公成建設株式会社は、建設業を通じて、豊かな国土づくりに邁進し、広く社会に貢献します。

まちづくりチョビット推進室
TOP > まちづくりチョビット推進室 > 第177回 ・賃貸住宅の行方~空き家研究の専門家 井上えり子教授来たる!

第177回 ・賃貸住宅の行方~空き家研究の専門家 井上えり子教授来たる!

ラジオを開く

井: 井上 えり子 氏(京都女子大学 家政学部 生活造形学科 教授 博士(工学))
絹: 絹川 雅則(公成建設株式会社)
     (井上 えり子 氏)
絹: 皆様こんにちは。まちづくりチョビット推進室の時間がやってまいりました。
この番組は地元京都の建設屋の目から見た元気なまちづくりびとのご紹介や、その活動の最新のエピソードをお伝えしております。いつものように番組のお相手は当まちづくりチョビット推進室 絹川がお送りいたします。
さて、今日のゲストのご紹介であります。大学の先生です。リスナーの皆さん、「女坂」ってイメージできますか?京都女子大学からお越しいただきました。京女の家政学部生活造形学科教授、工学博士でいらっしゃいます。井上えり子教授です。いらっしゃいませ。
井: こんばんは。井上です。よろしくお願いします。
絹: 先生のプロフィールを頂いておりまして、専門領域は建築計画・住宅計画となっています。都市部の空き家問題や団地における住戸リノベーションの設計手法などにお詳しいとお聞きしました。先日、番組の打ち合わせに久方ぶりに京女に足を踏み入れて、女の子ばかりなので、目がクラクラ致しました(笑)。
私と先生との出会いは、だいぶ前になると思うのですが、東山区において空き家調査を地道に続けていらっしゃる研究者の方がおられ、井上えり子先生とおっしゃるということを友達から聞き及んでおりました。当時は東山区における空き家率は、向こう三軒両隣のうち、必ず一軒以上(22%プラスアルファ)は空き家だという事実を聞いて、愕然とした覚えがあります。そういう調査を、今もなおやっていらっしゃる井上えり子教授です。よろしくお願いいたします。
井: よろしくお願いいたします。
絹: さて、今日の切り口ですが、どのあたりから参りましょうかということで、この番組はヘビーリスナーの方はよくご存じなのですが、人づかいが荒い(笑)。別名ゲストづかいが荒いとも言います。今までゲストにタイトルコールをお願いしたことはなかったのですが、ちょっとお願いできますでしょうか。今日の番組タイトルとテーマを、先生のお口からどうぞ!
井: はい(笑)。タイトルは「賃貸住宅の行方~空き家研究の専門家 井上えり子登場!」です(笑)。
絹: 本人に言わせてしまうか(笑)。今日のテーマは「賃貸住宅の行方~空き家研究の専門家 井上えり子教授来たる!」と題してお送りいたします。
さあ、何がこれから語られるのでしょうか。きっと皆さんのご存知のない事実が少しずつ明らかにされると思います。私も興味津々です。
 

■エピソード1 僕が知らないでびっくりしたこと

●実は賃貸集合住宅の空き家率が一番高かった…
絹: 賃貸集合住宅における空き家、それから戸建て住宅における空き家、京都市の色んな行政体も「空き家が増えて大変や!どないしょう」とおっしゃっていますが、「実はエアポケットのような所があるのよ」と先ほどおっしゃっていただきました。そのことから口火を切っていただきましょう。
井: 空き家問題というのは、リスナーの皆さんも最近よく耳にされていることと思います。国も「空き家特措法」という法律をつくり、各自治体も一生懸命取り組んでいるのですが、国や自治体が取り組んでいる空き家は、基本的に戸建ての個人の所有者が持っておられるものを対象としています。しかし空き家の中で一番数が多いのは、賃貸集合住宅(空き室率になりますが)であるというのが本当のところです。ではなぜこれまでそこに手を付けないで来たのでしょう。賃貸ということは事業者がいるわけです。それは個人の場合もありますし、会社の場合もありますけれども、行政としてはそれは企業努力で何とかするべきものという発想でずっと来たんです。当然税金を使ってやるわけですから、行政の立場としてはそこに公金は入れられませんよということだと思います。ですのですごく一生懸命、空き家対策を自治体あげてやっているのですが、賃貸の方が手つかずになっているところが、前々から問題だなと思っていました。
 
