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第181回 ・「市民協働ファシリテーター」って何?~3人のファシリテーターに聴く!

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岡: 熊切 英司 氏(京都市文化市民局地域自治推進室マイナンバーカード企画推進担当係長)
絹: 絹川 雅則(公成建設株式会社)
      (熊切 英司 氏)

 

絹: 皆様こんにちは。そしてこんばんは。まちづくりチョビット推進室の時間がやってまいりました。
この番組は地元京都の建設屋の目から見た元気なまちづくりびとのご紹介や、その活動の最新のエピソードをお伝えしております。いつものように番組のお相手は当まちづくりチョビット推進室 絹川がお送りいたします。
さて、今日のゲストは、皆様にとっては聞きなれない、市民協働ファシリテーター第二期生、熊切英司さんです。
熊: こんにちは。京都市市民協働ファシリテーター二期生の熊切英司と申します。よろしくお願いします。
絹: 市民協働ファシリテーター、市民は京都市民の市民、協働は「協力する」に「働く」で、ファシリテーターはカタカナです。この頃、「ファシリテーション」「ファシリテーター」という言葉が、10年前や20年前に比べたら市民権を得てきたようにも思いますが、まだまだ皆様にとっては耳慣れないキーワードの1つかもしれません。
さあ、ゲストの紹介ですが、私と熊切さんの出会いは最近ですよね。
熊: はい、つい最近で、数週間前にご挨拶させていただいたというところございます。
絹: 市民協働ファシリテーターという仕組みができて6年。
熊: そうですね。京都市で市民協働ファシリテーター制度というのができて今年で6年目ということになります。
絹: その中のお1人が熊切さんです。
まずは番組タイトルを申し上げます。「市民協働ファシリテーターって、何? ~3人のファシリテーターに聴く!」と題してお送りいたします。
 

■エピソード1 そも、市民協働ファシリテーターとはなんでしょう?

●これからの京都市を市民の方々と共につくるために
熊: この市民協働ファシリテーター、先ほど耳慣れないですねというご紹介がありましたが、確かにそうだと思います。現在、価値観やライフスタイルが多様化していると言われていますし、皆さんもそのように感じられておられると思います。そういう現在、行政だけで地域自治を進めていくというのは、本当に困難なのです。
ですから市民協働ファシリテーターという役目の人たちが、これからの京都市を市民の方々と共につくるために、市民の皆さんとの対話を通じて、その思いを引き出し、複雑で答えのない課題について、合意形成を図り、新たなアイデアや関係性を生み出して、協力して行動できる状態をつくりだす役目。これが市民協働ファシリテーターであり、これを志す職員が市民協働ファシリテーターということでございます。
 
  (京都市「市政参加とまちづくり」ポータルサイトより  市民の方を交えたワークショップの様子)
 

●様々な人たちの調和を図りながら、課題の解決へ

絹: リスナーの皆さん、1つの極端な例を挙げます。私、絹川は烏丸通の近くに住んでいます。仮にこのおっさんについて、典型的なネガティブ市民像を想像しましょうか。市役所に電話をかけます。「ワシの家の前の街路樹の銀杏、落葉していっぱいやねん。銀杏も落ちてて臭いねん。ワシ、市民税払ろてるやろ。行政、掃除しに来いや」と。非常にステレオタイプな、従来の、あまり尊敬しにくい市民像を敢えて描きましたが(笑)、そういう絹川のおっさんがいたとします。
一方で、この頃はそうではないタイプの市民の方々が増えているような気がします。行政の方々と一緒に地域課題を解決する、そんなテーブルが公募されたとしましょうか。「土曜日なら仕事が休みやし、行くわ」とばかり、区役所に行くとします。
ラウンドテーブルについて、役所の人と「地域のこの問題なあ…」と話をする。「それならオレもできるし、プロでもあるし、ちょっと手伝ってもええで」と言って行動に移す市民が結構増えてきている。最初の典型的なネガティブ市民イメージをAとして、後者をBとすると、AとB全然違いますよね。その後者の新しいタイプの市民さんと共に働こうとしているのが、市民協働ファシリテーターかもしれませんね。
熊: はい。今社長がおっしゃったAというタイプの方、所謂これは地域の課題なのだと思うんです。その地域の課題について、解決策を模索する人々の調和を図りながら、解決策へと話を進めていける、そういう役目の人間が協働ファシリテーターということになるかと思います。
 

●“ドアちかマップ”ご存知ですか?

