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第148回 ・知らなかった堤防の話をしませんか?~河川工学の視点から~

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與: 與田 敏昭 氏(株式会社ニュージェック 河川グループ統括代理)
絹: 絹川 雅則 (公成建設株式会社)
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        與田 敏昭 氏
                  (よでん としあき)

 

絹: 皆様こんにちは。まちづくりチョビット推進室の時間がやってまいりました。
この番組は地元京都の建設屋の目から見た元気なまちづくりびとのご紹介や、その活動の最新のエピソードをお届けしております。いつものように番組のお相手は当まちづくりチョビット推進室 絹川がお送りいたします。
さて、本日ゲストのご紹介です。ごくごく最近、一回お会いしただけという方です。株式会社ニュージェック 與田敏昭(よでん としあき)さん、工学博士、そして建設の分野では最高峰の技術士建設部門という名刺を頂戴しました。與田さん、よろしくお願いします。
與: よろしくお願いします。與田です。
絹: 與田敏昭さんとの出会いは、7月23日、まだ本当にこの間です。国交省近畿地方整備局淀川河川事務所でした。私も本職は建設屋ですので、塔の川下流護岸整備他の工事で優良工事表彰を受けに行っていました。そこで出会ったのがニュージェックの與田さんであります。もちろんニュージェックさんも表彰されていたんですよね。
與: そうです。業務表彰と技術者表彰をいただきました。
絹: その技術者表彰を受けられたご当人が、與田さん?
與: そうです。
絹: もちろん初めてお会いしたのですが、受賞の後の座談会を淀川河川工事の所長さん以下、幹部の方としていた時に、その與田さんのコメントが僕にとっては秀逸で、「なんかすごいことを言わはった」みたいに聞こえたわけです。そこでお別れの時に、慌てて名刺交換しに行って、「ラジオ出てください」と(笑)。まあ、そんな厚かましいお願いをしたわけです。そうしたら「いいですよ」と言ってくださったのが與田さんです。與田さん、その時のコメントをまず、ご紹介ください。
與: 私、河川技術者で、河川堤防のことを取り扱っているのですが、最近は異常気象等もありまして、かなり色んな堤防の被害が増えてきています。一生懸命、マニュアル通りの堤防はつくってきてはいるんですが、昨今の状況をみると、マニュアルの堤防を越えた堤防づくりが必要ではないかと、個人的には考えていまして、そういうコメントを発信させていただきました。 
絹: 座談会の席上で、與田さんは近畿地整の堤防はかなりいいところまできているけれど、それだけで本当にいいの?という疑問を呈されたような気がいたしました。
與: あくまでも私見ですけれど、やはり堤防というのは、市民の生活を守る一丁目一番地という位置づけでございますから、それを守るためにさらなるバージョンアップを図ってもいいのではないかと常々思っておりまして、そういう発言になったところです。 
絹: このコメントを秀逸だと思ったのは、與田さんという人は先のことを見ておられる、「満足していたらあかんよ」というメッセージを感じたからです。で、與田さんにゲストに来ていただいたら、ひょっとしたら京都市民の方々にも、今我々が置かれている状況を見て取る新しい視点を頂けるのではないかと思ったんです。
 

■エピソード1  京都って、地形的に結構変わった場所なんです

●堤防と堀込河道(ほりこみかどう)
與: 京都は南を宇治川、西を桂川という非常に大きな川に囲まれています。で、真ん中を鴨川が流れているという形になっています。
京都市域 河川図_page-0001
絹: リスナーの皆さん、イメージしてくださいね。京都の平野を南側は宇治川がデンといて、西側が桂川、これ結構でかい川だよと。その真ん中に鴨川水系、東西の高瀬川が流れている。まずこれをイメージしてください。
與: で、この宇治川や桂川というのは、非常に大きな川ということは非常に大きな堤防を持っているんです。この堤防の高さが一番高いところですと、だいたい3階の窓くらいの高い堤防がデンとあって、そこに洪水の時には水がたっぷり流れてくるというところです。
絹: 河川堤防って、三階建ての建物の窓くらいのが、宇治川と桂川にはあるよと。京都市内でも、特に上京区だとか、府庁や市役所の近くにいますと、堤防と言えば鴨川の堤防とか、高野川のY字のところをイメージしますよね。そんなに高いイメージはありませんが、河川技術者の目から見ると、あれは堤防ではないと。
與: あれは堤防ではないですね。あれは堀込河道(ほりこみかどう)といって、地面の高さからストンと川がへこんでいる形になりますので、あそこは堤防として取り扱ってはないですね。
絹: これ、一般人の常識とはちょっと違うでしょ?あれは堤防ではないんだ。堀込河道(ほりこみかどう)であって、堤防というのはもっとでかいものなんですね。
與: そうですね。だから鴨川ですと、七条から下流側の桂川と合流するところまでには堤防がありますけれども、その上流については堤防がないところになりますね。
絹: これ、「試験に出ますよ」じゃないですけど、皆さん、意識して下さい。七条大橋辺りから下は堤防がある。それより上流は堤防は河川技術者の目から見ると、そう見えるんだと。これは河川技術者の目から見るだけじゃなくて、一般市民にもその感覚を持ってよと思ってらっしゃる。
 

