい置いてあって…。
藤: そうですね。地域で行われる情報発信の場になっています。
 
           (“だんだんテラス”内装写真)
 

●毎朝10時にラジオ体操やってます

絹: 打ち合わせなんかもすぐできる…。それから視察に行った時、すでに何人かの住民さんがおられて、「ここで毎日ラジオ体操やっているの!」というおばさんがおられました。
藤: 毎朝10時からラジオ体操をやっています。
絹: 「“だんだんテラス”大好き!」みたいな空気を出している比較的高齢の住民さんが、わらわらとおられましたね。
藤: だいたいラジオ体操にも、平均で20人前後は毎朝来ていただいて、「毎日の健康のきっかけにもなっている」との声も聞いています。
 

●地元産の野菜の販売もやっています

絹: それだけじゃなくて、だんだんテラスの説明で、「学生が中心となって、年中無休で運営しています」と。そして「週三回、火・木・日と、地元産の野菜販売を行い…」
藤: ちょっと今は火曜日と木曜日の週二回でやっているのですが、地域の農家さんを三軒回って、お野菜を預かり、だんだんテラスで販売しているということも行っています。
絹: さらに「まちづくりに関するグループの会合にも利用できます」と。だから本当に予約もなしに、朝、開けておられるのは何時ですか?」
 

●365日、10時から18時まで開いています

藤: 朝10時です。ラジオ体操とともに“だんだんテラス”も開くという感じです。
絹: 10時から18時。(お昼休憩を取っていることもあります)と。
藤: そうですね(笑)。会議に出ていたりもするので。営業時間というよりは、「だいたい10時から18時に誰かいますよ」みたいなイメージでやっています。
 

●“だんだんテラス”とわたし、そして学生たち

絹: 藤本恭輔さんご自身は現役学生時代から関わっていらっしゃったんですよね。
藤: そうです。学生の時から関わらせてもらっています。
絹: 四年生から常駐を始めたとのことですが、結構大変じゃないですか?
藤: 大学からだと1時間から1時間半くらいかかるので、朝8時半に出て、帰ったら19時半、20時とかになる感じです。
絹: 噂によると、関西大学のゼミ学生や院生だとかが中心になって運営されていると。“だんだんテラス”の運営サポートスタッフと言いますか、大学側は何人くらいの人がおられたんですか?
藤: 今年度は大学院二年生の人がだいたい4人いますね。その方は有志という形で男山団地に関わってもらっています。
絹: 学生さんがこうやってお当番みたいな形でいてくれるわけですよね。あ、スマートフォンのエピソードを思い出した!「スマートフォンの設定がわからへんの。と行くと、この子らはちょっちょっとやってくれるのよ」と言っていたおばさんがいました。
藤: そうですね(笑)。ちょくちょく聞きますね。最近ならコロナの予防接種もネット予約しか無理みたいで、その話を聞いたりしますね。
 

●“だんだんテラス”は出来て10年が経ちました

絹: その辺が“だんだんテラス”が機能しているのがよくわかるエピソードですよね。“だんだんテラス”て、できて何年でした?
藤: 今年の11月16日で10年になります。
絹: 10年やっていらっしゃる地域の居場所、6000戸ある巨大UR団地の中で、予約なしに10時から18時まで大抵開いている。しかもお当番の学生さんたち、顔の見える関係の人たちがいてくれたりする。お話相手にもなる。あるいは相談事にも乗れるし、大工道具なども置いてある。
藤: そうですね。工房もあるので。
 

■エピソード2 まちの人にとっての“だんだんテラス”

●まちの居場所として
絹: リスナーの皆さんにさらに理解してもらえるように、「ある日のだんだんテラスでこんな事が起こりました」みたいなの、ありますか?
藤: 日常で言いますと、朝、ラジオ体操をした後は、住民さんでコーヒーを淹れて、30分から1時間くらい4~5人でコーヒーを飲みながら話して解散されるというのが、日常ですね。
絹: 常連さんはどれくらいなんでしょう。“だんだんテラス”をよく利用する人、たまに利用する人、それからほとんど利用しない人みたいな形で、層別ができるとしたら、時々でも来て、“だんだんテラス”に優しいまなざしを向けている住人というのは、どれくらいおられるんでしょうねえ。
藤: どれくらいいるんですかねえ…。
絹: 「あってよかった!」とか、「“だんだんテラス”やっててくれて、ありがとね」みたいな、時々「これ、差し入れのみかん」とかって持ってきそうな感じの人もいる?
 

●まちの灯りとして

藤: いただきますねえ、差し入れとか…。あと、18時までなんですけど、ちょっと作業していて19時くらいまでなった時、ガラス戸なのでまちから見えるんです。そうなるとおっちゃんが来て、「ようがんばってるなあ、元気もらえるわ」とかって、思わぬところに影響を与えているというか。
それから“だんだんテラス”は、真ん中に和紙照明があるのですが、常時点灯していて、それは「まちの灯り」というコンセプトで常に点けているのですが、やっぱり夜になると商店街のシャッターが閉まってしまうので、お仕事から帰って来た時に、「“だんだんテラス”の柔らかい灯を見て安心する」という声もあります。
絹: ということは、夜暗くなっても、18時を超えても消さないという不文律が、「まちの灯り」としてあるんですね。
藤: そうです。それも10年間続けてきたというのを聞いています。本当に思わぬところに影響が出ています。
 

●先輩方から学ぶこと

絹: 藤本さん自身は大学四年生の時から常駐を始めたとのことですが、その前の先輩方から10年間やられていたわけですよね。「こういうこと、気を付けてやれよ」みたいな、先輩方からの申し送りみたいなものはありますか?
藤: 住民さんによって特色があるので、こういう方はこういう対応をした方がいいといったことをお聞きしたりします。それから住民さんも仲良くなると、おうちでご飯を頂く時とかあるんです。例えば「お昼ご飯うちで食べる?」みたいな。「おいでよ」と言っていただけるのですが、極力住民と学生が1対1にならないようにとか、その辺の分別は色々学びました。
 

●学生が入るということ

絹: これは私の経験ですが、京都市営住宅で山科区に西野山市営団地という所があります。市立芸大が京都駅の近所に引っ越してきたわけですが、その市立芸大の6名の学生が西野山団地に入居するそうです。というのも稲荷山トンネル、新十条トンネルを超えれば、大学までバスで20分くらいしかかからない。そこで10月28日に「ようこそ、西野山市営団地へ」と、自治連合会の方々や福祉サービス協会の方々が中心になってイベントをされたんです。
やっぱり高齢化率68%という団地に若い人が入居しただけで、みんな目がキラキラしてね。みんなで焼き芋を作って、焼き芋をかじりながら「集会所で声楽の練習してもかまへんで!」とかって言ってましたね(笑)。
藤: “だんだんテラス”でも「若い子と話すと元気をもらえる」とか、「自分の孫と同じくらいだから、かわいい」とか、そういう声もいただきますね。
 

●ラジオ体操は健康維持のための装置として機能しているんです

藤: 先ほど毎朝10時からラジオ体操をやっているというお話をしましたが、一時コロナでどこも外出が自粛されて、なかなか運動できる機会がない時期があったと思うのですが、そのなかでも“だんだんテラス”では継続して行っていました。その時に平均40人くらいコロナ禍でも来ていまして、やはりそういう意味でも体を動かす日常的なきっかけになっているんだなとは思いますね。
絹: 保健と言うか、健康維持のための装置としても機能している“だんだんテラス”と。
藤: 病院でリハビリをするくらいなら、毎朝ラジオ体操に行くみたいな選択をされる方や、ラジオ体操をして、毎朝住民さんとお話をするだけで持病が軽くなったみたいな、そういうお声もお聞きします。本当に色んなところに影響されているのかなと実感しています。
絹: 6000戸もある団地だったら、歩いてくるのに遠い人もいるでしょうしね。
藤: 遠い人もいますし、隣のまちの樟葉というところから3キロかけて歩いてラジオ体操に来られる方もいます。
絹: ほう、団地外の人も来ていると。
藤: “だんだんテラス”は団地にあるだけであって、団地に制限されているわけではないんです。
 

●365日開けていると、思わぬ出会いが次々と

藤: それから365日開けていると、思わぬ出会いと言いますか、関東の大学院生がまちづくりに興味をもって突然やって来たり、大学の客員研究員の方が「まちづくりを研究しているから話を聞かせてくれないか」とか。
絹: この間の11月17日に、私がURの人に案内されて行ったのと、似たような人が時々来るんですね。
藤: それも先にアポなどなしに、ちょっとフラッと立ち寄ってみたということもあるんです。そういう人たちも拾えるというのは、365日開けているからなのかなと思います。
絹: 私の知り合いのまちの縁側で“ハルハウス”というのが千本北大路下がるにあるのですが、そこの縁側主人は80歳の元佛教大学の退官教授でいらっしゃるのですが、海外からも視察が来ますよ。
藤: すごいですね(笑)。
絹: やっぱりそういう所は、人を呼ぶのかもしれませんね。
藤: 前に来ていただいた客員研究員の方もイタリアの建築家の方で、英語での対応でしたので、グーグル翻訳を駆使しながらお話していました。
 

■エピソード3 リノベプロジェクト「ダンチ de コソダテ in 男山団地」のこと

●リノベーションの特徴 ~ 実験的住戸とプロトタイプと
絹: 17日に視察に行った時にいただいた「ダンチdeコソダテin男山団地 住戸リノベーション だんだんテラスだんだんラボ設計 研究活動成果集」という図面と写真を組み合わせたような冊子が、今、手元にあります。リノベーションについて、元々建築系の学生で研究されていたので、そっちの話もお願いします。
藤: このリノベーションは、関大がURさんと一緒に毎年2~3戸設計提案しているというプロジェクトで、男山団地の全住戸タイプ、間取りタイプの設計が終了したということで、今年は実際に設計して供給した住戸の居住者にヒアリング調査、住まい方調査を同時に行っていました。
このリノベーションの特徴としましては、教授の方と意見交換するだけではなく、教授の専門家の方にもお話をして仕上げていっています。
毎年住戸リノベーションをやっているのですが、昨年度の反省を活かして、今年度はどういうコストダウンができるのか。そういうプロトタイプと、実験的な住戸と、2つに分かれて、毎年提案していったというのが特徴なのかなと思います。
絹: 今、実験的住戸と言われましたが、例えば2つ隣り合ったおうちを繋げてしまうという実験もあったそうですね。
藤: そうですね。2戸1と言いまして、そのベランダの障壁を取ったり、最近ですと住戸の半分を土間にするような提案とかもあったりします。
絹: 「2戸セットで借りる暮らしの広がり」というタイトルで写真を見ていますけれども、お隣とのベランダ、非常時に蹴破って抜ける隔壁がないだけで、住戸というのは繋がるんだという発想ですね。
藤: これも子育て世帯向けで50㎡と50㎡、併せて100㎡で住むみたいな、そういう提案だと聞いています。
 

