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まちづくりチョビット推進室
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第188回 ・路地の∞の可能性~新たなmain streamとして

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森: 森重 幸子 氏(京都美術工芸大学 博士(工学)・一級建築士 建築学部建築学科教授)
絹: 絹川 雅則(公成建設株式会社)
         (森重 幸子 氏)

 

絹: 皆様こんにちは。まちづくりチョビット推進室の時間がやってまいりました。
この番組は地元京都の建設屋の目から見た元気なまちづくりびとのご紹介や、その活動の最新のエピソードをお伝えしております。いつものように番組のお相手は当まちづくりチョビット推進室 絹川がお送りいたします。
さて、本日のゲスト紹介です。妙齢のご婦人をお呼びいたしました。京都美術工芸大学の建築学部の教授であらせられる森重幸子先生をお呼びいたしました。森重先生、よろしくお願いいたします。
森: はい、よろしくお願いいたします。
絹: 手元の資料で、先生の軽いプロフィール紹介をさせていただきます。京都大学工学部建築学科のご卒業です。そして同大学院の工学研究科を終了されて、設計組織アモルフという設計事務所で5年いらっしゃいました。たぶんこの5年間、思いっきりキツイ5年間だと思いますが、図面に埋もれていたという時期を過ごされた後に、もう一度大学に戻っていらっしゃいます。
先ほどの打ち合わせで、「そこで初めて路地の研究に接したのよ」とおっしゃっていました。先生の研究テーマのキーワードですけれども、「居住空間」「町家細街路」「歴史的市街地」「子育て住環境」「建築関連法規制度」等々であります。森重先生、この番組はゲスト使いが荒いと言ってませんでしたね(笑)。
森: 今、聞きました(笑)。
絹: こういう番組です(笑)。今日の番組タイトルとテーマをゲストの森重先生に言わせてしまおうと、今思いつきました。では先生、よろしくお願いします。
森: 先ほどちょっとご相談しながら決めたのですが、今日のテーマ、「路地の再生の∞の可能性~新たなmainstreamとして」というふうにしたいと思います。よろしくお願いします。
絹: ありがとうございます。「路地って、メインストリームになるで」という含意でございます。
それでは森重先生、エピソード1として、先生の研究テーマとか、自己紹介をさらに膨らませて頂きたいと思います。さあ、リスナーの皆さん、どういうお話が聞けますか、ご期待ください。
 

■エピソード1 路地の再発見とその魅力

●歴史的なまちの奥深さに惹かれて
森: ではちょっと自己紹介をさせてもらえたらと思います。私自身、今ご紹介いただいたように、路地や町家の研究を、ここ最近はずっとしているのですが、もともとは北摂の郊外のニュータウンで生まれ育ちまして、ニュータウンですので道と言えば4mはあるような…。
絹: 北摂?
森: 高槻市の北の方です。そこに成型の区画がずっと並んでいて、戸建てのお家や団地が建っているような所で生まれ育っていまして…。
絹: 京都で言えば洛西ニュータウンの戸建ての所を想像すれば近いですか?
森: そうだと思います。遊ぶと言えば公園か、家の前の道みたいな環境でずっと過ごしてきました。ですので路地に生まれ育ったわけではありませんが、研究しながら改めて、こんな面白いというか、こんな魅力的な場所があるのか、歴史的なまちというのは、本当に奥深いなと思って、惹きつけられたところがあります。
 