絹: リスナーの皆さんにもう1つ、小さな事例ですけど、ご紹介したいと思います。地下鉄をイメージしてください。地下鉄のホームの所に“ドアちか”という表示が出ているのをご存知でしょうか。
熊: “ドアちかマップ”ですね!
絹: “ドアちかマップ”、「○○駅ならこのドアの近くに乗ってもらうと、高齢の方や足の悪い方など、エレベーターやエスカレーター、近いですよ」というのが一覧表にして書いてあります。それを“ドアちかマップ”と言うんです。あれは市民からの提案を、“京都市未来まちづくり100人委員会”という組織の中のあるチームがまとめ上げた結果、つくりだされたものです。
熊: やはりそうですよねえ。あれはまさに利用者目線のアイデアだと思っていたんですよ。たぶんその利用者さんのご意見がなかったら、行政だけではあの発想はきっとなかったのではないかと思います。
絹: たぶん学生さんか、非常に若い方の発想、それとお年寄りが融合して、当時まだ市民協働ファシリテーターという制度がなかったけれども、行政からもファシリテーター的な役割をしている人たちがチームをつくって、その結果結び付けたわけです。我々の日常生活の中には、小さいけれどもこういう例が実は多くて、広く知られていないけれども、既に京都市内では起こっています。
さあ、そういうファシリテーター、市民と行政が一緒になって、何かお互いに助け合って、新しい事態、地域課題を解決する方向に向かわないでしょうか。「ワシ、税金払っているし、行政がやったらええねん」というタイプAの市民の声に、「いやあ、行政としても、予算もマンパワーもフウフウ言うてますねん。できたら一緒に助けてもらえませんか」となった時に、男気(男気だけじゃないですよね、女気という言葉はないかもしれませんが)出して駆けつけて…。
例えば区役所レベルで、“まちカフェ”とか、やってられません?
熊: 区役所によってはやっている区役所もありますね。
絹: “朝カフェ”とか言って、区役所に集まって、こういう会議をしておられる。そういう所で活躍するのが、どうやら市民協働ファシリテーターのようであります。
(京都市交通局「ドアちか京都市地下鉄便利マップ」より京都駅ホームのドアちか)
 

■エピソード2 わたし、熊切にとっての市民協働ファシリテーターとは

●時にはメンターとして、時には同行者として、1つの良い形に繋いでいく
熊: 私は昨年度まで、下京区役所の地域力推進室という部署で広聴係長として働いておりました。この“広聴”というのは、区民の方々の様々な意見を、文字通り「広く聴く」という役目なのですが、その聴いたご意見を政策に反映していくということです。色んなご意見がありまして、建設的なご意見もあれば、苦情やお叱り、色々ございます。個別に対応できるのであれば、適宜対応していけばいいのですが、やはり地域として受け止めて考えて行かねばならないという、大きな課題もございまして、そういう場合に私自身が市民協働ファシリテーターとして、地域の担い手の方々や同じような課題意識を持った方々を集めまして、その皆さんの多様な意見を引き出して、課題の解決の糸口を探る、様々な対話手法を織り交ぜたワークショップを企画実施してまいりました。
実際のところ、地域による事情や立場の相違などもあり、完全に合意形成に至ったというケースはほとんどないのですが、相互理解を通じて、互いが次の一歩を踏み出すためのモチベートはつくり出せていたのではないかと思っているんです。
市民協働ファシリテーターというのは、多様な意見を集めるだけの司会者でもダメだし、Aという意見、Bという意見を引っ付けるだけの接着剤だけでもやはりダメなんです。その課題が持つ多様性を顕在化させて、よりよい未来に向かう道を、市民の方々と共に探す、時にはメンターでもあり、時には同行者でもなければならない。そして1つの良い形に繋いで行ける、そういう役目でないといけないと思っているんです。
 

●多様な意見を拾っていくために

絹: 議論が拡散してしまって収束しない、あるいは住民集会などでよくありますが、声の大きいおっさんが、初めから最後まで文句だけ言って、周りのおとなしい人は黙っている。でも本当はサイレントマジョリティーの中に共通して持っている思いがあったりします。ところが実際は100人集まった住民集会でしゃべれるのは、地域の声の大きい方が1人か2人で…、というのがかつて多くありました。さて、その時にサイレントマジョリティー、多くの方が心の中で思っているけれども、口にしていない思いを、丁寧に拾うためにはどうしたらいいんでしょうか。そう聞いたら、熊切さんたちはその修練をしているわけですよね。
熊: そういうことですね。ワークショップですから複数の方々に集まっていただきます。そして皆様にご発言いただき、皆様のご意見を聴くということですから、中には今おっしゃったような声の大きくて自分の主張を繰り返す方というのは、必ず出てこられます。でも、一定のルールを決めて皆様に発言をしていただいて、極力多様な意見を拾っていく。そういう役目でもあると思っています。
 