●できることから徐々にやってきた10年間

絹: こういう取組、URって、すごい地道にやっていますね。
藤: そうですね。やはりダイナミックには環境面でも経済面でもなかなかできないなか、できることから徐々にやってきたというのが、この10年間ですね。
でも“だんだんテラス”も365日開けるというのもすごい地道だし、毎年2~3部屋リノベーションを供給するというのも、できるところからということです。
絹: リスナーの皆さん、URの地道さの一面を感じていただけたらと思うのですが、この関西大学の江川研究室さんとの連係プレーだけではなくて、私が存じ上げているのは、京都女子大学の井上えり子研究室との連携「京女 X UR」です。京都にあるURさんの空き家空き室を10年間で10分の1に減らしたという実績を、井上えり子研究室はたたき出しているとのことです。それにしても関西大学の皆さんもすごいですね、よう10年、続きましたね。
藤: ほんとうに(笑)。今、URさんと八幡市さんと京都府さん、関西大学の四者連携でずっとプロジェクトをやってきて、各主体の努力があったのではないかと、勝手に想像しています。
絹: 実は私、本職は建設屋でしょ?京都府の出入り業者でもあるわけです。その発注者の京都府の建設交通部の浜田さんという部長さんがおられるんです。その浜田部長と住宅課の内藤課長が“だんだんテラス”に出入りしているらしいですね。
藤: なんか一度来ていただいたりしていますね(笑)。
絹: 「たこ焼きミーティングなんかで話を聞きに行ったんや」と。
藤: 「来るタイミングを窺っている」とお聞きしています。
絹: 京都府と八幡市とURと関西大学の四者が本当に地道なことをやってらっしゃいます。この事がたぶん地元のお住まいになる方の元気を引っ張り出している要素になっているんじゃないかなと思います。
 

●どうか是非、足を運んでみてください

藤: 僕も男山団地に住みながら研究させてもらっているのですが、やっぱり本などで見るよりも、実際にまちに行って体感しないとわからないなという部分はありますよね。それこそ地道な、足を運んでというところは大事だなと思いました。
絹: 私も11月17日に初めてお邪魔して、本当に短時間の滞在でしたが、肌で感じる、実際に来られている住民の方と短いですけどおしゃべりをする、住民の方々が本当に藤本さんたち学生さんを信頼されている、あるいはその存在を頼りにしている。ああいう居場所があることで、自分たちの健康がある部分担保されている。なんか「コイツら、いいよねえ」みたいなことを本当に態度で示してらっしゃる。
藤: そうなんです。身振り手振りでおっしゃっていただいています。
絹: 「ほんとにこれ、ラジオにするの?ちゃんと言ってよ!」みたいなこと、おじさん言っておられましたよね。非常にそれはこちらに伝わりまして…。ですからリスナーの皆さん、男山団地、直近の駅はどこでしたっけ?
藤: 京阪の樟葉駅です。
絹: “だんだんテラス”、10時から18時まで基本、オープンフリーにされています。わがまちにもこういう“だんだんテラス”ナンバー2、3、4、5みたいなのが、生まれてくるためにはどうすればいいのかを感じとるためにも、ノーアポでかまいません。差し入れなくてもいいです(笑)。是非訪れてくださいませ。
この番組は心を建てる公成建設の協力と京都府の地域力再生プロジェクト、我らが京都市景観まちづくりセンターの応援でお送りいたしました。
“だんだんテラス”増えるといいですね。色んな所に。
藤: ああいう本当に気軽に立ち寄れる場所があったらいいなと思います。ありがとうございました。
投稿日:2023/12/06

第191回 ・地域と元気で楽しくする~地域のおしごと博物館ってご存じですか?

ラジオを開く

鈴: 鈴木 千鶴 氏(一般社団法人未来コンシェルジュ 代表理事)
絹: 絹川 雅則(公成建設株式会社)
         (右:鈴木 千鶴 氏  左:絹川)

 

絹: 皆様こんにちは。そしてこんばんはかもしれません。まちづくりチョビット推進室の時間がやってまいりました。
この番組は地元京都の建設屋の目から見た元気なまちづくりびとのご紹介や、その活動の最新のエピソードをご紹介しております。いつものように番組のお相手は当まちづくりチョビット推進室 絹川がお送りいたします。
さて、本日のゲスト紹介です。一般社団法人未来コンシェルジュという団体を率いていらっしゃる代表理事鈴木千鶴さんをお迎えしております。鈴木さん、よろしくお願いいたします。
鈴: よろしくお願いします。
絹: 鈴木さんは、ご本職は有限会社鈴木モータースさんの代表取締役でいらっしゃるとともに、色んな肩書をたくさんお持ちです。たくさん過ぎて覚えられないのですが、確か中小企業家同友会の女性部会長をなさっているのと…。
鈴: 三年目になります。
絹: それから男女共同参画市民公募委員。
鈴: そうです。女性経営者としてやはり女性が生き生きと輝ける社会の実現に市民の立場で参加させていただいています。
絹: ですからね、ネットで調べると色んな所でお名前を発見しちゃうんですよ。
鈴: 本人はあまり検索してないもので、わかってないですけど(笑)。
絹: そして西京区で地域活動を本当に地道になさっています。鈴木さんと私の出会いはごくごく最近でしたね。あれはなんという勉強会でしたっけ?“未来力会議”?
鈴: 京都市には中小企業を応援する部署がありまして、そこが2017年頃から“未来力会議”をやっていたのですが、去年からもっともっと経済的なお祭りを中小企業自らがやっていこうということで、“未来の祭典”が始まりました。今年が2年目なのですが、そのお勉強会で絹川さんにお会いしたと思います。
絹: 内緒でこそっと真面目な勉強会にも時々出ているんです(笑)。
鈴: そうですね、とっても難しいお話でした(笑)。
絹: さて、本日の番組タイトルですが、「地域を元気で楽しくする~地域のおしごと博物館ってご存知ですか?」と題してお送りいたします。
“地域のおしごと博物館”というイベントが最近あったんです。西京区の桂駅エリアで、10月7日土曜日に開催されたこのイベントをそっと覗きに、申し込みもしないで、突然現れてしまいました。
鈴: びっくりいたしました。
絹: 私もそこで起こっている出来事にびっくりしてしまいました。すごいんです。ではエピソード1、地域のおしごと博物館、西京区桂駅エリアで行われた10月7日のイベントについて、それからなぜこういうことをお始めになったのですかということを、ゲストの鈴木千鶴代表理事からお話しいただきます。
 

■エピソード1 “地域のおしごと博物館”って、そもそもなに?

●子どもたちがおしごと体験をします
鈴: この地域のおしごと博物館の一番の大きな特徴は、本当にある地域のお店に小学生がやってきて、おしごと体験をすることです。今、日本中でおしごと体験ブームです。商業施設のおしごと体験もあれば、大きな〇〇プラザというような所で、何百人を収容するようなおしごと体験もありますが、やっぱり嘘ものと言うか、作り物でしかありません。一方で、地域にはずっとそこでお仕事をされている地域企業が様々ありますので、半径500m、これは学区的な考え方もありますし、子どもの足で歩いて7~10分で移動できる小さな範囲で、本当のお店で子どもたちがおしごとを体験しにやってくるというものです。
絹: 「なぜ500mなんですか?」と、先ほどお聞きしたところ、即答されました。「子どもの足で7分なのよ」と。実際に10月7日に現地、桂駅の西側の辺に集合場所があったので、始めにそこに集まられて、A.B.C.D.E.Fと6つのお店にそれぞれのチームに分かれて歩いて行かれました。ショットガンフォーメーションのように、散って行かれました。
鈴: 拍手で見送ります。
 

●ほんまもんを体験するということ

絹: 私はいったいどのチームに付いて行ったらいいんやろうと、きょろきょろしておりましたが、そういうことです。地域のおしごと博物館って、最初にお聞きになると、内容をご存知ない方は、皆さん“キッザニア”を想像されるのではないでしょうか。それを鈴木さんの言葉で言うと、「あれすごく素敵で、お金もかけて企画もよく練れているけれども、ちょっと本物とは遠いわね」と。そういう感じもお持ちになっているのでしょうか。
鈴: そうですね。DJブースがありますが、今この三条寺町にラジオ局があって、ここに子どもたちが来てほんまもんを体験する方が、より地域の、京都市の子どもさんたちには良いことだと思います。
絹: リアルとバーチャルとは違いますよと。バーチャル体験よりも、もうちょっとリアルに寄った方の地域版がやりたいわねというところから始められたんですか。
 

●地元への愛着づくり ― 次世代を育てるために

鈴: はい。半径500mの学区、地元の地域を知るということが、保護者さん、小学生にとっても大事でして、小学生の時の想い出がやはり一生に宝物の始まりだと思っています。そこから地元を知って、地元に愛着を覚える、故郷の愛着づくりにもつながっている。そこがないと大学生になってから地域を勉強しても遅いと考えています。
絹: ここがどうやらキモです。半径500m限定のこころ、それから先ほどすごいキーワードを頂きました。「次世代を育てる要素が入ってないとまちづくりじゃない」ということと、それから地域への愛着。
鈴: はい、ふるさとづくり。
絹: それが基本でしょうと。
話は飛んでしまうかもしれませんが、自分自身はもう還暦を超えていますけれども、昭和の育ちで、小学生以降の教育、小、中、高、大とその中でやっぱり欠けていたなと思うのは、やはり地元に対する愛着です。僕らの時代は「愛国心」だとか、「地域好きやねん」とか、「日本て大好き」とかって言うと、「お前、右翼か!」と。
鈴: ダメでしたものねえ(笑)。
絹: 「ちゃうやろ!真ん中や、それが」と、今なら言い返せるんですが、当時幼い時は何か言い出しにくかった記憶が蘇ってまいりました。
で、我々が中小企業を経営して、社員さんたちと一緒に働いていく者の基本として、やはり「地域が好きでないとだめじゃない」という思いが、どうやら鈴木代表の胸には色濃くあるようですね。
鈴: そうですね。帰国子女とか、お父さんが全国転勤がある等、様々な事情がありますけれども、たまたま転勤で住んでいる地域であっても、そこに思い出とか、愛着とか、お友達関係とか、そういった思いや経験がその子どもの一生をつくっていくと思っています。ですから住めば都ではないですが、その地域を知ることは大事だと思っています。
 