●まち歩きを大切にしています

絹: 先生の大学の学生さん向けの研究室紹介でも、僕の好きな言葉が躍っておりまして、「まち歩き」。僕の年代の、まちづくりというキーワードに引っぱられて仲良くなった人たちは、「まち歩き」がすごく好きな人が多いんです。まちを歩くことで得られる気づきというのでしょうか、我がまちの事を歩いてみるまでわからなかったことが、最近でもありました。だから森重研究室は学生さんとともに、実際にフィールドワークと言うか、まちを歩くことから大切にされているようなフシがありますね。
森: そうですね。私自身も振り返ってみると、大学生の時、まだ路地の研究はしてなかったので、京都で大学生活を過ごしていたのに、あんまりまちを歩いていなかったなというのは自分の反省なのです。今、私の研究室に来てもらう学生さんは、住宅に興味のある学生さんが多くて、しかも今私のおります大学は本当にまちなかにキャンパスがあるので、少し歩くと本当にまちの様子が見られるようなまち歩きができるのです。
絹: 京都美術工芸大学は川端七条上がるですね。
森: 川端沿いにあります。でも京阪の駅がすぐ近くですし、京都駅も近いので、電車に乗ってすぐ帰ってしまう学生さんは、本当に周りのことを知らない事もあります。でも特に私のゼミに来る学生さんには、京都のまちがどんな風になっているのか、実態として見られるので、一緒に歩いて回ることをよくやっています。自己紹介のはずが横道に逸れてしまいましたね(笑)。
 

●路地はワンダーに溢れた世界

森: そういう郊外ニュータウンで生まれ育ったのですが、大学で建築を勉強して、設計が好きだったので、設計の実務を覚えたいと思い、5年ほど設計事務所で、本当に先ほどおっしゃっていただいたように、ものすごく充実した、密度の濃い、楽しい5年間を過ごして、その後もう一度大学に戻りました。大学に戻ってから、ずっとお世話になっている高田光雄先生の研究室で、学生さんと一緒に路地の研究をするようになりました。そこでこんなワンダーに溢れた世界があるんだなというのを、改めて気づいたという感じですね。
絹: 改めて気づいたと今、おっしゃいましたが、京都の住人と言うか、長いこと京都に住んでいる人間も実はそのことに気が付いていない人が、一定数どころか、結構たくさんいるかもしれませんね。なんか、ワンダーという言葉が出ましたね。
森: 実際、調査をしていますと、やはり歴史が深いというのもあるので、実際お住まいになっている方自身も、良い面と課題を抱えている面と両方あるんだなということも思っております。
研究としては、まずはそもそもどのエリアにどんな路地があるのかというところ、例えば西陣や田の字地区に袋地が多いと。また西陣や朱雀エリアなどには通り抜けが多いという風な、場所によって少しずつ路地の性質が違うわけです。そういう路地に対して、建築基準法上、元々制限がありましたので、手を入れられずに空き家になったり、老朽化してしまうことも、これまでは問題としてありました。
 

●京都には様々な路地があります

絹: ちょっと復習させてください。袋地が多いのはどこですか?
森: 田の字地区はやはり袋地が多いですね。碁盤の目に入っていくような短いものが。
絹: 路地と言っても色々パターンがあるよと。袋地が多い所、それから通り抜けできる路地。
森: 大正や昭和のあたりに京都のまちが拡大していきますけれども、いわゆる御土居から少し外側に拡がっていくエリアに、通り抜けられる道が多かったりしますね。
絹: 路地にもいろいろあるよということですね。
そしてまちなかを歩くなかで、路地を歩いてみて、ワンダーというか、「わあ、すご!」と感じられたと。例えばどんなワンダーをお感じになったか、教えていただけますか。
 

●路地に入ってみると、思いもよらない景色が広がって

森: あの狭い道を歩いていると、急に風景が変ったりとか、急に大きな木が突然あったりとか、植木鉢とかそういったものが色々出ているというところや、お地蔵さんはもちろん、お稲荷さんだったり、「あ、こんなところにこんな」というものがあって、そこに普段から人の息づかいがある。入ってみないと気づかないというか、表の道を歩いていたら通り過ぎてしまうような所も、入ってみると思いもよらない景色があるというのが、本当に…。
絹: そうですねえ。市内でも車で移動して通り過ぎているだけだと、細街路の中、空気は肌ではわかりませんよね。入り込んでみて、「えらいここ居心地がいい、こんな道通るの初めて」みたいなことありますものね。
 

