公成建設株式会社は、建設業を通じて、豊かな国土づくりに邁進し、広く社会に貢献します。

まちづくりチョビット推進室
TOP > まちづくりチョビット推進室 > 第180回 ・建設イノベーションワークショップ~立命建山研究室との出会い 産学研究プロジェクトに思う…

第180回 ・建設イノベーションワークショップ~立命建山研究室との出会い 産学研究プロジェクトに思う…

ラジオを開く

岡: 岡部 周平 氏(立命館大学 衣笠総合研究機構 助教)
絹: 絹川 雅則(公成建設株式会社)
     (岡部 周平 氏)

 

絹: 皆様こんにちは。まちづくりチョビット推進室の時間がやってまいりました。
この番組は地元京都の建設屋の目から見た元気なまちづくりびとのご紹介や、その活動の最新のエピソードをお伝えしております。いつものように番組のお相手は当まちづくりチョビット推進室 絹川がお送りいたします。
さて、今日のゲストは、うちにしたら珍しく、研究者の方をお呼びしています。立命館大学衣笠総合研究機構、助教でいらっしゃいます岡部周平先生です。岡部先生、よろしくお願いいたします。
岡: よろしくお願いいたします。
絹: まず、岡部先生との出会いをご報告させてください。
つい最近なんですけど、10月の21日、キャンパスプラザ京都というところで、「建設イノベーションワークショップ・公成建設・関組編」という勉強会と言うか、研究会と言うか、ワークショップですね。ほぼ午前・午後丸一日行いました。これをリードして下さったのが、立命館大学の建山和由教授、岡部先生から言うと、親分になります。
岡: そうですね(笑)。
絹: 建山教授のお名前を聞いたことのある方がおられるかもしれません。我々建設の分野ではかなり有名な方なのですが、ICTと言いますか、i-Construction※。建設分野において、色んな新しいICT建機を用いて、現場を効率化・省力化する研究で、一番ビッグネームな方。工学系ですよね。
岡: そうです。土木です。
絹: ところが土木のご専門だけれども、なぜか一緒にチームを組んでいらっしゃる建山教授の横には善本教授がいらっしゃる。彼が岡部先生のボス?
岡: 研究室を卒業していますので。
絹: 工学部ではなく、土木系ではなく、経営学部?
岡: そうです。善本先生は経営学部です。
絹: ですから今日来ていただいた岡部先生も経営学系で、なんで経営学やねんというところから始めたいと思います(笑)。
その前に、忘れていた番組タイトルを申し上げます(笑)。「建設イノベーションワークショップ~立命建山研究室との出会い 産学研究プロジェクトに思う…」と題してお送りいたします。
さて、本当は岡部さんにまずご登場いただかないといけないのですが、最初に前座で導入をやらせてください。
※i-Constructionとは、国土交通省が進めている取組の一つで、建設現場にコンピューターやネットワークなどの新しい技術を取り入れて建設生産システム全体の生産性向上を図り、魅力ある建設現場を目指す取組です。
 

■エピソード1 建設産業の抱える問題点・困った点はなんでしょう

●日本では生産年齢人口がどんどん減っています
絹: まずはエピソード1「建設産業の抱える問題点・困った点はなんでしょう」というところで、これは建山先生の講義ノートからちょっと読ませていただきます。
リスナーの皆さん、生産年齢人口って、聞いたことがありますか?15歳から64歳の人たちを生産年齢人口といって、要は色んな産業で仕事をする対象の人という意味です。人口減少社会、高齢化社会、少子高齢化社会と言われて久しいですが、日本の人口は2007年にピークを打ち、どんどん減っています。これは建山先生の講義でメモったノートから読んでいるのですが、生産年齢人口って、30年で30%減る、10年で10%減る、1年で1%ずつ減るんだよと。えらいことが日本中で起こるよ、建設産業でもそうだよねと。今でも職人さんや監督(我々は監督業ですけれども)、施工の管理の技術屋さんもどんどん高齢化していって、60歳過ぎた定年後の嘱託が現役でガンガン、元気なうちは働いてくれています。年若い学生さんはなかなか我が産業に来てくれませんね。でも災害が激甚化してくる傾向には、リスナーの皆さんも気づいていらっしゃるかもしれません。例えば2019年の台風19号では、20水系、71河川でなんと142か所で破堤しています。破堤って、専門用語ですけど、岡部先生「破堤」って、わかります?
岡: なんとなくイメージは…。防波堤が崩れたり、ひびが入ったりという感じでしょうか。
絹: 堤防が崩れたり、破れたり、ひびが入ったりということですね。そういう時に地元の建設屋さんたちが実は出動するんです。大災害の時は自衛隊さんと一緒に出動するんです。でも生産年齢人口がどんどん減っていくと、いざという時にそういう市民の皆さんの足元を支える人たち、技術屋さん、職人さんたちがどんどん少なくなるわけで、そうなったら困りますよね。
それに対してどうアクションしていくのかと言うのを、立命館大学の建山教授のグループ(そのチームの中に岡部先生もおられますが)、そういう学術の分野と我々のような産業の分野が一緒になって研究会を発足させて、勉強させていただいてます。というのがエピソード1で、こんなことを地元の建設屋と大学の先生たちはやっているんだよというのを、ちょっと前振りでやりましたけれども、岡部先生からも経営学分野でリスナーの皆さんにひらがなで説明していただけるとうれしいなと思います。
 