■エピソード2 “地域のおしごと博物館”、ちょっと覗いてみましょう

●引率し、説明するのは、地域の高校生や大学生です
絹: 鈴木さん、10月7日のプログラム、少し具体的にリスナーの皆さんに想像していただくためのヒントをいただけませんか?最初にまず何が起こりましたか?
鈴: 保護者さんが必ず連れてきてくださいとお願いしています。小学生さんを一人ずつ大切にお預かりするのですが、もう1つ最初にお伝えしておかねばならないことがあります。引率して歩くとか、60分間の凝縮した体験内容になっているのですが、それを運行するのは地域の高校生と大学生なのです。ここが一番大きな関りをつくっているところなのです。
絹: それを目撃して、実はすっごい驚いたんです。集合場所はジェイネットハウジングさんという桂駅の西側近くの不動産屋さんで、そこに入りきれないくらいだったので、2か所に分けて集合をかけておられました。まず最初にきれいなガムテープ
に、ニックネーム(今日呼んでほしい名前)を太いマジックで書いて、記録のための写真を撮ります。「その写真に自分が写ってもいいという子は緑のガムテープ、顔出しNGの子はピンクのガムテープに書いてね」と最初にそのルールを説明されます。その説明をしているのも高校生です。
そしてもう1つ驚いたのは、そのリーダー、小学生を集めてそういう説明をしながら、アイスブレイクをやっているわけです。初めて会った子で、お互いに友達同士ではないかもしれないし、高校生と数時間でも一緒になる子たちの緊張を溶きほぐすためのアイスブレイキングです。このプロセスを、未来コンシェルジュの皆さんが宿題として出されたんですよね。「アイスブレイキング、自分で考えておいで」と。上手でしたねえ。
鈴: そうですね。様々、ネットで検索したらしいですけれども、やはり初めての小学生と仲良くなるということは、コミュニケーション能力を試すというか、チャレンジだと思っています。なかなか入れない小学生もいますし、1人の子ばかりが前に出てやるような小学生もいます。その子どもたちをどういうふうに順番を変えたりしながら、入り込めるようにするかというようなところから、高校生の体験、チャレンジが始まっています。
 

●行き先は、不動産屋さんや工務店、整骨院に花屋さん、ケーキ屋さんも…

絹: 小学生のチームがだいたい6~7人?
鈴: 一企業4名から引き受けられたら参加できるというルールがあるんです。ですから小さなお店でも店主と奥さまが2人ずつお引き受けになって、4名引き受けられるとなったら、参加資格があるので…。
絹: そして当日の10月7日は“ジェイネットハウジング”さんは不動産屋さん、“松本工務店”さんは大工さん…。
鈴: はい、6名でした。
絹: それから“りん整骨院”さんも行かれたし、“佳花園”というお花屋さんも行かれたし、“ポーラエステシラン”、“アランシア”というケーキ屋さん…。
鈴: いつも一番人気がケーキ屋さんになります。
絹: それぞれに分かれて行く前に、アイスブレイクをやって…。
鈴: 場を馴染ませるという。
絹: お互いに自己紹介をしあいっこもありましたね。それで分散して、先ほどの半径500mのこころです。小学生が7分くらいで行きつく範囲内にあるお店に散って行かれました。
 

●例えば工務店のプログラムは…

絹: そして私は松本工務店さんに。ご存知のように私は本職は建設屋ですので、どうしても工務店に寄ってしまいます。
ここでのプログラムをご紹介したいのですが、まず代表理事は松本工務店さんのプログラム、ご存知ですよね。ざっと松本さんとこの社長さんと大工さんたちがどんなに丁寧にプログラムの準備をされていたか、お伝えいただけたらうれしいです。
鈴: 二人組になって取り組むとのことで、材料もちゃんと全部刻んでおられて、印もついている所に、子どもたちが小さな家を完成させる。大きな金づちを持ってトントンと入れていく、そういった工程を体験されたと思っています。
絹: 私はそれを見て、本当に感心したのですが、犬小屋と言うにはもっと大きいサイズの、10センチ角くらいの柱で構造材(梁や柱や棟)それぞれに接合部が、ちゃんと専門用語で名前がついてあって、それを「順番はこうやで」と。掛矢という木の小槌の大型のものでこんこんこんと入れて、棟上げまでやらせるわけですよね。
「指叩いたら、大変やで」と言いながら、解体まで体験させる。僕はそれを見ていて教科書にかかれた絵で「これは柱、これは棟、これは梁と言うのよ」と説明するのと、一本一本コンコンと組み上げるのとでは全然違って、頭の中にスッと入るわと思いました。
で、小学生たちがもう楽しくてたまらないという顔をしていて、それをお母さんが後ろからじっと見ていらっしゃる。なんかいい雰囲気のワークショップでした。
 

●地元の企業の応援にも、社員教育にも、愛社精神にも…

鈴: おしごと体験は小学生だけを育てているのではなくて、中小企業の応援も大きな要素として入っているんです。ですから松本工務店さんを応援するという要素が入っておりますので、保護者さんに見て頂いて、また家を建てる時、是非地域の松本工務店さんにオーダーが入ればいいなというふうに思っていますし、松本工務店さんもこうした体験をするに当たって、社員さんと普段とは違う会話や時間をお過ごしいただいたと思っています。それが社員教育でもあります。で、社員さんにとっても、自分の勤めている会社が、「小学生に対してこんなことをする会社なんだ」というのは、働き甲斐にも繋がっているし、愛社精神にも繋がると思っています。
絹: 桂駅エリアにある松本工務店さんの会社まで歩いていきました。そしたら入り口の所に“地域のおしごと博物館”という旗がかかっています。いいデザインの、いいロゴの。そして作業場に入って行きますと、木工機械が何台か置いてあって、材料が置いてあって、長机が子どもたちを迎えるためにセットしてあって、保護者の人が座る観覧席みたいなパイプ椅子も用意してあって、きれいに掃き清められてあってと。わあ、歓迎されているんだなと、工務店さんの作業場って、こんなんかという感じで子どもたちが入ります。
今、社員教育の一環でもあると代表理事が言われましたけど、子どもたちにどんな出迎え方して、「大工のおしごとってこんなんよ」と伝えようと、一生懸命打ち合わせして、丁寧に準備しておられたんだろうなと思いましたね。
鈴: 1つ面白いエピソードがあります。これも工務店系だったのですが、「社員はいつも仏頂面で仕事をしているのに、子どもにはこんなええ笑顔で接しられるんや」と。とっても大きな社員の財産ができたというアンケート結果を頂いたことがありました。
 

●事業継承のきっかけに

鈴: それと鈴木モータースも参加したことがあるのですが、息子さんに手伝わせるきっかけになるので、事業継承の今日は初日になったというような、うれしいご意見もいただきました。
絹: なんかちょっと背中がゾクッとしませんか?多くの企業経営者が後継者について悩んでいます。色んな職人さんの後継者がいなくて、あるいは中小企業の後継者がいなくて、M&Aで企業が売りに出されるような現象が、ひょっとしたら日本全体の体力を奪うことにならないか。私もそういう心配をする者の1人ですけれども、どうやら鈴木代表理事率いる一般社団法人未来コンシェルジュの皆さんはその辺にもターゲットを当てていらっしゃるようです。
さあ、リスナーの皆さん、もう一度この地道なイベントについて、知っていただきたいなと思って、今日はゲストに来ていただいたのですが、10月28日に北区エリアでなさるもう一度こういうイベントがございます。このことについて軽く解説をお願いできませんでしょうか。
 

■エピソード3 地域を育てて地域に生きる「地育地生」のために

●10月28日、“地域のおしごと博物館”開催します!
鈴: もう来週になりますが、来週の土曜日に開催いたします。今度は10企業が集いまして、様々な企業がまた体験をいたします。これもまたとっても良い内容をご用意いただいています。今現在、4つが満席となっているのですが、残りまだ残席受付中ですので、ホームページの方でご紹介もさせていただいています。ぜひぜひご覧いただきたいと思います。
絹: ホームページで検索掛ける時は、“地域のおしごと博物館”と検索するのがいいんですね。
鈴: はい。ホームページがございまして、ご紹介しています。
絹: 実は10月28日の北区エリアの“地域のおしごと博物館”に参画される企業に、私の尊敬している企業があります。吉田創一社長率いる“フラットエージェンシー”さん。「ほんとに不動産屋さんか?」というくらい不動産の枠を超えて、地域づくり企業と言うべき企業です。その方がいったいどういう形で小学生を受け入れるプロブラムを社員さんと組まれるか、知りたくて知りたくて仕方がないのですが、僕、当日別の用事があって行けないんですよ。また後日談、是非聞かせて下さいませ。
鈴: 吉田社長ともその未来力会議で最初の頃からお出会いしておりまして、今回初めて“TAMARIBA(たまりば)”カフェさんを拠点に、60名の定員を引き受けます。保護者には必ずお1人ついてきてもらっていますので、120人は確実に“TAMARIBA(たまりば)”カフェさんに集合いたします。やっとここまで開催できたかと私にとっても記念の開催となります。
今回12回目になりまして、これを達成しますと、京都市で開催していないのが東山区、右京区、上京区の残る3つとなりますので、もしこれを聞いていただいて、「やりたいわ」という所がありましたら、是非手を挙げていただきたいと思っております。
 

●地蔵盆のようにすっと継続して、そして京都中に広げたい

絹: 小学生に地元の企業やお店の仕事をバーチャルではなく、リアルに体験していただくという、本当に珍しい企画です。それを率いるのが高校生であったり、大学生であったりすると。そういう体験の場を支える、丁寧に準備する大人がその背景で静かに見守っていらっしゃる。これはすごいという気がいたします。そしてこれが広がって行くといいですよねえ。
鈴: そうです。本当に地蔵盆のごとく、そこにずっとこのイベントが継続していくことを願っております。そして暖簾の形になっているこのフラッグが、京都中にかかるといいなと思っているところです。
絹: 私がキーワードとしてアンダーラインを引いているのは、「半径500m限定のこころとは」、「次世代を育てる要素が入っていないとまちづくりではないと思います」という鈴木代表のお言葉、それから「これから小さく多発がキーワードだと思います」とおっしゃったこと。「大きなイベントではなくて、こじんまりしたものを同時多発的にやっていくのがアフターコロナの我々の在り方かもしれませんね」ともおっしゃっていましたね。
 