絹: 私はご存知のように本職は建設屋なのですが、さっきまでそんなことも実はわかってなかったんですよね。家を建てたり、集合住宅をつくったり、学校をつくったり、道路だとかトンネルだとかもやりますけれども、空き家が増えて、新しいのを建てなくていいようになったら建設屋は商売あがったりやと心配していたわけです。でもそんなことよりも集合住宅で、賃貸は、特に民間のものに対しては、行政は「俺たちは口出さねえ」みたいな感じで今まで来ていて、実は空いているのはそっちのほうがデカいんだよと。でも企業体とおっしゃいましたが、行政だって賃貸住宅持っていますよね(笑)。
井: ですから公営団地の空き室問題というのも実は深刻なんですね。
絹: まちなかを車で走っていて、改良住宅と言われる所に出くわすと、ふっと車を停めて、どれくらい空いているんだろうと見ると、自分の肌感覚ですけれども5%~10%くらいですか。このフロアで空いている所にはお名前が入っていないしみたいな、その感覚はほぼ合っているでしょうか。
井: そうですね。改良住宅に限らず、10%程度、それは公営住宅だけではありませんが、URのような組織も含めて、私の感覚でも10%くらいは空き室があると思います。
絹: 井上先生は住宅計画や建築計画などがご専門で、研究テーマが空き家ですから、私のような素人ではなくて「私の感覚では」とおっしゃいましたけれど、研究者としてのデータに基づいて語っておられますので、たぶんそれは信用できると思います。私のような素人の感覚でもそれに近いということでしょうか。
井: ただちょっとだけ付け加えさせていただくと、以前はUR都市機構の団地などは10%程度あったと思うのですが、最近は企業や大学と産学連携のプロジェクトをやっていまして、それが功を奏して、今URさんは下がってきているという状況です。
絹: いい流れですねえ(笑)。
    (総務省統計局「平成 30 年住宅・土地統計調査 P2」より)
 

■エピソード2 京女×UR プロジェクトとは

●フィールドは洛西ニュータウン、URの団地です
絹: エピソード2は、以前はURで10%くらいの空き室率だったのが、だいぶ空き室が減って来た現象の立役者のお1人が、ここにおられる井上先生かもしれないというお話です。これはなぜなのでしょう。「京女×UR」というプロジェクトを、京女の方々とURが一緒になさっているとお聞きしました。今年で10年ですか?
井: 10年目です。
絹: それも実証フィールドと言うか、活動領域は洛西ニュータウンであるとのことです。ちょっとそこへ触れていただけませんか。
井: URの事をご存じない方もいらっしゃるかもしれませんが、昔は住宅公団とか、住都公団とか言っていたところで、今は賃貸しか扱っておりません。賃貸を管理するのが主な仕事で、洛西ニュータウンに4団地持っているのですが、以前は10%程度の空き室率がありました。それを学生が若い人向けに住戸をリノベーションする、設計し直すということで、空き室を減らすという活動です。特にURが持っているような団地は、古い団地にありがちな中層のエレベーターのない(階段室型というのですが)、5階まで階段を歩いて昇っていくという団地なんですね。
絹: そうですねえ。何か昭和の匂いがプンプンする、エレベーターなし、中階段みたいな感じの。
 

●空き室率、3%まで下がりました

井: ですから4階、5階の空き室率が特に高いわけです。高齢者だとなかなか入って下さる方がいらっしゃらないので、若い家族をターゲットにして、若い学生がそこを設計するわけです。そういう若い家族が入りたいと思いそうな間取りを設計して。そこがだんだん空き室率が減ってきていて、たぶん今3%くらいまで下がっているとお聞きしました。
絹: 皆さん、聞かれました?今さらっとすごい数字が語られました。以前、URの洛西ニュータウンの4団地では10%あった空き室率が、京女×URプロジェクトにおいて、学生さんたちが若い人が4階や5階に入りたいと思えるようなリノベーションの設計をして、10年で3%台に下がったと。
井: ただ学生が設計したものはだいたい100戸くらい供給されているのですが、そこだけだとそんなに下がらないのです。若い家族向けに学生が間取りを考えると、広いリビングだったり、1つひとつの空間が割合大きめにゆったりつくるんです。若い家族はそれを見て「あ、素敵!」と思ってくださるのですが、ある程度年代が上の方は、「暖房費が高くなるんじゃないか」などとおっしゃる場合がある。私はそういう方には「そうですよね。URさんのこれまでの間取りは、学生が設計したほど華やかではないけれども、そこは満たしていると言えます。ですからそういう方はそちらに入られたらどうですか?」と言って、URさんのこれまでの間取りも埋まっていくみたいな感じですね。
絹: なんか好循環が生まれていくみたいな。
井: そうなんです。色んな選択肢が増えたので、URさんの間取りも見直しされるようになったと、それが大事なんだなと、私は思っています。
絹: 100戸の学生さんたちの事例が呼び水となって、旧来のデザインの良さが違う層に、ベテラン層に受けたと。面白いですねえ。それで結構効いていると。で、URさんは京女×URだけじゃなくて、無印良品とも提携されているようですね。
井: 大阪の方では無印さんはたくさん出されてますね。
絹: UR、旧住都公団の洛西ニュータウンの中では面白いことが起きている。皆さん、ご存知でしたか。何か捨てたもんじゃないと言うか、希望がもてますよね。
井: もちろんURさん独自の色々な工夫も重ねられての数字なんですけど(笑)。学生だけということでは全然ありません。
絹: 学生さんたちのリノベーションデザインが1つの起爆剤になったということですね。
              (UR都市機構 HPより抜粋)
 