●京都におけるバックウォーター現象

與: そうですね。堤防がある所とない所では、被害に合った時の規模が全然違うということをイメージしてもらいたいなと思っています。最近の被害ですと、昨年度、倉敷市の小田川という所で堤防が切れましたけれども、あそこでは高さ的には5m~6mの水位まで上がってしまって、二階の屋根に皆が避難していたわけですけど、あれが堀込河道の所ですと、溢れても水がそのまま横に広がっていくだけなので、そういう水深にはならないんです。
絹: 堀込河道ニアリーイコール鴨川・高野川が四条より上の所で溢れても、専門用語で溢水(いっすい)と言うんですよね。まあ、横へ広がっていって、床下浸水くらいかな。
與: それくらいで済む所もありますが、やはり堤防が一度切れると、その高さまで水がたまっていたものが一気に流れてくることになりますので、それは甚大な被害になってしまいます。
絹: 堤防が切れることを専門家は破堤(はてい)と言います。
與: あと、先ほどの地形的な話で言うと、京都市内を流れる鴨川、東高瀬川、西高瀬川については、すべてこの宇治川、桂川に合流してしまうわけです。ということは、宇治川や桂川の水位が高いと、ちょっと言葉は汚いですが、糞詰まり状態で、川の水が流れなくなるんです。洪水の時に。
絹: と言うと下流の宇治川の水位が高くなってしまっているとはけない。
與: はけなくなって、今度は京都市内の方に逆流してくるわけです。去年キーワードになった、バックウォーターという現象が非常に起きやすいということも注意しないといけないんです。
絹: 今まで、歴史上そのバックウォーター現象というのは、市内で起こったことはあったんでしょうか。
與: その当時はバックウォーターというキーワードはなかったんですが、平成25年の台風18号が9月に来た時に、桂川の久我橋の所で溢水したんですが、その時に鴨川の水位が上がってしまって、そこで溢水しました。
絹: 久我橋の辺りと言うと、下鳥羽あたりですか?
與: そうですね。あまり話題にはなっていませんが、やはり大きい川の水位が上がると、京都市内は同じような現象になりやすいという地形的特徴があります。
 

●晴れているのに、京都府南部に洪水注意報―こんなわけがあります

絹: 千年の都と言われる京都で、首都が長らくあった場所だから、自然災害には強いだろうと、我々京都市民は思っておりますが、あに図らんや、時代は変わって少しその常識は疑わなければならないところに来始めているのでしょうか。
與: そうですね。皆さんご存じだと思いますが、京都の八幡の所で宇治川と桂川と木津川が交わる三川合流がありますが、これがとても特徴的な地形になっていまして、結局どこかの川の水位が上がると、他の川にも影響してくるというような現象になるということです。ですから洪水の時に、基本的に宇治川は滋賀県で降った雨を全部流して来る。木津川は奈良県北部と三重県北部の水を流して来るというところがあるので、そちらの方で大雨が降ったら、そこの川の水位が上がるので、全然関係のない京都の桂川の水位まで変わって来ると。
絹: となると京都で、「いいお天気だ」と安心していたら、奈良県の北部や三重県北部のドカーンと雨が降った水を運んでくる木津川と、滋賀県の琵琶湖の水位が上がっていたりすると、天ケ瀬ダムが止めてくれないと、こっちに来るわけですね。
與: 天ケ瀬ダムは基本的に京都や大阪が洪水にならないように、一時的に水を止めるという役目を持っています。ですので皆さん、気づかれている方がいるかどうかわかりませんが、大雨が降って、しばらく経って、全然晴れているのに、一週間くらい京都府南部で洪水注意報が続くことがあると思うんです。それは滋賀で降った雨を、天ケ瀬ダムが少しずつ流しているので、京都の宇治川の水位が上がりますので、それに対して洪水注意報が出ているんです。
絹: そうかあ。無意識に流していてはいけない情報なんですね、あれは。
與: ですから今、ゲリラ豪雨みたいなものが結構ありますので、そこで宇治川の水位が高い時に、今度は京都市域に大雨がドンと降った時、出口の水位がもう上がってしまっているということも十分考えられるわけです。
絹: 言葉はあれですけど、さっきの糞詰まり状態。バックウォーターが生じやすくなるぞと。
與: そういうことも考えていくと、結構、京都の宇治川と桂川の囲まれた地域は、河川堤防でしっかり守られているという意識は持っていただきたいなと思いますね。
 