■エピソード2 “建設イノベーションワークショップ”についてご説明しましょう

●生産工程における無駄をなくす ― 生産マネジメント
岡: はい、ありがとうございます。リスナーの皆さんも専門用語が多かったので難しかったかもしれないですね。
僕は立命館大学の経営学部の出身なのですが、この建設イノベーションワークショップの中ではいわゆる生産マネジメントというところの関わりをしています。その生産マネジメントってなに?というところなのですが、いわゆるメーカーさん、日本でいうとものづくり産業、製造業の生産工程における無駄を排除しようというのが、生産マネジメントの大きな目的であります。
絹: 例えば有名なところでは、自動車産業の雄、トヨタさんとか。
岡: おっしゃる通り、トヨタ生産方式はもしかしたら聞いたことがあるかもしれませんが、そちらのメソッドを建設業界に応用ができないかというところで、建山先生と善本先生がタッグを組まれて、こういう建設イノベーションワークショップというのを、今展開しているところです。
絹: 僕は今、建設屋ですけど、学生時代の80年代は経営学部の学生だったんです。トヨタ生産方式とか、かんばん方式とか、ジャストインタイム方式って、ゼミでは習わなかったけれども、教養で何冊か本を読まされたりしていまして、一応経営学部の人間はだいたい通るんですよね。
岡: ざっとは学ぶと思います。
絹: でも岡部先生のボスである善本教授は、トヨタ生産方式、ジャストインタイム方式、かんばん方式と言われるものを、MITという米国のマサチューセッツ工科大学の人たちが研究して再整理されてきているものの研究者なんですよね。
 

●リーンマネジメントを建設現場で応用する

岡: そうです。善本教授も海外の様々な工場の視察に行かれてそれを統計化されて、トヨタ生産方式の発展に寄与されているのですが、それも今説明のあったマサチューセッツ工科大学の方でも同じような研究がされて、逆輸入という形で「リーンマネジメント」というものが新しい考え方としてあります。
絹: 皆さん、たぶん「リーンマネジメント」と言う言葉は聞き始めだと思うのですが、「リーン」というのは“lean”、で私と違って贅肉がない(笑)、引き締まったという意味だそうです。ですから引き締まった贅肉のないマネジメント、製造現場から無駄や待ち時間を削って行けば本質が見えてきて、本当の技術屋さんの技術力が試される状態がやっと来るんじゃないのと、バクっと言えばそんな感じで間違いないですかね?
岡: 合っていると思います。一般の方にはそちらの方が理解しやすいと思います。
絹: それを建設現場にどう応用するねんという時に、うちの現場を1つ提供して、一緒に教えてくださいみたいな勉強会が月に何回か行われているのが、建山研究室とのやりとりだったなと思っています。実は建山先生に誘っていただいて、即座に「やります!」と返しました(笑)。
 