●ワークショップの様子、ちょっとご想像ください

絹: その中の1つ、典型的であり、クラシックな手法を、御想像いただくためにご紹介をします。文化人類学者の川喜多二郎先生が考案されたKJ法というものがあります。皆様にもお馴染みのポストイット(付箋紙)というメモ用紙を使う手法です。
仮に50人の参加者なら、まずは5人ずつ10組の小テーブルに分かれます。テーブルでは最初にそれぞれ1分間でお互いどんな人が集まっているのか、短く自己紹介をしていただきます。その際、“ ①人の発言を妨げない ②人の発言を否定しない ③最後まで聴く”という基本ルールだけ守っていただくよう、熊切さんみたいなファシリテーターの人が最初にリードします。皆がルールを了解して、自己紹介をするわけですが、これをするとテーブルがほぐれてきますよね。
熊: アイスブレイクですね。
絹: 次にテーマAについての情報を、行政なり、進行者なりから説明があり、そして…
「この課題についてご意見をいただきます。自由にお話しいただいて(でも時間は20分なら20分と決めます)、ご意見を付箋紙に1つずつ書いて置いていってください。それからテーブルに居残りさんを1人だけ決めて、残り4人の人は他のテーブルに旅立ってください」
これを第二セッションにおいても同じように繰り返します。また居残りさんを決めて、4人は他のテーブルに旅立つ。こういうことを2~3回やると不思議なことが起こりますね。これ、何と言うんでしたっけ?
熊: ワークショップの技法でワールドカフェという技法ですね。
絹: リスナーの皆さん、ワールドカフェです。別にコーヒーを飲むわけではないんですよ。
熊: まあ、コーヒーを飲む雰囲気でということですね。
絹: そういう会議の場には、気分を和らげるために、必ずコーヒーやお菓子などが置いてあって、ちょこっと会議中でも取れるようになっています。ワールドカフェって、実は楽しいんですよね。
熊: そうですよね!
絹: この間もファシリテーター研修で、丁寧にワールドカフェ、やってらっしゃいましたね。
熊: ありがとうございます。
 

●時間を守ってもらうために

絹: このように声の大きい人たちだけの声を拾わない工夫、声の大きい人は、声のサウンドレベルを少し調整してもらう。声の小さい、思いをなかなか外に出しにくい人には書いていただいたり、安全な雰囲気で、「自分の思いを語っていいんだ」という風に、熊切さんたちファシリテーターズが場の安全を保障する、担保する、支える。ある意味すごく難しいお仕事かもしれませんね。
熊: おっしゃっていただいたように、非常にナーバスな部分、センシティブは部分も気を回さなければいけません。発言したいけど、発言できなさそうな方にも発言いただけるように配慮を向ける。そして冒頭でおっしゃったように、妨げない、否定しない、そして時間を守るという、我々は手挙げルールと言っているのですが、時間が来たら手を挙げるんです。みんなはそれに気づいたら手を挙げて口を閉じると。ということで進行をスムーズにしていくというものです。
絹: 手挙げルール、思い出しました。決めた時間が来ると司会進行の人が手を挙げる。そうすると周りの人も気が付いて、周りの人も手を挙げていく。例えば絹川くんが1人熱くなってしゃべり続けていると、周りの人が全員手を挙げていた。そこで「あ、しもた!」と思って、絹川くんも最後に手を挙げたと(笑)。発表の途中でチーンというベルを鳴らすというのではない、ファシリテーションのタイムキープ、面白い工夫ですよね。
熊: これ、なかなか効くんですよね。みんなが手を挙げると。しゃべる人も「ああ、仕方ないな」と思って黙ってくれるわけです。
絹: そして発言の終わりには「よく発言してくださいました」と感謝を込めて周りの人が拍手したりすることが多いですね。
熊: そうです。発表していただいたら必ず拍手。皆さんで拍手して称え合うというのが、1つの暗黙のルールになっていますね。
絹: リスナーの皆さんには、言葉だけで、音声だけでワークショップの雰囲気を想像していただけたら有難いなと思います。
 