●こじんまりしたものを同時多発的に

鈴: 売上、社屋の大きさ、借金の大きさが値打ちだみたいな時代から、コロナを経て、やっぱり「地域に根差した」とか、「小さく、その中で楽しく」というようなことがキーワードになっていくと思っていますので、地域を育てて地域に生きる、「地育地生」という四文字熟語を作っているところです。
絹: 「地産地消」じゃなくて、「地育地生」、なるほど。
鈴: 全てのことにおいて皆さんが「地域を育てるのは自分たちだよ」と。文部科学省ではないし、国でもない。やはり中小企業家ができる地域活動だと思います。
絹: 「地域を大切にして、地元を愛さずして、どこが中小企業経営者やねん!」と。
鈴: 決して興味のないことでされる必要もないと思うんです。いっぱい課題はありますので、地域資産、地域課題を元に、地域活動を是非小さな中小企業家が小さく起こしてもらいたいと思います。
絹: リスナーの皆さん、いかがでしたか。本当に地元に対する思いが強い中小企業家同友会の女性部会長さん、鈴木千鶴さんをお迎えしました。
この番組は心を建てる公成建設の協力と我らが京都市景観まちづくりセンターの応援でお送りいたしました。
投稿日:2023/10/26

第190回 ・延べ15人の子どもが参加!~町家改修・誰でも左官workshp…

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河: 河井 杏子 氏(京都市都市計画局まち再生・創造推進室)
絹: 絹川 雅則(公成建設株式会社)
           (河井 杏子 氏)

 

絹: 皆様こんにちは。そしてこんばんはかもしれません。まちづくりチョビット推進室の時間がやってまいりました。
この番組は地元京都の建設屋の目から見た元気なまちづくりびとのご紹介や、その活動の最新のエピソードをご紹介しております。いつものように番組のお相手は当まちづくりチョビット推進室 絹川がお送りいたします。
さて、本日のゲスト紹介です。河井杏子さん。まだ知り合って…、ふた月前ですかね?
河: そうですね。
絹: 河井杏子さんは京都市都市計画局の中のちょっとかわった部署、まち再生・創造推進室という部署があります。その中でも洛西SAIKO Projectの事務局をなさっています。確か技術系の?
河: はい、建築職です。
絹: 一級建築士?
河: ではありません(笑)。目指しています。
絹: 旦那さんは一級建築士事務所ということで、元々は建築事務所にお勤めで、京都市には中途採用ということで来られました。私とは役所の中のコミュニティナースのブレインストーミングミーティングみたいな勉強会で、初めてお会いした方です。河井杏子さん、よろしくお願いします。
河: はい、よろしくお願いします。
絹: さて、今日の番組タイトルなのですが、「延べ15人の子どもが参加!~町家改修・誰でも左官workshop…」と題してお送りいたします。
さて、リスナーの皆さん、河井杏子さんのゲスト出演、実は急に決まったんです(笑)。昨日、申し込みに行って、それもスマートフォンでフェイスブックを覗いていたら河井杏子さんの書き込み「町家左官workshopその3」という形で、ご自宅の町家を改修している写真が5~6枚出てきました。それも子どもたちがプロの左官屋さんと壁塗りをやっているところが出てきて、『なにこれ!』とピンと来て、「河井さん、これからちょっと時間15分いいですか?」と市役所のまち再生・創造推進室におじゃましたわけです。
私は感覚人間なので、理屈ではなく、なんかピンときた。なんかすごいことが京都の我々の周りで起きているみたいな直感からお呼びしたゲストです。ということで、河井杏子さん、よろしくお願いします。
 

■エピソード1 そもそも何が起こったんですか?

●なぜ町家に住むのか
絹: ではエピソード1から入ります。そもそも何が起こったのですかというところからお願いします。
河: なんで町家に住むのかということですかね。私たち家族4人暮らしなのですが、ずっと京都市内の賃貸マンションに暮らしていまして、子どもの成長と共にだんだん手狭になってきているので、将来も見据えて、どこかに引っ越したいな、できれば一軒家を持ちたいなというところで、2~3年かけて探していたのですが…。
絹: フェイスブックの書き込みで気が付いたのですが、河井杏子さんはお子さんたちのことを、そこでは1号2号と表現されていて(笑)。
河: 我が家の1号2号です(笑)。長男と長女で、今は中学校1年生と小学校5年生です。
絹: 1号2号というのが、お子さんたちのことだと気が付いて笑いました。その1号2号を引き連れて、「どんな所に住もうかね」と新居探しも一緒に連れて歩かれたそうですね。
河: そうですね。全部一緒に連れて歩きまして、たどり着いたのが明治36年築の今の三軒長屋の町家です。
 

●築120年の京町家に出会って

絹: さっき2人で計算したのですが、明治36年と言うと今から120年前と、結構古いですよね。
河: そうです。ただ、どんどん焼けというのが昔ありまして、そのどんどん焼けで一度焼けている地域になるので、京都の中で言うと割合若い町家になるそうです。先斗町など、どんどん焼けで焼けてない地域は、それこそ江戸時代からの町家が今も大先輩でシャキッと建っているので、町家から見たら、まだちょっと若いらしいです(笑)。
絹: ほう、「120歳と言うても、まだ若造でっせ」という古い町家がまだ元気なのが京都。先ほど二人で前打ち合わせで話していたのですが、やっぱりさすがご夫妻で建築の仕事をされているだけあって、「町家って、京都の財産だよね」みたいな共通認識をお持ちなんですよね。
でも120年経っていると、結構ガタが来ていませんでしたか?
河: でも前にお住いの方が、ちゃんと大切に使われていたという形跡があって、適切にメンテナンスをされているので、構造的に大事な部分というのは、すごく元気で大丈夫でした。
絹: 柱などの構造体の建ち直しとか、傾いていたものを大工さんに直してもらったりといったプロセスはありました?
河: ありました。
絹: 僕らの世界で垂直に戻すのを、「建ち直し」と言ったりするんです。私もちょっとだけ現場にいましたので(笑)。そういう柱の傾きを直したりするところ、お子さんは傍で見ることはできたんですか?
 

●古い町家に不安がいっぱいだった子どもたちは…

河: 直接見ることはできなかったのですが、一部ダメになった柱を入れ替えてくださった時、束石と言う柱を支えている石(有機的な形をしている)、ピタッと新しい柱の底の面をその有機的な石の形に削りながら、合わせて載せてびしっと柱を建てるというところは見せていただいたので、「神業だ」と言っていました(笑)。
絹: 1号2号のお子さんたち、長男さん長女さんが「すご!」て、言ってはったらしいですね。
選ぶ時から1号2号さんをお連れになった。買う前からずっとどこに住むのか、見ていらしたお子さんたち、御年120歳の京都の中では比較的若い町家、「ほんとに住めるの?」と言われたそうですね(笑)。
河: 「こんなん住めるの?」から「ほんまに買うん?」という(笑)、「今のままでも狭いけど、いいで」みたいな(笑)。かなり不安になっていましたね。
絹: そのお子さんたちが徐々に変化されていくのは、どういうルートを辿っていったのでしょう。不安でいっぱいだったお子さんたちがだんだん目の色が変わって行くのは、最初はどの辺からだったのでしょう。
河: 古い部分で再利用できないところを、一部解体して、実際に工事が始まった頃から、興味津々の目に変ってきて、何が起きるのか、次は何が起きるのかという興味に変っていきましたね。
絹: 今のそういうお話を聞いておりますと、お父さんお母さんの目論見はまっているんじゃないですか(笑)?
 

●子どもたちに建築の世界を体感してほしかった

河: そうですねえ(笑)。傍から見るとボロボロで、「どうするの?」というような町家を敢えて買った理由としては、自分たちが関わって来た建築という世界が、どんな世界なのかというのを、子どもたちに体感して欲しかったというのが、一番なので…。
絹: リスナーの皆さん、このご夫婦は自分たちの仕事をお子さんたちに伝えたい、どういう仕事をしているのか見せたいという強烈な思いに支えられて、子育てをされているようです。幸せなお子さんだなあと、今すごく思います。我々のように子育てをしてきた、あるいは現在子育てしていらっしゃる親御さんたちはどのように感じられますか。僕の子ども時代もそうでしたけど、『自分のお父さんは何しているんだろう』と。一応建設会社ですけど、いつもいないし、何しているのかわからない。家業ですので、大人になって会社に入って、上司として仕えて初めてなんとなくわかるとか…。
例えば河井さんは今、行政マンですので、役所には無茶苦茶種類がありますよね、行政の仕事って。そうするとお子さんたちが、まち再生・創造推進室など、想像できないですよね。そんななかで、ほんとにものすごく丁寧に関わっていらっしゃった建築という分野のあるべき姿だけではなく、職人さんたちのお仕事も今回しっかりと体感させられたわけです。左官屋さんは何とおっしゃいましたっけ。
 

■エピソード2 “誰でも左官ワークショップ”のこと

●子どもたち、やってみるか?
河: 宮部さんですね。
絹: 宮部さんという、この人もたぶん珍しいタイプの左官屋さんなんですよね。子どもたちが現場に入ってきて、「じゃまや!」とは言わない。「やってみるか?」と。動画もフェイスブックで見ました。
河: そうなんです(笑)。すごく丁寧に…。
絹: お若い社長さんみたいですね。左官業界も後継者と言うか、なかなか職人のなり手がなく、さらに左官屋さんが活躍できる工事現場が減ってきて大変な思いをされている中で、よく付き合って下さいましたよね。その左官屋さん宮部さんについて、少しエピソード追加でいただけますか?
河: 今回丸一日かけて、土壁を補修するということをやりました。土壁の下地になる「木舞(こまい)」と言う竹で編む下地もあるのですが、それも含めてみんなでやりたいと、宮部さんに相談したところ、「もちろんやってあげるよ」と、ご快諾いただいたわけです。どうしても日曜日に開催するしかなくて、本来ならば宮部さんはお休みの日なのですが、朝の8時頃から夕方の6時頃まで、ずっと現場に張り付いていただいて…。
 

●「木舞(こまい)」ご存じですか?

絹: リスナーの皆さん、「木舞(こまい)」というちょっとだけ専門用語っぽい言葉が出ましたが、ご存知でしょうか。竹を細く割いた棒と縄ひもで作りますので、「竹木舞」とも言います。私自身も建築の教科書で学生時代にチラッと見た程度で、自分でそれを編んだ経験はありません。ただ私の祖父母の家にはありまして、土壁が壊される時に中からそれが現れたとか、地震等の災害現場に入った時に、昔の伝統建築が壊れて現れたとか…。「でも思ったより耐震性能は高いんだよなあ」と、一緒に研究している人から教わりました。「木が舞う」と書いて、「木舞」。土壁の下地となるものです。それを子どもたちが編ませてもらったと。
河: はい、全部やりました。
絹: それを聞いて、ちょっとびっくりしましたね。
河: 私も宮部さんも主人も、ちょっと子どもたちには難しいかなと思って、当初は木舞は大人でやって、土壁の補修を子どもたちでやってもらおうかと話していたのですが、下は3歳から最年長は中学一年生13歳までの子どもたちでやってしまったんです。
絹: 1号ですね?
河: そうです(笑)。竹をそのサイズ(横幅・縦の長さの決まった細い竹)に切り出すところから全部子どもたちでやって、宮部さんに教わりながら編んでと、全部子どもたちでやっちゃいましたね(笑)。
 

●延べ15人の子どもたちで全部やっちゃいました!