●堤防が切れるということ

絹: なんで與田さんをお呼びしたのか、今、やっとわかってきました。このまちづくり推進室の通奏低音の一つが、普段は目立たないけれども、京都のために頑張っている人たちをお呼びして、そのお話を聞くことを喜びとしている部分があるんですけど、與田さんみたいな方々も、堤防は普段機能していたら忘れられているけれど、一旦、溢水や破堤したらえらいことになるぞと見てくださっている人のお一人だったんですね。
與: 堤防は一か所切れただけでも、すごい被害が出るということがありますので、絶対守らないといけない。例えば平成27年に茨城県の鬼怒川という所で堤防が切れましたけれども、あそこは堤防が切れたのは、実は一か所だけなんですけど、40平方キロメートルという非常に広い所が浸水したんです。40平方キロメートルというと、京都で言いますと、京都駅から北側が全部浸かるくらいでして、4300人くらいがヘリコプターや船で救助されたという、非常に大きな災害になりますので。一か所切れただけなんです。だからこそ、一か所でも切れてはいけないために、やっぱり堤防というのは色んな技術を駆使して守っていくというところですね。
絹: 普段、こういうことをお聞きになったことが、まずないと思います。河川工学だとか、堤防をどう守るかということ、たまには我々一般人も意識した方がいいような気がしてまいりました。
それから京都は結構危ない場所という見方もできるよと教えていただきました。というのは、先ほど京都の地形の特徴の一つは、南に宇治川、西に桂川、大きな川に囲まれていて、その堤防の高さも一番高い堤防は8mでしたっけ。
與: 8mくらいある所もありますね。
絹: だいぶ前になりますけど、由良川が溢れて、バスの天井に逃げてというテレビ報道の画像をご記憶の方もあるかもしれません。あれって、8mじゃないですよね。
與: バスなので、3mないでしょうね。
絹: あのバス2つ積みか、1.5倍くらいにした上で、浸かってしまうということが、堤防が切れると、京都の南の方?
與: 南の方ですね。伏見の方は非常にやはり一回切れると、水に浸かりやすい所ですね。
 

■エピソード2  堤防って、地域によって全然違うんです

●木津川の堤防は砂でできている?
與: これまで国や府や市が一生懸命、堤防を強化してきて、まず堤防の形を大きくして、堤防の質を、体力をつけるために補強して、ほぼほぼ出来上がってきているところではあります。
絹: 国のマニュアル、設計指針だとかいろんな事は、いい所まで来ているよと。決して何もなされていないわけではないということを、まずは押さえていただきたいと思います。そのうえで、與田さんはそのマニュアルを越えていく視点も持った方がいいような気がするとおっしゃっています。これをイメージしていただきやすいようにするにはどうしたらいいかな。堤防の成り立ちが地域によってどれだけ違うかというところからお願いします。
與: 長年堤防を見てきて、堤防って、川によって全然違うなというところを、常に、最近特に感じています。人で言うと、姿かたちは似ているけれど、国籍が違ったら、適応するルールが違う、考え方が違うというところがあって、例えば木津川という大きな川がありますけれど、京田辺市や精華町の辺りに遊びに行かれた方がいるかもしれませんが、あの辺りの川の中にはすごく砂浜がたくさんあって、レジャーするには持って来いのいい場所なんです。木津川自体がものすごく砂の多い川なんですよね。昔の人は、堤防をつくる時には、その近くにある土をそのまま持って行ったので、その川砂で木津川の堤防というのは、ほぼつくられています。ですので工事の時に木津川の堤防を開けると、さらさらの砂の場合がよくあります。このさらさらの砂というのは、やはりイメージとしては、水を通しやすいので、ちょっと弱い感じがします。
絹: さっき與田さんに素人っぽい質問をしましたけれども、砂で大丈夫なんですかと。堤防の芯と言うか、真ん中に、水をシャットアウトするような構造を入れなくていいんですかと、自分が工学系でないのをモロばれの質問をしましたけれども(笑)。実際に木津川は砂だけなんですか?
與: 砂とそれに対する堤防の強化ですね。色々と工学的な対策を打って、堤防を強くしています。
絹: それは遮水シートをくるりんと巻いたり、それから矢板?
與: 遮水シートで巻いたり、矢板を打ったりしていますね。
 