●おもちゃのレゴを使ってアイデア出しをするんです

岡: 決断が大事ですよね。
建設イノベーションワークショップは、現場の方や総務事務の方も含めお集まりいただいて、それぞれ今の業務からどう改善できるか、新しいアイデアを出すというワークショップになります。ただ、初めて会う方がチームを組んでワークに取り組むので、最初アイスブレイクと言われるような、ちょっと知らない人同士が仲良くなるための準備運動みたいなことのファシリテートをさせていただいたり、その後、今回はレゴシリアスプレイという手法(おもちゃのブロックのレゴを使ってアイデア出しをする)を使ったのですが、そのメソッドを体験いただいたりといった役割で参加いたしておりました。
絹: その部分を私は目撃しまして、ちょっと感激しちゃったんですよ。
リスナーの皆さん、普通の一般の会社の会議で、声の大きい上司が一人で滔々としゃべって、内心「あのおっさん、おかしいこと言ってるけど、今言うのをやめとこかな」とか、「眠たいな」とか思いながら、資料の読み合わせだけで時間が過ぎていくみたいな経験はありませんか。うちの会社でも、割合そういう会議と言いますか、無駄な会議が多いんですけど、岡部先生がリードするアイデア出し会議、それから最初に仲良くなって色んなアイデアがボンボン飛び出すという会議は、ちょっと違うんですよ。さて、どこが違うんでしょうか。それをうまくリードするためのメソッドと言われましたけど、コツを岡部先生は持っているんですよね。
このレゴシリアスプレイ、もしスマートフォンをお持ちでしたら検索してみて下さい。今、結構色んな分野で流行っています。そして小さいお子さんをお持ちの方なら、皆さんのお家にあると思います。それを使って、アイデアがわいてきたり、ためらいなく自分の思いを口にしたりする魔法みたいな、でもすごくとっつきやすいことを、岡部さんはリードしちゃうんですよ。
岡: やはり言葉での会議となると、話すのが上手な人や、声の大きな人の意見が優先されがちなのですが、レゴを使うと、作品で自分の意見を表現するので、皆さんある程度難しいんですよ。ですからある程度フェアな状態で、実はこのブロックのこの赤い部分というのは、自分は意識していないけど、こういう意味合いでつけているんだとか、レゴを使って自分の意見を言うことで、全員の意見を吸い上げることができるということです。
絹: 残念ながらこれはラジオなので、映像がないのでわかりにくいかもしれません。ですからリスナーの皆さん、想像力を逞しくしてみてください。
さらにリスナーの皆さんに今のお話をわかりやすくしてもらうために、実際に岡部さんが課題を出すとしたら、具体的な課題を1つ紹介してもらえませんか?この間、レゴじゃなかったけど、カプセルで何か作りましたね。ああいう岡部さんが得意な最初の課題って、どんな注文を出します?
 

●たとえば…、あなたにとっての悪魔的な上司を作ってください

岡: すごく抽象的なのが色々作りやすいのでいいと言われていて、アイスブレイク・準備運動の時によく使うのは、「悪魔的な上司を作ってください」みたいなことを言ったりします。悪魔って人によってどう捉えるかが違ったりするので、そういうことを表現してもらうと、「この人にとっての悪魔はこういう意味なんだ」とか、そういうのをアイスブレイクで面白おかしくやることで、結構使われたりしますね。
絹: リスナーの皆さん、ついてこれていますか(笑)?
普通の会社の会議や研修会で、いきなり岡部先生みたいな人が出てきて、おもちゃのブロックをテーブルの上に広げて、「最初の課題です。悪魔的な上司を表現してください」とはじまると、1テーブルに4~5人ぐらいのサイズなんですけど、そりゃあびっくりしますよね。大の大人がおもちゃで何をさせられるのと。
岡: 傍から見たら異様な光景ですよね。
絹: まずは軽い驚きがあるでしょ。でも次に集中し始めるんですよね。「自分にとって悪魔的な上司ってなんだろう」と。そういうことを例えば5~10分やって、その10分後、参加者の胸の内はどう変化しているんでしょうねえ。
岡: 普段そういうことを考えもしないので、ワークショップに入る前って、普段使わない頭を準備運動させるというのも重要なのです。
 