絹: タイトルにもありましたが、延15人の子どもが参加と。これ、1号2号だけなら2人ですよね。あと13人はどこからわいて出てきたんですか(笑)?
河: 2つありまして、1つはプライベートの1号2号の保育園のお友達で、今は違う学校になってしまっている子たちです。もう1つは京都市役所の仲間で、同じまち再生の職員さん、それから庁内でイノベーションを起こす取組をされている“京都イノベーションスタジオ”という部署があるのですが、その取組の一環で形成されている庁内のワーキンググループのメンバーに声を掛けて、お子さんを連れて、もしくは単独で大人だけでという形で参加して下さいました。
絹: 私がついつい反応してしまいそうなのが、分野横断ワーキンググループ、名称は京都イノベーションスタジオ。それの主人公が葉山和則さんという人物なのですが、今、総合企画局で都市経営戦略室におられます。この方も2年前のこの番組、まちづくりチョビット推進室のゲストだった方で、色々ご縁を感じますが、まあ、葉山和則さんも面白い人物なんですよ。
で、それぞれの親御さんが「子どもたちに行かせる!」とばかりに、くっついて行ったわけですよね。さあ当日、宮部左官さんの休日にも関わらず、8時から夕方までみっちり子どもたちの左官ワークショップが成立いたしました。
 

●「絶対また来るから!」と帰って行きました

絹: 子どもたちの感想はどうでした?
河: もう楽しくて仕方がなくって、お1人の子はその日帰って、小学校の宿題の絵日記に、「今日は土壁やってきた!」というふうに書いてくださったようです。
絹: 絵日記ということは、夏休み?
河: いや、ではなくて絵日記が宿題として出ているらしいんです。だいたいみんな子どもたち、帰る時には「帰りたくない」と言ってくれて、「絶対また来るから!」と言って帰って行きました。
絹: 「また来るから…」それをいかに解釈するのか。タイトルでも申し上げました“誰でもワークショップ”、今回は宮部さんのご協力で、竹木舞を編むこと、土壁を塗ることだったのですが、まだ完成していない?
河: そうですね、まだ先は長いです。
絹: ということは、第二弾の“誰でもワークショップ”がありうるかもしれない。
河: しれません(笑)。
絹: さあ、どんな現地体験ワークショップになるでしょうか。また仕上げの段階に入っていくと、色んな事があるかもしれませんねえ。さあ、その河井ご夫妻の子育てに対するワルダクミが、着々と進行しているという臨場感を、リスナーの皆さん、お感じいただけたでしょうか。
先ほど、お聞きしておりますと、着々と子どもたちに色んな体験をしてもらいながら、住まいを完成させていくというプロジェクトの企て以外に、完成した後も何やらワルダクミをご夫妻は胸の内に秘めていらっしゃるという聞き込みがございました。完成予定が10月?
河: 目標は10月ですが、11月になるかなあみたいな。
絹: 職人さんだけに任せていたらある程度読めるけれども、そこに子どもが介入するとしたら延びる要素しかないじゃないですか(笑)。
河: まあ、こうなったら、体験を増やしていきたいと思います。
 

■エピソード3 まちに、地域に開く家にしていきたい

●「見世の間」を住み開く
絹: その完成した後の河井邸に関するタクラミについて、お話いただけますでしょうか。
河: 京都の町家には前の通りに面したお部屋に「見世の間」という場所があるのですが、私たちはその「見世の間」を地域に開けて、コミュニティの場づくりになるような場所にしたいと思っています。その「見世の間」でイベントをやるということだけではなく、我が家の「見世の間」に来られる、集われる方が、うちの町内や学区などの方々との新しい繋がりができたり、何か地域貢献・社会貢献ができるようなきっかけづくりの場になるような仕込みができればと考えています。
絹: これをお聞きした時に、壮大なタクラミやなあと思いました。「住み開き」という言葉を大切にしている人たちが、私の友達には多いのですが、実は大変なことです。昔から町家にお住まいになっている方は、自然と奥の間(家族のプライベート空間)と、見世の間、縁側のようにまちに対して住み開いていく(ここからは内、ここからは外みたいなのがちょっと緩む)ところがあったと聞いております。「見世の間」をまちに住み開くことで、ひょっとしたら町内会の寄り合いがそこで行われるかもしれませんし、極端な例ですけど、「子ども食堂をやりたいので、そこを使えませんか」とか、何か色んな人たちがやってきそうですよね。もう延べ15人、左官ワークショップで、年若いファンがついちゃったので(笑)。
河: そうですね。「また来るで!」と言われたので(笑)。
 

●住み開く活動のなかで、人との繋がりを学んでほしい

絹: こういうことが実際に起こっているんです。これはどうやら河井ご夫妻が設計事務所を営んでいらっしゃるという特殊事情とは言い切れないかもしれない…。
河: そうですね。建築って難しく考えられがちなのですが、結局は人と関わりながらでないと成り立たない職業でして、それって建築だけじゃなくて、私が今いる行政もそうなのですが、どんな仕事をしていても人と繋がりながら自分が生活していく、子どもを育てていくことなので、うちの1号2号にも見世の間を住み開いていく活動のなかで、人との繋がりを学んでほしいなというのも、1つの教育方針としてあります。
絹: リスナーの皆さん、これ本当に河井家の教育という通奏低音でありますけれども、自分のところだけではなくて、こういうお家ができると、そのエリアが少し変わるはずです。風通しが少しよくなって、居心地が少しよくなって、そしてある意味機械警備に頼らない、セキュリティ度もアップする、おせっかい指数が少しそのエリアで上がる。そんな気がします。
私の夢はコレクティブハウジングと申しまして、賃貸ベースですけれども、何軒かの家が関わりあって住まう暮らし方です。共同リビングなんかを介して助け合いが起こる、その結果第二子第三子が生まれやすくなるという実例が、日本でも関東圏で2000年初頭から1ダースほど出来ています。そういう実験がしたいなと言っておりましたけれども、まさにそれとこの河井さんたちの「どこでも誰でも左官ワークショップ」は似通っているというか、たぶん同じ通奏低音の上にある兄弟プロジェクトのような気がしてまいりました。
河: ありがとうございます。
絹: こういうプロジェクトは同時多発的にいくつもなんとなく発生して、それぞれのプロジェクトの主人公たちが何となく知り合いで、「あのプロジェクト、いいことやってるからちょっと真似しよう」とか「手伝いに行こう」なんてことが、今後起こってきたら素敵だなと思います。
この番組は心を建てる公成建設の協力と我らが京都市景観まちづくりセンターの応援でお送りいたしました。皆さん、注目してくださいね。
投稿日:2023/09/19

第189回 ・京都に若者子育て世帯が住む!まずは洛西から一気呵成に~「洛西SAIKO Project」

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前: 前田 史浩 氏(京都市都市計画局住宅室長)
堀: 堀崎 真一 氏(京都市都市計画局まち再生・創造推進室都市の未来創造担当部長)
絹: 絹川 雅則(公成建設株式会社)
      (左:堀崎 真一 氏  右:前田 史浩 氏)

 

絹: 皆様こんにちは。そしてこんばんはかもしれません。まちづくりチョビット推進室の時間がやってまいりました。
この番組は地元京都の建設屋の目から見た元気なまちづくりびとのご紹介や、その活動の最新のエピソードをご紹介しております。いつものように番組のお相手は当まちづくりチョビット推進室 絹川がお送りいたします。
さて、本日のゲスト紹介です。このスタジオの本当にご近所さんからお二方お招きいたしました。京都市都市計画局まち再生・創造推進室、そして肩書がもう1つあって、都市の未来創造担当部長であられる堀崎真一さんです。堀崎部長、よろしくお願いします。
堀: よろしくお願いします。
絹: 堀崎さんとの出会いは本当に最近で、この4月の1日に東京からと言いますか、国交省から京都市にご着任されたと聞いております。ネットで堀崎真一さんという名前を見ますと、住宅局が長いようで、あっちこっちで講演をしまくっておられるようです(笑)。ですから皆さん、期待していてください!
それからお二方目のセカンドゲスト、同じく京都市の都市計画局からお越しいただきました。住宅室長の前田史浩さんでございます。
前: よろしくお願いいたします。
絹: 非常に熱い行政マンでいらっしゃって、私のような素人が議論をふっかけに行っても、ちゃんと聞いてくださるという懐の深いお方です。よろしくお願いします。
そして先ほどお二方と相談して決めた今日の番組タイトルを申し上げます。「京都に若者子育て世帯が住む!まずは洛西から一気呵成に~“洛西SAKO Project”」と題してお送りいたします。
リスナーの皆さん、“洛西SAKO Project”って、聞いたことがありますか?洛西ニュータウンで何かこれからすごいことが起こりそうで、ワクワクしております。そのことについて聞いた事のない人のために“洛西SAKO Project”について、まずは堀崎さんにまずはマイクをお渡ししますので、教えて下さい。じゃ、行きましょう!
 

■エピソード1 そもそも“洛西SAKO Project”って、なに?

●都市の未来創造担当は、こんなことを進める部署です
堀: まずは僕のポストについてお話したいと思います。都市の未来創造担当なのですが、この4月にできて、京都市の都市の成長戦略を実現していくという目標のためには何でもやるというポストになります。例えば、この4月に15年ぶりに都市計画の大幅な見直しをしたのですが、これをとにかく実現するため、ディベロッパー等に働きかけて、働く場所や住まいなどを生み出していくといったこと。さらに洛南新都でも産業の集積を進めるため、今、都市計画の見直しを進めています。その他、まちづくりのDXを進めるなど、色んなことをやるポストではあるのですが、その仕事の中の1つが、今回の洛西ニュータウンを始めとした洛西地域のまちづくりとなっています。
絹: なんでもやれとは、京都市さんもエラい注文を出しますなあ。
堀: 逆に自由を与えられているので…。
絹: 好きにやれみたいな部分もあるのですか?
堀: そういうことです。
 

●洛西地域のポテンシャル

堀: さて、“洛西SAIKO Project”の概要なのですが、洛西地域にまだ行かれたことのない方がいらっしゃるかもしれないので、簡単にご説明します。西京区にありまして、非常に自然が豊かな地域で本当にたくさんの樹木がある地域です。公園も非常に多くて、住環境が非常に良い、子育て施設も非常に充実した、洛西ニュータウンを中心としたエリアが対象になっています。
絹: 確かあの一角に日文研?
堀: あります。京都大学もありますし、学術機関は揃っていますね。
 