●生活空間だからこその魅力

森: かと言って、外からの人がどんどん入って行っていいわけでもない。やはり生活空間としてある所なので、お住まいの方がいらっしゃって、そういう場所が使われているという状態がまちとして魅力的なところだと思うので、特に今、観光客の方々がたくさんいらっしゃる時に…。
絹: 「ズカズカと入っていい場所ではないのをわかってる?」みたいな空気感と、かつてオーバーツーリズムが危惧された時には、路地の入口に、観光客向けに「ここで写真を撮らないで」というメッセージを出されている所もありました。だから「すみません、こそっと通るので、静かに通るので、通らせてください」みたいな姿勢が要るのかもしれませんね。
森: ちょうど都市空間から繋がっている場所ということで、都市に奥行きを与えてくれる魅力的な場所なのです。一方でパブリックとプライベートの境目と言うか、中間的な場所で、生活空間であることがやはり魅力的なところかなと思うので、そういうのを大事にしながらというのは重要だと思います。
絹: 自己紹介のはずが、私が不規則な質問を発するものですから、横道に逸れてしまいましたが(笑)。手元の資料の膏薬の辻子、私も好きな場所なんですが、ここについて何かコメントありますでしょうか。
 

■エピソード2 路地空間を守るためのルールづくり

●膏薬の辻子をご存知ですか?
森: 研究しながら、実際に路地再生の改修のプロジェクトに関わっております。今言っていただいた膏薬の辻子のような路地というか、狭い道、辻子のまちのまちづくり活動にも関わらせていただいて、長く、もう10年以上通っているような所です。
絹: リスナーの皆さん、膏薬の辻子って土地勘ありますか?何て説明しましょう?
森: 四条烏丸の少し西側でして、新町と西洞院の間、四条通に直接つながっている、四条から綾小路にかける通りです。狭い道の中でも、特に古い歴史のある平安時代の終わりくらいからあると言われる道です。そこが四条通に直接面しているので、元々高さ制限が31mの区画にすっぽりと含まれている状態だったんです。ただその狭い道に面しては、町家、長屋が軒を連ねて、すごく素敵な町並みが残っている場所だったんです。そこが31mの高さ制限ですと、外側の道と一体になって、31mいっぱいの建物が建ってしまう。元々45mが31mに下がったのですが、それでも31m、10階建てが建てられる区域になっていまして、なんとか二階建の町家が並んでいる所には、それに合わせたまちのルールがなんとかできないかということに取り組んでいまして…。
絹: それが地区計画と呼ばれる手法なのですね?
森: そうです。
絹: こういう都市計画の用語をご存じないリスナーのために、あえてこの地区計画というものを説明すると、どうなりますでしょう。
 

●地区計画とは、その地域だけのルールづくりです

森: 建築基準法上は都市計画と連動して高さが決まっているのですが、地区計画のエリアを決め、その地区だけ特別に高さ制限なり建物の形態の制限を変えるということができるのです。
絹: その用件で必要なのは、地域の人たちの合意。
森: 色んな手法があるのですが、京都の場合は地権者の方皆さんに納得いただいてということが必要です。そのうえで京都市が条例を設けて、都市計画審議会で審議をした結果、OKが出ると拘束力がある形でそこだけのルールができるというものです。
絹: それが10年かけてできてきたおかげで大変素敵な膏薬の辻子空間が残っていますし、一般の人たちが入れるような色んなお店もできてきているようです。
森: 31mだったのが、今は12mまで高さ制限が下がったということと、道が前までは4mに広げないといけない状態だったのが、2.7mで3項道路に指定されています。
絹: 3項道路、ちょっと専門的になってしまいますが、押さえておきたいところです。4mに広げなければいけなかったのが、2.7mでオーケーにしようと。
それで私、道路建設業協会の会員の立場から言いますと、膏薬の辻子の舗装について提案をいたしまして、御影石風(タイトルがあまりよくないのですが)、保水性舗装で、アスファルトでつくるのだけれども、セメントミルクを注入して保水材を入れているがために、石畳にちょっと見えるけれども、石ほど高くなくて、保水材が入っているので、打ち水をした水が浸み込んで、それが気化熱を奪って、夏の間少し涼しくなるみたいな、そういう機能の舗装を施した場所なんですよね。
森: そうです、そうです!
絹: それに我が道路建設業協会の技術積算委員会がタッチしています。門川市長、好きそうですものね、打ち水(笑)。
森: 舗装記念事業の時も市長が来て下さって、歩き初めをしていただきました。
絹: そういう色んな路地の研究に関わってらっしゃる森重先生ですが、無限の可能性のあたりをお話しいただけますでしょうか。
 