■エピソード3 公営住宅の空き家対策の試み

●3L APARTPENTプロジェクト - 田中宮市営住宅
絹: URはそうだけれども、洛西ニュータウンの中には府営住宅も市営住宅もありませんでしたっけ。そっちの方の動きは何かキャッチされていませんか。
井: 例えば京都市さんは同様にリノベーションの住戸をつくられたりしておられるということは伺っています。
絹: 実は僕もちょっとそれをつかんでおりまして、京都市の都市計画局の住宅室の連中、最初に僕がキャッチしたのは田中宮市営住宅の事例でした。地元の自治会の会長さん、たぶん僕と同じような60ぐらいのおじいさんが、「龍谷大学が近いし学生さんが来てくれたらいいのにね」とつぶやかれたのを京都市の住宅室の人が丁寧に拾ったわけです。結果、龍大の学長さんと京都市長が握手することになりました。龍大の学生さんに3年間にわたって低家賃で田中宮市営住宅に入ってもらって(たまたまそこの学生たちの多くが公共政策の連中だったこともあり)、「学びはキャンパスの中だけじゃないよ」とばかり、自治会活動に参加してもらったり、例えば小学生の集団登下校の見守りや、夏祭りのお手伝いをしながら地域を学ぶ。彼らは自治会活動にすごく力を発揮して、成功裏に推移しているという3L APARTMENTプロジェクトという事例(第165回放送参照)です。
 

●障がい者グループホーム - 向島ニュータウン 洛西ニュータウン…

絹: 向島ニュータウンで、愛隣館という障がい者福祉法人のグループホームが空き室で運営(第166回放送参照)されたというのが、確か僕が知った第一号事例でした。第二号事例が洛西ニュータウンでも間もなく発進するらしいです。障がい者グループホームで、それもリノベーションです。
京都市やるな!!と実は思っていまして、頑張れと応援しています。ちょっとずつそうやって、京女×URのようなものを市営住宅や府営住宅でも似た軸線上でリノベーションして、空き室率を減らしていこうという人たちは行政の中にもおられるみたいですね。
 

●丁寧につくれば100年もつはずなんです

井: 団地のハードな部分が40~50年くらいでダメになるという思い込みもあったのですが、調べてみるともう少し寿命が延びそうだというふうになってきたんですね。ですのでリノベーションして、もうちょっと長く使おうというような流れにだんだんなってきているかなと思います。
絹: 工学の専門家が言われるのでこれは確かです。私も本職は建設屋ですので、我が家でやった実験住宅(愛称:センテナリオ)は、13家族によるコーポラティブタイプの5階建て住宅です。建設会社であり企画者の私は、100年から120年はもたせてみせますと豪語していますから(笑)。
井: ちゃんと丁寧につくれば、本当にそういうふうにもつんですよね。
絹: RC(鉄筋コンクリート造)のコンクリートの住宅でも理想的に設計・施工を丁寧にすれば、100年120年もつんです。公営住宅は50年しかもたないという思い込みは少し捨ててもいいんじゃない?というトライアルが始まっているんですね。何かちょっとうれしいなあ。
   (センテナリオ:絹川の自宅を含む13世帯の実験住宅)
 

■エピソード4 賃貸住宅の行方

●これからは賃貸住宅の時代?
絹: さて、先ほども申しましたが、18年前に私は自宅の土地をもとに、実験住宅をつくりました。まだ40代でしたので理想に燃えて、自分で共同住宅をつくるなら向こう三軒両隣の関係性を持ちたい。顔も知らない、あいさつもしないなんてのをつくってたまるもんかと考えたわけです。その理想とするところは、ご近所さん付き合いが自然に生まれて、助け合いが生まれたり、子育て支援が生まれたり、「実家からみかんを送って来たし、お裾分け」みたいなのが当たり前に起こるような、そんな建物群なんですね。
公営住宅、賃貸住宅の行方でそういうふうなものって、流れとしてできませんかというのが、私の問題意識なんですけど、先生はそのあたり、どう思われますか?
井: まずそもそもこれだけ空き家問題が深刻化してくると、多くの人が空き家所有者って、結構責任が重くて、「維持管理していかなければいけないんだ」となってくると思うんです。そうなってきた時に、それってちょっと大変だから持たなくていいんじゃないかという選択肢が出てくるだろうと。つまりこれからって、賃貸住宅の時代なのではないかと私は思っているんです。
絹: かつては自分で家を持ってこその一人前というような、昭和の時代がありましたが、先ほど先生とお話していたのですが、若い人たちは車すら持たないよねと。シェアリングエコノミーというんですか、お墓だって海に散骨したり、タワーマンションみたいなお墓だってあるよと。
 