●洛西のまちづくりを次のステップへ進めるために

堀: この周りで近年、開発が進んでおりまして、京都の縦貫道も開通しましたし、阪急の洛西口もできましたし、JRの桂川駅も開業するなど、最近は非常に利便性も高まっているというエリアです。バス事業者も4事業者が走っていて、京阪、京都交通、阪急バス、ヤサカバス、そして市バスとすごい頻度で運行されています。非常にポテンシャルを秘めた地域ではあるのですが、例えばニュータウンで言うと、まち開きからもう40年が経過をしており、更新のタイミングを迎えているのです。ですからまちづくりをこれまでから次のステップへと進めて行く必要があるということです。
今回の“洛西SAIKO Project”は、この洛西地域の魅力をもっともっと高めるために、前提条件なく、あらゆる壁を突破して、一気呵成に施策を推進していこうと、全庁一丸となった取組になります。4月に本部会議を立ち上げて、これまで検討してきたのですが、7月27日に中間の取りまとめを公表しています。
具体的な中身について、詳しくはホームページを見て頂ければと思うのですが…。
絹: リスナーの皆さん、本当にぎっしり書いてあるので、その情報量を平仮名化して短くまとめるって、本当に難しいんですよね。本部長が“洛西SAKO Project”の坂越さんという副市長さんで、実はこのスタジオにも少し前に座っていただきました。
「どんどんやるからね!期待してよ!」と帰って行かれましたけれども(笑)。それを具体的に今日教えていただきます。さあ、どうでしょう。
 

●便利で賑わいのあるくらしのために

― タウンセンターリニューアル、サブセンターブラッシュアップ、建築ルールの見直し…

堀: まずニュータウンのタウンセンターにラクセーヌ専門店街という商店街があるのですが、そこを全面リニューアルします。
絹: 高島屋さんとかがある所ですか?
堀: そうです。そこが12月にリニューアルオープンします。それからニュータウンの中にサブセンターがあるのですが、サブセンターのあり方についても住民の方と議論していくということを開始します。
さらにニュータウン自体の都市計画を見直して、今まで住宅地には基本的に住宅ばかりだったのですが、そこに店舗や事務所が立地できるように、都市計画の見直しをして、住むだけではなく、働く場所や店舗などもうまくミックスさせて、暮らしやすいまちづくりをしていこうということで、団地の一階をリノベーションして、カフェや食堂にしたり、テレワークができるようなコ・ワーキングスペースを設けたりとか、そういったことができるように見直しを進めて行くというのが、例えば1つの取組の例です。
絹: やはり賑わい創出、まちに人がいる、お家から出てくるということは、一階部分に人が行きたくなるような、サードプレイスと言いますか、居場所と言いますか、「おいで!」「僕ら、行ってもいいのね」みたいな所、そういう所をたくさんつくろうという感じが含まれていますね。
 

●若者を呼び込む住まいづくりのために

  住みたい人はいるのに、住宅が足りない…

堀: さらに住まいづくりにも取り組んでいきたいと思っています。洛西地区の最大の課題は、住みたい方はたくさんいらっしゃるのですが、住めるような住宅があまり多くない、供給されていないということが課題としてありますので。
絹: 具体的に言うと、高いということですか。
堀: 高いし、空き家も実際にあまり多くないところはあるのです。公営住宅はあるのですが、それ以外の住宅ではあまり空きがないということです。
絹: 府営住宅もあるし市営住宅もあるし、それからURもあるんですよね。その辺り、だいたいどれくらい空いているんでしょうか。勝手なイメージですけど、10%や20%、ひょっとしたらもっと空いていて、割合お年寄りが住んでいる所が増えて、若い人が少なくなっているような、勝手な素人のイメージですけど、合ってます?
堀: 洛西で言うと、市営住宅・府営住宅はだいたい2割程度の空きがあります。おっしゃったように市営住宅で言うと、階段でエレベーターのない住戸では、上の方が人気がなくて、下の方にしかも高齢者がたくさんおられるという状況です。
絹:それを何とかリノベーションして、若い人に入ってもらおうという作戦が“洛西SAKO Project”の中には1つの柱としてあるんですよね。
 

●市営住宅を民間事業者がリノベーション

堀: そうです。市営住宅の空き住戸を民間事業者に貸し出して、民間事業者がリノベーションして、子育て世帯に貸し出すというような取組も1つありますし…。
絹: その時の大事な眼目として、若い人、子育て世代が入れるように安くしてよと。確か市長は、記者発表や取材の時に、「京都市は市営住宅の空き室で儲けようとは思わない。安く出すから、安くしてよ」と詰め寄られたという噂を聞くのですが(笑)、事実ですか?
堀: そこのところは詳しくは承知していませんが(笑)、やっぱり安く住んでもらうのは大事だと思っています。
それからもう1つは、市営住宅の間取りは割合昔の間取りで、部屋が多いというところがあるので、今回事業者さんで所謂3DKを2LDKに変えたり、もっと大胆に1LDKに変えたりとか、部屋を大きくして若者・子育て世代に入っていただこうという工夫をされています。
 

●“京女×UR”の成功事例から

絹: 堀崎部長は東京におられたので、京都女子大学の井上えり子研究室のことを、あまりお聞きになったことがないかもしれませんが、京女×URって、結構有名ではなかったですか?
堀: 東京でも有名ですよ。
絹: その結果なのか、洛西のURさんが管理している所は空きがかなり市営住宅・府営住宅に比べて少ないと。これは10年間かけて、京都女子大の学生さんたちがリノベーションの絵を描いたものが若い人に受けてという話を井上先生から聞いたことがあります。
堀: その通りで、90㎡くらいの部屋を1LDKで出したり、やっぱり人気なんですね。そこを見に来た人が、普通のURの住宅を見て、環境を気に入って、URの普通の住宅にも住むようになって、入居率が上がっているということで、相乗効果になっているようです。
絹: それを聞いてびっくりしまして、京都市、URに負けてなるものかですよね。今度の“洛西SAKO Project”は期待できるところですね。
 

●タウンセンターに 賑わい×マンションを誘導

堀: 市営住宅のリノベーションもやるのですが、それと併せてタウンセンターについても取り組んでいきます。一般的なタウンセンターは現状ではマンションは建てられないのですが、低層部に商業施設を入れればマンションもタウンセンターに建てられるようにしようと、都市計画の見直しもこれからしていきたいと考えています。
絹: 低層部に賑わい施設、人が寄って来るようなものをつけてくれたら上は人が住むようにできるよと、ニンジンをぶら下げたわけですね。
堀: いやいや(笑)、タウンセンターは賑わいも大事なので。
絹: タウンセンターは確か洛西ニュータウンは4学区あって、それぞれの学区に1つずつありましたっけ?
堀: それはサブセンターですね。タウンセンターは一番真ん中の高島屋がある所に1つです。
絹: 商業施設集積のタウンセンターで、高島屋さん、エミナースなどがある所ですね。
堀: エミナース、ラクセーヌ、高島屋さん、ニトリと、なんでもあります。
絹: おさらいしますと、タウンセンターにはラクセーヌさん、ニトリさん、高島屋さん、エミナースさんなどがある所で、サブセンターは学区のそれぞれの拠点となる公民館的なものという位置づけですね。
 

●ニュータウン内の住宅を買取販売

堀: 住まいづくりの面では、市の住宅供給公社が既存の空き家を買い取って、リフォームして売るという買取販売に乗り出したりとか…。
絹: 戸建て住宅なんかも、京都市の住宅供給公社さんが買うよと。そして流通するようにリフォームして、背中を押すよと。
堀: その他、今は戸建て住宅街は規制があって、あまり敷地を分割できない都市計画になっています。しかし今の若い世代はあまり広いお家は買えないし、そもそもそこまでの広さを求めてないので、必要であれば敷地も分割できるように規制も見直す必要があるかどうかを、住民の皆さんとこれから相談していきたいと考えています。
絹: なにか本当に、若者・子育て世代が住むんだというのが打ち出されていますね。
 

●公園の魅力アップ ― 遊具やトイレのリニューアル、公園の使い方もみんなで考えよう

堀: さらに公園が使いやすいと子育て世代が来てくれるということで、これまでも遊具を充実したりなど、進めてきたのですが、さらに遊具の更新をどんどん進めたり、トイレが古くなっているので、トイレのリニューアルも進めたり、公園にキッチンカーが出店したりなど、今まで公園でできなかった事もできるように、新しい使い方を、これも地元の人たちと相談しながらつくっていこうというのも今回の取組です。
絹: ソフト部分ですね。これ、建設局のみどり政策推進の連中が社会実験を少し前に仕掛けて、「公園で焚火したらあかんのか」みたいな挑戦をしたり、キッチンカーが来たりしていました。その社会実験が洛西に繋がるのかあ!なるほど。
 

●芸大跡地の活用へ

堀: それから芸大跡地がありますので、ここに新しい賑わいを創出すべく、あるいは雇用を創出すべく、早ければ9月に事業者の公募をおこなっていこうというのも、このプロジェクトの1つになります。
絹: リスナーの皆さん、今まで堀崎さんのお話を聞かれていかがですか?本当に一気呵成にできることをどんどんやっていこうぜという京都市の気概が伝わってきます。実はもっともっと細かいのがいっぱい下敷きとして手元資料のなかにもあるのですが、気になられた方は京都市のホームページ、“洛西SAKO Project”のところをお読みいただいて、できれば何かの形で関わって、あるいはタウンミーティング(僕もこの間、行ってきましたが)など、市民と行政との、あるいは地元の方との相談事がプラスアルファで進んでいくはずです。
 

■エピソード2 市営住宅の空き住戸を有効に活用したい

●市営住宅の目的外使用にチャレンジしています
絹: さあ、ではエピソード2ということで、今度は前田さんにマイクをお渡ししたいと思います。前田さんは何を語っていただけるのでしょう。
前: 私は市営住宅で空き住戸を有効に活用したいということで、少しお話をさせていただきたいと思います。
市営住宅は市内に23,000戸あります。もちろん住宅に困った方の住宅支援のためのセイフティネットの住宅ですので、その役割をしっかり果たすというのが、まず第一義です。
絹: もともと福祉目的住宅ですので、そこが一丁目一番地だと。だけどだいぶ空いてきたと。23,000戸のうち空きはどれくらいですか?
前: まず使えるのが1,000戸から2,000戸ぐらいあります。それを使っていきたいということです。この間、その空き住戸を使って、市営住宅以外の使い方、これを目的外使用と行政用語で言うのですが…。
絹: リスナーの皆さん、専門用語です。施設の目的外使用という言葉です。一般市民は別に覚えなくてもいいのですが、真面目な行政の方にとっては、施設の目的外使用というハードルは、実は高いもののようです。で、今回京都市さん、京都府さんは、そのハードルを越えられ始めました。覚悟を決められたと思います。それは国交省の後押しもあるんですよね。
前: その通りで、この間、子ども食堂とか、障がい者さんのグループホームといった使い方もさせていただいて…。
絹: 藤の木子どもキッチンだったかな。
前: よくご存じで(笑)。そのほかにも学生さんにも入居頂いているという状況です。
 