■エピソード3 市民協働ファシリテーターの今後、こんな風に考えています

●民間企業にいた京都市職員として感じること
絹: さて、市民協働ファシリテーターの今後。さあ、今後はどうなっていくんだろうという熊切さんの思いを下さい。
熊: 私は京都市の職員なのですが、実は民間企業経験者採用ということで、まだ行政に入って10年なんです。それ以前はずっと民間企業で営業をしていまして、ですから民間企業にいた後で行政の職員になったタイプの人間なんです。そういう人間から見て、行政が意思決定を行う時に、よく市民感覚で考えろと言われるんですが、現状ではやはり役所意識と言いますか、役所の常識がまず頭にあった中での市民感覚を頼りにしているようにしか思えないところがあります。予め想定した落としどころに向けた議論、そんな感じなんですね。そんな議論も当然必要な時もあるのですが、それだけではやはりイノベーティブな展開というのは、なかなか生まれないと思います。その壁を破るのが、実はこの市民協働ファシリテーターなんじゃないかと思っているんです。
この市民協働ファシリテーター制度が始まりまして6年です。今年の受講生が6期生ということになるのですが、本市におけるファシリテーションの文化や土壌はまだ途上段階です。みんな色んなワークショップを開いたり、ワークショップでファシリテーションをやったりしているのですが、意見を幅広く集めるための進行役にとどまっているなという人がすごく多くて、合意形成にまで持っていけてないなという悩みを持っている人が、私も含めて非常に多いんです。
絹: その合意形成の次に来るのは、行動であったり、新しいプロジェクトが生まれたり、そのプロジェクトに実際に協力する市民が、固有名詞で生まれたり、人が集まったり、それから行政の方は主幹部署が決まったりと、道は遠いですね。
 

●壁を乗り越えて、血の通った政策づくりの原動力に

熊: 遠いんです。まさに市民協働、字の通り、立場の違う人、全然知らなかった人同士が1つの課題に向けて共に働いていけるような、そういう状態に持っていける進行役が市民協働ファシリテーターであるのですが、そこまで至るのがなかなか難しくて、日々皆さん努力して、勉強して、そうなるべくやっているのですが…。
ただ本年度からは市民協働の機会を生み出したり、ファシリテーションを指導するアドバンストファシリテーターという新しい階層が、京都市の中に創設されまして、私も受講しました。今後、市民協働ファシリテーターの1人ひとりが、先ほど私が言った課題、なかなか合意形成に至っていないという壁を乗り越えて、市民との対等な意見者として意見交換、合意形成、そして血の通った政策作りの原動力になってくれるものと私は信じております。
 

●ファシリテーションは教育の現場でも

熊: 余談ですが、私は昨年度まで下京区役所で地域のまちづくりの部署におりました。そこにいた頃、区内の中学校一年生の担当の先生から、「生徒たちに地域学習を進めたいのでアドバイスが欲しい」という連絡があったんです。そこで、先生にお話を伺いに行き、相談しまして、生徒たちに地域の課題を見付けるというフィールドワークに出てもらい、その結果をワークショップで発表、そのワークショップの中で、生徒たちにファシリテーションをしてもらおうということになりました。そのファシリテーションの指導役として、京都市の市民協働ファシリテーターを数人派遣して、各テーブルを回って、ワークショップを見守ったということをしたことがあるんです。ですので実際、社会の中だけではなく、教育の現場でも、このファシリテーション、合意形成の大切さというものを認識され始めておりますね。
 

●市民協働ファシリテーター、期待しましょう!

絹: いかがでございましたか。僕は実は熊切さんたちが学んでおられるファシリテーション、京都市に導入された創成期に、同じく市役所の人たちと学んでいた時期があります。それがもう10年前かもしれません。京都市未来まちづくり100人委員会というチームがありまして、そこの事務局を3年間務めていました。そこからの経験ですが、非常に期待が持てます。
また数年前、京都市総合企画局の佐藤部長という市民協働の部長さんから「総合企画局では100名の自前のファシリテーターを育てたんだ」とお聞きしたんです。でも総合企画局は基本は事業予算をあまりお持ちにならない局のはずです。その目論見はなんだろうと考えを巡らせ、「ひょっとして局と局を結んで、官と民とを繋いで、新しいプロジェクトが動く時のファシリテーターをお育てになったんですか?」と水を向けたら、黙ってニタっとお笑いになりました。
熊: 図星だったのかもしれませんね(笑)。
絹: リスナーの皆さん、京都市は早くからこういう、陰ではありますが、新しい動き、市民の声を丁寧に拾う、そしてプロジェクトに繋げていくという活動を育てておられます。あ、時間です。またやりましょうね!
熊: ええ、是非お願いします。
絹: この番組は心を建てる公成建設の協力と京都市景観まちづくりセンターの応援でお送りいたしました。
投稿日:2022/12/05
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