●思ったことを表現しても安全な場として

絹: 右脳・左脳という分類が正しいかどうかわかりませんが、どちらかと言うと右側、普段使わないヤツのスイッチを入れさせるみたいな。これで「あれ、これは普段言ってはいけない事を表現しても安全な場なんだな」というスイッチが入ったらシメたものですね。
岡: そうですね。普段とは違う意見が出てきやすくなるので。
絹: 普段おとなしくてしゃべらない人が、いきなり作品を使って雄弁になったり…。
岡: 「その意見、いいね!すごくいいね!」ということに繋がるわけです。
絹: 建設イノベーションワークショップを開催したキャンパスプラザ京都において、そういうことがうちの人間12名と、福井の関組という地元の建設会社の4名の方と、西尾レントオールの人たちとが集まって、目の前で実際にそれが起こったんです。で、建設現場での困りごとについて、色んな角度からのコメントが続発したそうですね。それを見ていた部長級の上司たちが、「うちの若い人たちはちゃんと問題意識を持っているんだ。それも色んな角度で」と。すごく場があったまって、ワイワイワイワイ議論している、そういう部下たちの姿を見て、「感動しました!」と言って帰っていきました。
岡: ありがとうございます。そう言っていただけると本望です。
絹: それを仕掛けたのが、ここにおられる岡部さんです。で、岡部さんとボスの善本教授と工学土木の専門家である建山教授は、「建設現場においてそういうことが起こればいいね」と思っていらっしゃるんですね。
岡: そうですね。まずはそういう現場の方からのアイデアをいかに引き出すか。やはり上からではなくて、現場から上ってくるのが理想かなと。
絹: 僕は普段社長室という暖かくて涼しくて快適な所にいて、そういうおっさんが現場に対して「ああした方がいいんじゃないの?こうせなあかんのと違うの?」なんて言うと、「現場から遠いヤツが要らん事言うな」という話ですよね(笑)。やっぱり現場にこそ、ネタと言うか、材料は転がっていて、現場に近い人の判断の方が正しい確率が高いんじゃないかと僕、ずっと思っています。それを引き出してやろうというのが、立命館大学の建山研究室の目論見だと。
岡: これがきっかけになって、様々な企業さんの中で変わっていくみたいなムーブメントが起きればなと。
絹: リーンマネジメントって、そういうことから始まるらしいということまではわかりました。次に岡部先生がお得意なリーンスタートアップについても一言お願いいたします。
 

●小さく始めて、いっぱい失敗を積み重ねる ― リーンスタートアップ

岡: ありがとうございます。僕は建設イノベーションワークショップの中ではファシリテーターをさせていただいたのですが、普段は学生さんのアイデア出しをおこなっています。学生さんは最近、起業が結構ブームになっていて、東大生のなりたい職業の一位が起業家というくらい、起業したい学生さんは増えてきているんです。その中で学生さんたちもアイデアを出していくなかで、リーンスタートアップという手法が使われています。
絹: どんな手法なんですか?
岡: これは簡単に言うと、できるだけ小さく始めて、いっぱい失敗を積み重ねようということで…。
絹: 皆さん、今聞きました?小さく始めて、いっぱい失敗を積み重ねよう。普通仕事をしていたら、「失敗せんようにしよう。怒られるし、経費を無駄遣いするし」と考えるものです。普通のチームなら「段取りが悪いから、そんな失敗するんや」と怒られますよね。ところがリーンスタートアップでは「失敗してもええよ。小さい失敗を早めにしいや」と。
岡: そうじゃないとチャレンジしなくなってしまうので。小さい失敗が経験になって、「次はこうしよう、じゃあ次はこうしよう」というので、だんだん成功に近づくという考え方ですね。
絹: うちの会社はね、実際94歳、95歳になりかかっているのですが、それくらい経ってくると、「新しい事やめとこか」と、前例踏襲のきらいが全くないとも言えません。皆さんは「あれがやりたい」と言っても上から潰されるみたいな経験、ないですか?そういうのじゃなくて、やはりトヨタさんやホンダさんやソニーさんなど、日本の綺羅星のように輝くビッグカンパニーのスタート時点というのは、そういう雰囲気があったそうですね。「失敗はかまへんよ」と。
岡: 今でもそういう大手企業さんは社員さんが社内で起業するにも、リーンスタートアップの手法を使いながら、新しい社員さんを育てていこうみたいな流れは結構ありますね。
 
絹: リスナーの皆さん、本当に今日はさわりしか話せませんでしたが、立命館大学にリーンマネジメントとか、経営学部の先生って、こんなことを言うんですよ。
岡: 横文字が多くてすみません(笑)。
絹: でもね、要はリーンスタートアップ、起業をしたいという学生に対して、「お金をかけずに早めに失敗をたくさんしいや」と。これが現実の企業にもし応用されて、アイスブレイクの時のように、「この場所は安全な場所なんだよ」と思ったとたんに、人は色んなことを、思いを口に出せるのかもしれませんね。
建設イノベーションワークショップ、立命館大学の建山研究室と地元企業が産学協同プロジェクトに挑戦しています。うちの若い人たちが建山先生、善本先生、そして岡部先生のような方たちの指導を受けながら、現場の職人さんたちと小さな失敗をたくさんできるような雰囲気が築けるでしょうか。乞うご期待!でもこのことが日本を安全にしていくことに繋がると信じております。
この番組は心を建てる公成建設の協力と我らが京都市景観まちづくりセンターの応援でお送りいたしました。先生また来てくださいね。是非シリーズ化しましょうね!
岡: 是非是非、お願いします!
投稿日:2022/11/17
PAGE TOP