●3LAPARTMENT、覚えておられますか? ― 龍谷大学との連携

絹: このチョビット推進室の我が番組でも、3LAPARTMENTプロジェクトという、非常に勇気のある田中宮市営住宅での取組を取り上げました。龍谷大学の学生さんを7人だったか、月額2万7千円の低い家賃で入ってもらって、「君ら公共政策の学生なら、キャンパスだけが学びの場とは違うで。フィールドに入れ」と、田中宮で一緒に生活された素晴らしい実験についてお聞きしました。でもそれは初めてじゃないよと。もっと前にあるんだよと前田さんはおっしゃっていました。
前: まず田中宮で言うと、今もう始めて5年になります。学生も入れ替わって、実は京都に就職してくれている学生さんもいて、京都に愛着を持ってくれていることは、非常にうれしい成果かなと思っています。
 

●醍醐中山市営団地での取組 ― 京都橘大学との連携

前: それからその前に醍醐中山市営団地での取組もあります。醍醐駅の少し山手に行った所にある団地で、これも古い団地なのですが、距離的には自転車で20分の所に(区は変わって山科区になるのですが)京都橘大学があります。そこで大学と連携して、橘大学の留学生も含めた学生さんに住んでいただいて、一緒に地域の活動に参加するというのを、3LAPARTMENTの3~4年前から始めています。
絹: 結構古いですね、すごいなあ。それで団地のコミュニティを元気に持って行こうという実験が始まったわけですね。
前: この8月の終わりにも、橘大学の学生さんが中心となって、地元でお祭りをされると聞いています。これも非常にうれしい取組かなと思います。
絹: それで3LAPARTMENTのプロジェクトに繋がって、また西野山市営団地でも何かやらかそうとしておられますね。
 

●西野山市営住宅は京都市立芸術大学と連携します!

前: よくご存じで(笑)。西野山市営住宅では、団地の自治会の高齢化問題を解決したいと、これまで京都福祉サービス協会という所と連携をしてきたのですが、直近では京都市立芸術大学が京都駅の方に10月に移転してきますので、市立芸大と一緒になって学生さんに住んでいただこうという取組を始めようとしています。
絹: 漏れ聞く所によりますと、西野山の松尾自治連会長さんという方がすごく熱心な方でこの人のアイデアで「市立芸大来るやろ、西野山市営団地とバスで20分ほどしかかからへん。西野山に住んでもらえへんかな」とつぶやかれたそうです。それを拾われたのは前田さんですか?
前: 私らも全然知らなかったのですが、西野山市営団地にバス停があって、そこから十条トンネルを通って、十条を出て、ちょっと北の方に上がると、すぐに京都駅ということで、20分で繋がると。
絹: 十条トンネル、別名稲荷山トンネルですね。公成建設がメンテナンスのお仕事を頂戴しております(笑)。
その西野山で、福祉サービス協会の方々に2つの部屋をなんとかしてと京都市さんが注文を出されて、そこをボランティアの拠点やデイサービス拠点など、何かいい形にしそうなプロジェクトも動くそうですね。
前: そうです。地域交流拠点として使っていただけることになって、できればそこでも学生さんとの交流も深めて行きたいと考えています。
絹: ここまで背景をお聞きして、色々な実験的なプロジェクト、最初は醍醐中山、次が田中宮市営団地、西野山市営団地と、そこで培ったノウハウなんかのソフトを“洛西SAKO Project”につぎ込もうとしておられるように、素人からは見えてしょうがないのですが、その辺りはどうですか?
堀: そういうことだと思います。
絹: 僕、“洛西SAKO Project”のホームページや資料を読ませていただいて、割合ハードなところはパンと分かりやすくどんと出ているけれども、それを裏打ちするソフトウェアの部分の説明が少し薄いかなと思っていたら、そんなことはない、水面下でいっぱい隠してはりますやん(笑)。とまあ、そんな風に素人ですけど読めてしまいます。京都市さん、やるべきことはちゃんとやっておられますので、深掘りして調べてみると、「あんたらそんなことまでやってたん…」、と目が点になることが起こりそうです。
前田さん、続きはどうです?
 

●エッセンシャルワーカーの方たちを市営住宅に

前: 先ほど申し上げたのは今までやってきた事なのですが、元々市営住宅はやはり地域課題とか、社会課題の解決をしていきたいということで、実は今、エッセンシャルワーカーと呼ばれるような方々、保育士さんであったり、介護士さんであったり、そういった方々も市営住宅に入居できないのかということで、既に(水面下ではありますが)ニーズ調査も始めているところです。
絹:
私の議論相手である京都市の保育園連盟の会長さんである嶋本弘文先生の所に、前田室長と竹中係長が乗り込まれて、「どうしたら現実化できるかね」という相談を既に始めておられるそうです。
リスナーの皆さん、今までお聞きになっていかがでしょうか。先ほど図らずも私の口から出たように、ホームページで読み取れる以外に京都市さんは地道に色んな実験を何年にも渡って積み重ねていらっしゃいます。是非ご期待ください。
この番組は心を建てる公成建設の協力と京都府地域力再生プロジェクト、そして我らが京都市景観まちづくりセンターの応援でお送りいたしました。

 

投稿日:2023/08/22

第188回 ・路地の∞の可能性~新たなmain streamとして

ラジオを開く

森: 森重 幸子 氏(京都美術工芸大学 博士(工学)・一級建築士 建築学部建築学科教授)
絹: 絹川 雅則(公成建設株式会社)
         (森重 幸子 氏)

 

絹: 皆様こんにちは。まちづくりチョビット推進室の時間がやってまいりました。
この番組は地元京都の建設屋の目から見た元気なまちづくりびとのご紹介や、その活動の最新のエピソードをお伝えしております。いつものように番組のお相手は当まちづくりチョビット推進室 絹川がお送りいたします。
さて、本日のゲスト紹介です。妙齢のご婦人をお呼びいたしました。京都美術工芸大学の建築学部の教授であらせられる森重幸子先生をお呼びいたしました。森重先生、よろしくお願いいたします。
森: はい、よろしくお願いいたします。
絹: 手元の資料で、先生の軽いプロフィール紹介をさせていただきます。京都大学工学部建築学科のご卒業です。そして同大学院の工学研究科を終了されて、設計組織アモルフという設計事務所で5年いらっしゃいました。たぶんこの5年間、思いっきりキツイ5年間だと思いますが、図面に埋もれていたという時期を過ごされた後に、もう一度大学に戻っていらっしゃいます。
先ほどの打ち合わせで、「そこで初めて路地の研究に接したのよ」とおっしゃっていました。先生の研究テーマのキーワードですけれども、「居住空間」「町家細街路」「歴史的市街地」「子育て住環境」「建築関連法規制度」等々であります。森重先生、この番組はゲスト使いが荒いと言ってませんでしたね(笑)。
森: 今、聞きました(笑)。
絹: こういう番組です(笑)。今日の番組タイトルとテーマをゲストの森重先生に言わせてしまおうと、今思いつきました。では先生、よろしくお願いします。
森: 先ほどちょっとご相談しながら決めたのですが、今日のテーマ、「路地の再生の∞の可能性~新たなmainstreamとして」というふうにしたいと思います。よろしくお願いします。
絹: ありがとうございます。「路地って、メインストリームになるで」という含意でございます。
それでは森重先生、エピソード1として、先生の研究テーマとか、自己紹介をさらに膨らませて頂きたいと思います。さあ、リスナーの皆さん、どういうお話が聞けますか、ご期待ください。
 

■エピソード1 路地の再発見とその魅力

●歴史的なまちの奥深さに惹かれて
森: ではちょっと自己紹介をさせてもらえたらと思います。私自身、今ご紹介いただいたように、路地や町家の研究を、ここ最近はずっとしているのですが、もともとは北摂の郊外のニュータウンで生まれ育ちまして、ニュータウンですので道と言えば4mはあるような…。
絹: 北摂?
森: 高槻市の北の方です。そこに成型の区画がずっと並んでいて、戸建てのお家や団地が建っているような所で生まれ育っていまして…。
絹: 京都で言えば洛西ニュータウンの戸建ての所を想像すれば近いですか?
森: そうだと思います。遊ぶと言えば公園か、家の前の道みたいな環境でずっと過ごしてきました。ですので路地に生まれ育ったわけではありませんが、研究しながら改めて、こんな面白いというか、こんな魅力的な場所があるのか、歴史的なまちというのは、本当に奥深いなと思って、惹きつけられたところがあります。
 

●まち歩きを大切にしています

絹: 先生の大学の学生さん向けの研究室紹介でも、僕の好きな言葉が躍っておりまして、「まち歩き」。僕の年代の、まちづくりというキーワードに引っぱられて仲良くなった人たちは、「まち歩き」がすごく好きな人が多いんです。まちを歩くことで得られる気づきというのでしょうか、我がまちの事を歩いてみるまでわからなかったことが、最近でもありました。だから森重研究室は学生さんとともに、実際にフィールドワークと言うか、まちを歩くことから大切にされているようなフシがありますね。
森: そうですね。私自身も振り返ってみると、大学生の時、まだ路地の研究はしてなかったので、京都で大学生活を過ごしていたのに、あんまりまちを歩いていなかったなというのは自分の反省なのです。今、私の研究室に来てもらう学生さんは、住宅に興味のある学生さんが多くて、しかも今私のおります大学は本当にまちなかにキャンパスがあるので、少し歩くと本当にまちの様子が見られるようなまち歩きができるのです。
絹: 京都美術工芸大学は川端七条上がるですね。
森: 川端沿いにあります。でも京阪の駅がすぐ近くですし、京都駅も近いので、電車に乗ってすぐ帰ってしまう学生さんは、本当に周りのことを知らない事もあります。でも特に私のゼミに来る学生さんには、京都のまちがどんな風になっているのか、実態として見られるので、一緒に歩いて回ることをよくやっています。自己紹介のはずが横道に逸れてしまいましたね(笑)。
 