●もっと賃貸住宅のバリエーションが増えるべき

井: ただ賃貸住宅に行きたいという人が多くなったとしても、今ある賃貸住宅の形というのは、これまでずっと持ち家政策を国が取って来たので、一時しのぎの住宅と言いますか、とりあえず住んで、最終的には持ち家みたいな感じで提供していることが多かったので…。
絹: 期待される、本来持つべき賃貸住宅の性能、あるいは居心地の良さ、楽しさ、安心感みたいなものが、専門家の目から見てちょっと足りないんじゃないのと。
井: 足りないと思います。ですから、これからもっともっと賃貸住宅のバリエーションが増えていかなければいけないと思っているんです。それは間取りとか広さもそうですけど、もう1つはサービスとして例えばサブスク的な毎月同じ金額を払えば、あちこちに住めますよみたいな。最近そういうサービスが出てきていいるんです。
絹: 多拠点居住ですね。ノマド(旅人)のように、若い人があちらこちらで仕事をしたり、生活をしたりするというパターンですね。
 

●アドレスホッパーと呼ばれる人々

井: そうです。私はその住宅のサブスクに興味を持っていて、ゼミでこの話を学生にしたら、学生はむしろ実際にそういうライフスタイルの人の方に興味があると言って、去年卒論でそれを調べたんです。
絹: いよいよ来ました!そこを聞きたかったです。
井: アドレスホッパーと最近は呼ばれている人たちなんですけど、その人たちが利用するサービスの中で、アドレスという会社があって、そこの人たちが結構地域とのコミュニケーションと言いますか、地域と繋がりを持ちたいと思っている方たちが多いということがわかりました。どうしてなのかと思ったら、その会社は「家守(やもり)」という制度があって、その家守という管理者みたいな方が利用者と地域をつなぐような役割をするという制度だったんです。ですから多拠点居住と言うと、何か旅人のように来て、無関係に去っていくみたいな、地域に根付かない人というイメージですけど、彼らはそうではないということが調査でわかって、興味を持ったんです。
調査ではすごく彼らが社交的な性格で、地域の人たちともどんどんコミュニケーションを取っていくようなタイプの人たちなので、「元からそういう性格ですか?」という質問をしたら、「実は元はそうではなかった」という人が結構多くて、「じゃあ、どうしてそうなったのか?」と聞くと、「家守の人と接するうちにそうなった」とか、「アドレスを利用している他の利用者と接しているうちにだんだんそうなった」ということだったんです。
 

●コミュニケーション能力は育つもの

井: 私がそれで学んだのは、コミュニケーション能力というのは、生まれながらのものではなく、育つんだと。学べるんだと。それが一番の調査の中での私の学びでした。
絹: このお話を聞いた時に、私はすごく興奮をいたしました。先生の一番初めの仮説は、「ノマド的に多拠点居住をする人は人づきあいが苦手な人じゃないか?」という思い込みがあったけれども、学生の卒論を呼んで、討論をして、全く違うことに気が付いたとおっしゃいました。「家守」、どこかで似たようなシステムがあったような…。そうだ、ユースホステルに何かそういうお節介なおじさんやおばさんがいて、そういうところで若い人が訓練を受けて、進化していくみたいなのにちょっと似ているなと思いましたね。
井: なるほど。私、実はそういう人たちは地域の中にもいると思うんです。今、なんとなく町内会って、行政の下請け機関みたいな感じで、色んな役があって、それをやらなきゃいけないと必死で、それ以外のことができないですけど、その役がもっと減ったら、地域の中のそういう世話好きな人が、若い人を育てたりといった余裕が出てくるんじゃないかと思うんです。
絹: 色んな所にある空き家をお世話する「家守さん」みたいな地域のお節介さんが、スポットライトを浴びて登場して来たら、京都の色んな問題点が解決しちゃうかもしれないですね。
井: 何かそういうことがあるんじゃないかという魅力が、そのアドレスという会社の家守さんたちにはあるなと感じました。
絹: 非常に面白いところに来ました。またこの続きは何度かシリーズ化したいと思います。リスナーの皆さん、空き家、賃貸住宅の行方、空き家の専門家語る!の回でした。京女の井上えり子教授ありがとうございました。また来てくださいね。
井: ありがとうございました。また是非お呼びください。
絹: さよならあ。
投稿日:2022/05/09
PAGE TOP