■エピソード3 路地の再生による無限の可能性

●路地の再生とは ― 繋げたり、隣に抜けたり
森: 元々町家は、通り庭があって、部屋が並んでいて、それによってすごくフレキシブルに使えるようになっています。路地再生というのは、路地に沿って複数のお宅を一体的に計画して新しく使うことをそう呼んでいて、そうすると路地を介して複数のおうちを一体的に繋いだり、隣に抜けられるようにしてみたり、本当に色んな使い方の可能性がでてくるわけです。実際にそういったことをされている事例が、このところ増えていて、最近も記事に書いたりしております。本当にどんどん路地や町家がなくなっていくのですが、是非そうしないで、無限の可能性のある資産として、うまく使っていくことができるんじゃないかと思っています。
絹: 色んな可能性を秘めた路地再生の事例、パターンがたくさんあるよと。その中でも代表的なものをご紹介していただけませんか。
 

●“五条坂なかにわ路地”の事例

森: 私自身が関わってさせていただいたのが、“五条坂なかにわ路地”です。こちらは本当に袋地なのですが、元々環境条件の良い所で、それをうまく使って子育て世帯が新たに住んで、路地の良さを活かしながら子どもが遊んでいてというふうな、世代を超えて繋がっていくという事例ですね。
絹: なかなか言葉で表現しにくい部分があるのですが、かつては袋地の奥や路地の奥は再生はムリ、潰して駐車場にしたらとか、あるいは新しく建て替えるしかないよというのが、我々建設屋の常識だった時代があります。
これ触れるとややこしいのですが、細街路条例という2012年以降の条例が色々整備されていくことで、今先生がおっしゃったような路地の再生に色んな可能性が出てきたよと。それが先生の研究テーマの中心の1つでもある。ですから路地に注目して!というところですよね。
もうちょっとこの辺の無限の可能性について、ご説明いただけますか。路地を伸ばす、繋げるとか。
 

●“もみじの小路”の事例

森: 例えば『京都だより』でもご紹介させていただいている“もみじの小路”、これは京町家再生研究会の皆さんがされている事例なのですが、単に袋地を繋ぐだけではなく、袋地と町家の通り庭を使って、さらに庭部分も繋げることで、それまで行き止まりだったところが、通り抜けられるようになるというすごい事例があります。
絹: オリンピックの体操競技で言うと、ウルトラCとか、ウルトラDとかそんな感じじゃないですか。
森: やはり行き止まりの不安を色んなやり方で抜けられるようにということです。特に緊急時だけでも抜けられるようにとか、建築計画的に色んな可能性があるなと思います。
絹: 路地には再生の無限の可能性があるよと。そして京都は日本全国どこにも路地はあるけれども、周辺地区に路地があるのが普通で、京都のように政令都市クラスの都市で、その中心部に路地がデーンと大きな顔をして、でも大切な機能を持ったまま現在に至るようなところは他にないというのが、森重先生の御主張の1つかもしれません。
 

●路地サミットを10月7日(土)8日(日)、京都で開催します!

絹: ここで告知です。「京都路地サミット」。
森: “全国路地のまち連絡協議会”さんが、これまで各地で路地サミットを開催されてきましたが、今年は「路地サミットin京都 2023」と題して京都でやりましょうということになりました。10月の7日(土)8日(日)に開催されます。7日(土)にシンポジウム、8日(日)に関連のまち歩きなどを企画しようとしております。そこでは今、お話したようなことも少しお話できたら、また色んな方が関わっている京都のまちの路地の面白さや多様性が見られたらいいかなと思っています。
絹: ちょっと時間が足りなくなってしまいましたが、また森重先生には再度ご登場願うこともあるかもしれません。路地サミットの報告なんていうのもね(笑)。
この番組は心を建てる公成建設の協力と京都府地域力再生プロジェクト、そして我らが京都市景観まちづくりセンターの応援でお送りいたしました。
投稿日:2023/07/24
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