●路地はワンダーに溢れた世界

森: そういう郊外ニュータウンで生まれ育ったのですが、大学で建築を勉強して、設計が好きだったので、設計の実務を覚えたいと思い、5年ほど設計事務所で、本当に先ほどおっしゃっていただいたように、ものすごく充実した、密度の濃い、楽しい5年間を過ごして、その後もう一度大学に戻りました。大学に戻ってから、ずっとお世話になっている高田光雄先生の研究室で、学生さんと一緒に路地の研究をするようになりました。そこでこんなワンダーに溢れた世界があるんだなというのを、改めて気づいたという感じですね。
絹: 改めて気づいたと今、おっしゃいましたが、京都の住人と言うか、長いこと京都に住んでいる人間も実はそのことに気が付いていない人が、一定数どころか、結構たくさんいるかもしれませんね。なんか、ワンダーという言葉が出ましたね。
森: 実際、調査をしていますと、やはり歴史が深いというのもあるので、実際お住まいになっている方自身も、良い面と課題を抱えている面と両方あるんだなということも思っております。
研究としては、まずはそもそもどのエリアにどんな路地があるのかというところ、例えば西陣や田の字地区に袋地が多いと。また西陣や朱雀エリアなどには通り抜けが多いという風な、場所によって少しずつ路地の性質が違うわけです。そういう路地に対して、建築基準法上、元々制限がありましたので、手を入れられずに空き家になったり、老朽化してしまうことも、これまでは問題としてありました。
 

●京都には様々な路地があります

絹: ちょっと復習させてください。袋地が多いのはどこですか?
森: 田の字地区はやはり袋地が多いですね。碁盤の目に入っていくような短いものが。
絹: 路地と言っても色々パターンがあるよと。袋地が多い所、それから通り抜けできる路地。
森: 大正や昭和のあたりに京都のまちが拡大していきますけれども、いわゆる御土居から少し外側に拡がっていくエリアに、通り抜けられる道が多かったりしますね。
絹: 路地にもいろいろあるよということですね。
そしてまちなかを歩くなかで、路地を歩いてみて、ワンダーというか、「わあ、すご!」と感じられたと。例えばどんなワンダーをお感じになったか、教えていただけますか。
 

●路地に入ってみると、思いもよらない景色が広がって

森: あの狭い道を歩いていると、急に風景が変ったりとか、急に大きな木が突然あったりとか、植木鉢とかそういったものが色々出ているというところや、お地蔵さんはもちろん、お稲荷さんだったり、「あ、こんなところにこんな」というものがあって、そこに普段から人の息づかいがある。入ってみないと気づかないというか、表の道を歩いていたら通り過ぎてしまうような所も、入ってみると思いもよらない景色があるというのが、本当に…。
絹: そうですねえ。市内でも車で移動して通り過ぎているだけだと、細街路の中、空気は肌ではわかりませんよね。入り込んでみて、「えらいここ居心地がいい、こんな道通るの初めて」みたいなことありますものね。
 

●生活空間だからこその魅力

森: かと言って、外からの人がどんどん入って行っていいわけでもない。やはり生活空間としてある所なので、お住まいの方がいらっしゃって、そういう場所が使われているという状態がまちとして魅力的なところだと思うので、特に今、観光客の方々がたくさんいらっしゃる時に…。
絹: 「ズカズカと入っていい場所ではないのをわかってる?」みたいな空気感と、かつてオーバーツーリズムが危惧された時には、路地の入口に、観光客向けに「ここで写真を撮らないで」というメッセージを出されている所もありました。だから「すみません、こそっと通るので、静かに通るので、通らせてください」みたいな姿勢が要るのかもしれませんね。
森: ちょうど都市空間から繋がっている場所ということで、都市に奥行きを与えてくれる魅力的な場所なのです。一方でパブリックとプライベートの境目と言うか、中間的な場所で、生活空間であることがやはり魅力的なところかなと思うので、そういうのを大事にしながらというのは重要だと思います。
絹: 自己紹介のはずが、私が不規則な質問を発するものですから、横道に逸れてしまいましたが(笑)。手元の資料の膏薬の辻子、私も好きな場所なんですが、ここについて何かコメントありますでしょうか。
 

■エピソード2 路地空間を守るためのルールづくり

●膏薬の辻子をご存知ですか?
森: 研究しながら、実際に路地再生の改修のプロジェクトに関わっております。今言っていただいた膏薬の辻子のような路地というか、狭い道、辻子のまちのまちづくり活動にも関わらせていただいて、長く、もう10年以上通っているような所です。
絹: リスナーの皆さん、膏薬の辻子って土地勘ありますか?何て説明しましょう?
森: 四条烏丸の少し西側でして、新町と西洞院の間、四条通に直接つながっている、四条から綾小路にかける通りです。狭い道の中でも、特に古い歴史のある平安時代の終わりくらいからあると言われる道です。そこが四条通に直接面しているので、元々高さ制限が31mの区画にすっぽりと含まれている状態だったんです。ただその狭い道に面しては、町家、長屋が軒を連ねて、すごく素敵な町並みが残っている場所だったんです。そこが31mの高さ制限ですと、外側の道と一体になって、31mいっぱいの建物が建ってしまう。元々45mが31mに下がったのですが、それでも31m、10階建てが建てられる区域になっていまして、なんとか二階建の町家が並んでいる所には、それに合わせたまちのルールがなんとかできないかということに取り組んでいまして…。
絹: それが地区計画と呼ばれる手法なのですね?
森: そうです。
絹: こういう都市計画の用語をご存じないリスナーのために、あえてこの地区計画というものを説明すると、どうなりますでしょう。
 

●地区計画とは、その地域だけのルールづくりです

森: 建築基準法上は都市計画と連動して高さが決まっているのですが、地区計画のエリアを決め、その地区だけ特別に高さ制限なり建物の形態の制限を変えるということができるのです。
絹: その用件で必要なのは、地域の人たちの合意。
森: 色んな手法があるのですが、京都の場合は地権者の方皆さんに納得いただいてということが必要です。そのうえで京都市が条例を設けて、都市計画審議会で審議をした結果、OKが出ると拘束力がある形でそこだけのルールができるというものです。
絹: それが10年かけてできてきたおかげで大変素敵な膏薬の辻子空間が残っていますし、一般の人たちが入れるような色んなお店もできてきているようです。
森: 31mだったのが、今は12mまで高さ制限が下がったということと、道が前までは4mに広げないといけない状態だったのが、2.7mで3項道路に指定されています。
絹: 3項道路、ちょっと専門的になってしまいますが、押さえておきたいところです。4mに広げなければいけなかったのが、2.7mでオーケーにしようと。
それで私、道路建設業協会の会員の立場から言いますと、膏薬の辻子の舗装について提案をいたしまして、御影石風(タイトルがあまりよくないのですが)、保水性舗装で、アスファルトでつくるのだけれども、セメントミルクを注入して保水材を入れているがために、石畳にちょっと見えるけれども、石ほど高くなくて、保水材が入っているので、打ち水をした水が浸み込んで、それが気化熱を奪って、夏の間少し涼しくなるみたいな、そういう機能の舗装を施した場所なんですよね。
森: そうです、そうです!
絹: それに我が道路建設業協会の技術積算委員会がタッチしています。門川市長、好きそうですものね、打ち水(笑)。
森: 舗装記念事業の時も市長が来て下さって、歩き初めをしていただきました。
絹: そういう色んな路地の研究に関わってらっしゃる森重先生ですが、無限の可能性のあたりをお話しいただけますでしょうか。
 

■エピソード3 路地の再生による無限の可能性

●路地の再生とは ― 繋げたり、隣に抜けたり
森: 元々町家は、通り庭があって、部屋が並んでいて、それによってすごくフレキシブルに使えるようになっています。路地再生というのは、路地に沿って複数のお宅を一体的に計画して新しく使うことをそう呼んでいて、そうすると路地を介して複数のおうちを一体的に繋いだり、隣に抜けられるようにしてみたり、本当に色んな使い方の可能性がでてくるわけです。実際にそういったことをされている事例が、このところ増えていて、最近も記事に書いたりしております。本当にどんどん路地や町家がなくなっていくのですが、是非そうしないで、無限の可能性のある資産として、うまく使っていくことができるんじゃないかと思っています。
絹: 色んな可能性を秘めた路地再生の事例、パターンがたくさんあるよと。その中でも代表的なものをご紹介していただけませんか。
 

●“五条坂なかにわ路地”の事例

森: 私自身が関わってさせていただいたのが、“五条坂なかにわ路地”です。こちらは本当に袋地なのですが、元々環境条件の良い所で、それをうまく使って子育て世帯が新たに住んで、路地の良さを活かしながら子どもが遊んでいてというふうな、世代を超えて繋がっていくという事例ですね。
絹: なかなか言葉で表現しにくい部分があるのですが、かつては袋地の奥や路地の奥は再生はムリ、潰して駐車場にしたらとか、あるいは新しく建て替えるしかないよというのが、我々建設屋の常識だった時代があります。
これ触れるとややこしいのですが、細街路条例という2012年以降の条例が色々整備されていくことで、今先生がおっしゃったような路地の再生に色んな可能性が出てきたよと。それが先生の研究テーマの中心の1つでもある。ですから路地に注目して!というところですよね。
もうちょっとこの辺の無限の可能性について、ご説明いただけますか。路地を伸ばす、繋げるとか。
 

●“もみじの小路”の事例

森: 例えば『京都だより』でもご紹介させていただいている“もみじの小路”、これは京町家再生研究会の皆さんがされている事例なのですが、単に袋地を繋ぐだけではなく、袋地と町家の通り庭を使って、さらに庭部分も繋げることで、それまで行き止まりだったところが、通り抜けられるようになるというすごい事例があります。
絹: オリンピックの体操競技で言うと、ウルトラCとか、ウルトラDとかそんな感じじゃないですか。
森: やはり行き止まりの不安を色んなやり方で抜けられるようにということです。特に緊急時だけでも抜けられるようにとか、建築計画的に色んな可能性があるなと思います。
絹: 路地には再生の無限の可能性があるよと。そして京都は日本全国どこにも路地はあるけれども、周辺地区に路地があるのが普通で、京都のように政令都市クラスの都市で、その中心部に路地がデーンと大きな顔をして、でも大切な機能を持ったまま現在に至るようなところは他にないというのが、森重先生の御主張の1つかもしれません。
 

●路地サミットを10月7日(土)8日(日)、京都で開催します!

絹: ここで告知です。「京都路地サミット」。
森: “全国路地のまち連絡協議会”さんが、これまで各地で路地サミットを開催されてきましたが、今年は「路地サミットin京都 2023」と題して京都でやりましょうということになりました。10月の7日(土)8日(日)に開催されます。7日(土)にシンポジウム、8日(日)に関連のまち歩きなどを企画しようとしております。そこでは今、お話したようなことも少しお話できたら、また色んな方が関わっている京都のまちの路地の面白さや多様性が見られたらいいかなと思っています。
絹: ちょっと時間が足りなくなってしまいましたが、また森重先生には再度ご登場願うこともあるかもしれません。路地サミットの報告なんていうのもね(笑)。
この番組は心を建てる公成建設の協力と京都府地域力再生プロジェクト、そして我らが京都市景観まちづくりセンターの応援でお送りいたしました。
投稿日:2023/07/24
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