●粘土質な宇治川堤防

絹: そうすると、さらさらとすごくきれいな砂がいっぱいの木津川堤防の一方で…。
與: 一方、宇治川は昔、巨椋池がそばにあったことからもわかるように、土としては結構粘土っぽい土が多いんです。粘土質の土で堤防をつくっているので、水が入りにくい堤防なのですが、逆に洪水で一回堤防の内側に水が入ると、今度は抜けないんですよね。ですからその水が残ったままになって、また次の洪水が来るということで、結局堤防の土の中がちゃぷちゃぷ状態になりやすい。逆に木津川は、洪水が終わって水位が下がると、すっと水が抜けて元の状態に戻るんですよね。
絹: 外から見る限りは、宇治川の堤防も木津川の堤防も同じように見えるけれども、洪水が起きた後は違うんですね。
與: 全然違うんです。
絹: それに対してどうしたらいいのでしょう。
與: もちろん今までのマニュアルでそれぞれの堤防に対して、それぞれの現象を調べて、それなりに合うような対策は打ってきたんですが、そういうマニュアルを越えて、川の特性、洪水がこうなるとか、全体的な土はこうだからといったことを考えた地域ごとのメニュー化みたいなものも、今後は必要なのではないかと思っています。
 

■エピソード3  マニュアルを越えて

●これからの河川堤防は地域の人の意見を反映する必要があります
絹: マニュアルを越えてという切り口は、與田さんの論で言いますと、地域住民とのかかわりだとか、地域によって変えていく必要があるよという話ですね。
與: そうです。川の特性を把握することも必要なのですが、地域性というのも重要であって、例えば堤防が危ない、堤防を頑張って強くしなければというところに入った時に、その地域の人が「うちの地域の堤防はコンクリートでガチガチにしてくれ」であったり、「もっと高くしてくれ」といった意見もあるかもしれません。東日本大震災の後に、海岸津波堤防を地域の人で高さをどうするか決めたように、これからの河川堤防もやはり地域の意見を取り入れる必要があるのかなと思っています。ただ、例えばコンクリートのガチガチの堤防にすると、景色も悪いし、散歩もしにくいし、今日みたいな暑い日はコンクリートの照り返しも暑いし、それでもいいの?という話ですとか、堤防を高くするとなると、1m堤防を高くするのに、6mの土地が必要なんです。
絹: 川沿いにずっと6mの幅が必要だということですね。
與: ですからそれに対して、地域の方が協力してくださいますかという地域性の話も必要になってきます。
 

●地域で合意し、皆でつくりあげる堤防―兵庫県揖保川の事例

絹: 先ほど打ち合わせの時に、面白い地域との共生と言いますか、協力関係のある地域の話をしてくださいましたよね。
與: それは兵庫県の揖保川という所で、そこは景観を重視する堤防をやっているんですけど、堤防は低いのですが、コンクリートの柱に「戸溝」みたいなのを切っていて、そこに畳を入れることによって、洪水の時は地域の人が出動して、畳を入れて洪水から守ると。
絹: 堤防の高さは足らないけれども、柱だけがボンボンボンと立っていて、その柱に溝が切ってあって、地域の人が畳をスコンと入れていくと。
與: 洪水の時に地域の人がみんな集まって、倉庫から畳を出して入れていく。そういう堤防にしてくれということで、役所と交渉して、未だにやっているところはあります。 
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絹: すごいことをやったんですね。短い距離じゃなくて、結構長いんでしょ?
與: 結構長いですね。何地区もありますし、延長としては2kmくらいある感じですね。
絹: その意思統一というか、大変だったでしょうね。
與: これは地域の協力がないと成り立たないやり方ではありますが、これからの堤防づくりについては、当然治水もありますけれども、やはりそれを越えた地域との一体性というものも考えた堤防づくりを考えていかねばならないと思います。やっぱり色んなつくり方があると思いますので、その辺も考えていって、それが新しいステップになっていくのではと思っています。
絹: リスナーの皆さん、今日初めてだと思います。河川工学の堤防をずっと見てくださっていた方が来てくださいました。マニュアルを越えていくということは、ひょっとしたら地域の人との協力関係が必要になってくる。そういう世界、国交省のマニュアルだけじゃなくて、それぞれの堤防の地域の砂の質にも関わる、そういうお話でした。是非是非このお話を頭のどこか、それから川を見られたら、思い出していただけたらと思います。與田さん本当にありがとうございました。
與: ありがとうございました。
絹: この番組は心を建てる公成建設の協力でお送りいたしました。ありがとうございました。
與: ありがとうございました。
投稿日:2019/08/13
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